第3回 (2004年5月22日)
袖井 孝子(お茶の水女子大学 客員教授)

女性と男性では、老後に直面する問題が異なる。それは、生物学的な差違によるよりも、社会における役割や役割期待の相違、およびそうした役割を内面化する社会化のプロセスによって生み出されたものである。「男は仕事、女は家事育児」という性別役割分業の社会構造、性別役割分業を是とする社会規範、しつけと教育を通じて社会規範を内面化する社会化のプロセスを通じて、人は社会に適応していく。老年期に直面する問題が、女性と男性で異なるのも、大部分はこうした性別役割分業の社会構造、社会規範、社会化のプロセスによるものである。
講義では、老年期における夫婦の関係に焦点を当て、仕事役割を失った男性と母親役割を失った女性との間に生ずる意識のズレや葛藤、それを生み出した要因などについて述べる。日本の高度経済成長をもたらした一因に、「夫は企業戦士、妻は銃後の守り」という猛烈社員と専業主婦の夫婦があるといわれる。現役の時代には、性別分業の夫婦は、まことに好都合だ。夫は家庭を顧みることなく仕事に専念でき、会社の業績を上げることができる。妻も自分の自由になる時間があるおかげで、仕事、趣味、地域活動などに専念でしる。しかし、夫が定年になって、夫婦が共に過ごす時間が増すと、両者のギャップが明らかになり、その相違に愕然とすることも少なくない。定年後の夫婦が直面する葛藤、それを生み出した要因、およびその克服方法などについて考察したい。更年期、老年期の鬱病、定年離婚、介護問題などについても触れる。
[参考文献]
袖井孝子『変わる家族 変わらない絆』ミネルヴァ書房、2003年
−袖井孝子(そでいたかこ)先生のプロフィール−
専門分野老年学・家族社会学
論文・著書『日本の住まい 変わる家族』、ミネルヴァ書房、2002年 『変わる家族 変わらない絆』、ミネルヴァ書房、2003年 「社会保障の支え手としての女性」、『健康保険』、2003年2月 「少子社会の課題と将来」、『週刊社会保障』、No.2246、2003年8月