第3回 (2008年6月7日)
門村 浩(東京都立大学名誉教授)

【講義の要旨】
1) 講義の前半では,5億年前まで遡る大陸移動とアフリカ大陸内の地殻変動が引き起こした気候変動による環境の変遷,280万年前頃以来の極氷床の盛衰に対応した環境の変遷を概観した後,最後の氷期の最盛期であった2万年前頃以降における熱帯アフリカの森の変遷を詳しくたどる.
2) 2万年前頃の最終氷期最寒冷期の熱帯アフリカは,全般に著しい乾燥気候を経験した.サハラの砂漠は,数百キロも南方に広がり,熱帯雨林地帯も著しく乾燥し,森林は広くサバンナやステップのまばらな植生で置き換えられた.密林が存続し得たところは,ギニア湾岸とコンゴ盆地に散在した降雨条件と土壌水分に恵まれた地域に限られた.「森林避難場所」(forest refuge)と呼ばれるこうした地域では,その周辺の森林に比べて動植物の種の多様性が高く,また固有種も多い.
3) 最終氷期末からの地球温暖化時代,12,000〜5,000年前の時期は,2回の短い寒冷・乾燥イベントを除いて,現在よりも相当に湿潤であった.熱帯雨林は完全に回復して南北に拡大した.サハラの砂漠は,北上したステップやサバンナの植生で広く覆われ,ホガール,アイールなどの山塊には北からの地中海種樹木も広がった.チャド湖などの湖沼が大拡大し,今の砂漠の真ん中でも人類が漁労や狩猟に依拠して生活することができ,数千年前には牧畜も始まった.完新世初〜中期の「緑のサハラ」と呼ばれる時代である.
4) しかし,地球気候の冷涼化が始まった5,000年前頃から顕著な乾燥化が始まり,砂漠は再び南に拡大するようになり,人びとは湿潤な南方と水に恵まれたナイル川の谷へと移動して行った.
5) 現在の熱帯雨林地帯では,3,000年前頃より,気候の乾燥化と移動焼畑耕作を主体とする人間活動の影響により,森林の退行と人為起源サバンナの形成が始まった.その時期は,バントゥー語を話す民族集団の赤道森林地帯への移動・拡散とアブラヤシ栽培の開始期と一致する.
6) ヨーロッパの植民地となった約100年前以降は,商業伐採,プランテーション,換金作物の導入,人口増に伴う焼畑休閑期間の短縮などの圧力により,森林の消失が加速されてきた.
7) 講義の終盤では,こうした環境と森の変遷史と関連づけながら,地球温暖化が進む中で揺らぐ気候とグローバル化時代の真っ只中で,アフリカの森,特にコンゴ盆地の熱帯雨林が直面している資源管理と自然保護とにまたがる問題(戦乱下でのコルタンなど稀少金属の違法採掘・密輸,ブッシュミートと違法伐採の問題,国際協力による管理計画など)について議論したい
報告書 資料
−門村 浩(かどむら ひろし)先生のプロフィール−
専門分野環境変動論・国際環境論・自然地理学
論文・著書「環境変動からみたアフリカ」、水野一晴(編)『アフリカ自然学』古今書院、2005年、 47-65頁 「アフリカにおける2003年の大雨・洪水災害」『地球環境』Vol.10 No.1、2005年、 29-41頁. “Climate anomalies and extreme events in Africa in 2003, including heavy rains and floods that occurred during northern hemisphere summer”, African Studies Monograph, Supplement, 30: pp. 165-181, 2005. “Vegetation pattern, landforms, and land degradation in the Keriya-Niya River area, southern part of the Taklimakan Desert, China”, in H. Takamura, (ed.), Changes in Natural Environment and Life in Oases of the Taklimakan Desert, Bunkashobo-Hakubunsha, 2005, pp. 77-94. 「サハラ砂漠の自然生態」、池谷和信・佐藤廉也・武内進一(編)『アフリカ I 』(朝倉世界地理講座−大地と人間−11)朝倉書店、2007年、204-220頁 「アフリカにおける近年の異常気候イベント」『国際農林業協力』 Vol.30 No.2、2007年、2-9頁