第6回 (2005年6月18日)

『「平和主義」とはどういうものか』

竹内 啓(明治学院大学国際学部教授)

1.平和主義の目的
 平和主義の目標とする平和とはなんだろうか。それには狭い意味と広い意味がある。狭い意味では「平和」とは「戦争のないこと」を意味する。そうして「戦争」とは国家(或いはそれに当たるようなもの)の間の暴力行為と考える。このような戦争には一定のルールがある。「テロリズム」は「戦争」ではなく「犯罪」である。「戦争」と「犯罪」は本質的に異なる。「戦争」においては敵対する両者は本質的に対称的な立場にあるが、「犯罪者」と「権力」は完全に非対称である。それをことさら混同することは正しくない。

2.より広義の平和
 「平和」をより広く捉えるならば、それは「暴力のない状態」とする考え方もある。その場合には更にあからさまな暴力だけでなく、暴力を背景にした抑圧や、そのための制度も含まれる。また国家の暴力だけでなく、民族、人種、階級、性などの違いに対する抑圧も含まれる。つまり「平和」とは一切の「暴力による抑圧」のない状態ということになる。
 更に広く解釈すれば物理的な「暴力」だけでなく、経済力、或いは慣習、文化などの「力」による抑圧もある。従って「真の平和」とは「このような力による人権の侵害が一切ない状態」と定義できるかもしれない。

3.平和主義者の立場
 「平和」の意味を広く解釈することは、より高い理想を主張するように思われるかもしれない。しかし上記のような「真の平和」を主張するとすれば、それが望ましいことには誰も反対しないが、しかし現実にそれがどのようなことを意味するか疑問である。平和主義は「平和」の意味を狭く定義することによってのみ、具体的な目標とそのための手段とを考えることができる。

4.平和主義者の理想
 「平和」を目標とする根拠は、人命、人権の尊重、すべての人の権利の平等である。それらは国家、民族等の集団の「名誉」等に優先しなければならないと考える。したがってまた「平和」は望ましい社会の必要条件ではあるが、それだけで十分条件とはならない。他の条件も「平和主義」とは異なる旗印の下で追求できなければならない。

5.平和主義者の具体的目標
 現実的な平和主義者は具体的な状況の中で政治的文脈に基づいて、観客的な「真の平和」ではなく「より平和な」、つまり戦争の危険をより小さくし、暴力をより少なくする状態を作り出すことに努めなければならない。

 

−竹内啓(たけうちけい)先生のプロフィール−

専門分野

 統計学(特に統計的推測理論)、計量経済学、日本経済論、科学技術論

論文・著書
 『高度技術社会と人間』、岩波書店、1996年
 『統計で見る世界 ―21世紀の展望』、東洋経済新報社、1999年
 『現代経済入門』、新経済学ライブラリー1、新世社、2001年