竹内啓(明治学院大学国際学部教授・国際学部付属研究所所長)

人類の過去の歴史においては、しばしば疫病、すなわち伝染性の病気が発生し、猛威を振るって大きな損害を与え、歴史の流れに大きな影響を与えたこともあった。
たとえばペストは、14世紀から17世紀にかけて、ユーラシア大陸においてしばしば流行し、歴史に大きな影響を与えた。
それはモンゴル帝国の覇権の下に成立していた、東西交易システムを破壊し、中世の西欧キリスト教文明を衰退させた。また西ヨーロッパ諸国では、人口はしばしば3分の1、ないし2分の1も減少し、耕作地は放棄され、商業や手工業も衰退した。そして封建領主や騎士階級の経済基盤は失われた。
しかし人口が大きく減少したことは、土地に対する人口圧力を弱め、領主に対する農民の地位を高めることとなった。封建的秩序が弱まるとともに、有力な自由農民層が出現したことは、中世から近代への社会の転換のきっかけとなった。その意味ではペストは逆説的に歴史の推進力となったともいえる。
これに対して、スペインに征服された新大陸の先住民は、ヨーロッパ人が持ち込んだ病気のためにほとんど絶滅し、それとともに新大陸文明は滅亡してしまった。
−竹内啓(たけうちけい)先生のプロフィール−
専門分野統計学・計量経済学・日本経済論・科学技術論
論文・著書『現代経済入門』、新世社、2001年 『科学技術・地球システム・人間』、岩波書店、2001年