2016年度 入学式 式辞

明治学院大学 学長  松原 康雄

新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。また、保証人・ご家族の方々にも心からお祝いを申し上げます。本学はキリスト教に基づく人格教育を建学の精神としています。そのため、入学式もチャペルで礼拝形式にのっとって実施しております。会場スペースの関係から保証人・ご家族の方々にはチャペルにお入りいただくことができないことをお詫びします。さて、新入生の皆さん、皆さんは学部にあっては、4年間、大学院にあっては2年・3年あるいは5年間しっかりとした学びをしていただきたいと思います。学生生活では、学修もそうですが、同級生、先輩・後輩、教職員との交流もまた大切です。主体的・能動的なキャンパスライフを展開し、多くの友人やゼミ担当の先生など生涯交わるであろう人々を得てください。私も、学生時代に多くの友人を得ました。そのなかの一人とは、子どもが大学に入学したあたりから、お互い夫婦で年1回の旅行をすることを10年ほど続けてきています。だいたい2泊3日で、目的地での運転は私の役割です。昨年は、徳島県の鳴門の渦潮をみて、淡路島経由で姫路城を見にいってきました。鳴門の渦潮も姫路城も一度は訪れるべき価値がある素敵なところでしたし、旅そのものもいつものように楽しいものでした。

ところで、私は高所恐怖症です。ご存じのように四国側から淡路島に渡るには海峡を越える橋、特に淡路島から本州の明石方向へは明石海峡大橋を渡る必要があります。海面から約100メートルあるこの高い橋を高所恐怖症である私は、自分で運転することは到底できず、鳴門から淡路島へはタクシー、淡路島から舞子・明石には高速バスで移動し、その後はレンタカーという方法で移動をいたしました。友人夫妻は、車は運転しないのですが、別に高所恐怖症ではなく私の妻も含めバスのなかから明石海峡大橋からの眺望を楽しんでおりました。私はもちろん、乗り込んだ時点で窓側は妻に譲り、橋を渡るときはなるべく外を見ないようにしておりました。淡路島の洲本というバスターミナルで高速バスに乗ったのですが、比較的車内はすいていました。その後、バス停毎に乗客が乗り込み、最終的には通路の補助いすがすべてうまるほどになっていました。私は、こんなに高所恐怖症の仲間がいると意を強くしました。

しかし、そんなことはありません。明石海峡大橋を渡る高速バスの利用客の乗車理由は高所恐怖症でからである。これは、高校までの採点評価基準では限りなく0点に近いものであったと思います。しかし、高所恐怖症である私がそのバスに乗っていたこともまた事実です。乗客は多様な事情や理由で高速バスに乗っていたと思います。比喩的ですが、乗客には様々な理由があるということを理解し、それぞれの理由を探っていこうとする姿勢が大学・大学院での学修の基盤であると思います。一つの事象に対し多くの「解」、すなわち「答え」が存在します。それらを識り、自分はどれを選択するかを決めていく、このプロセスを的確にたどる力を養うことが大学・大学院時代の学びの目的となります。多様な人間が存在するということやその多様性を承認することが現代社会における学びにとって重要なことがらです。また、一つの事象へのアプローチも多様で、先ほどの高速バスの話も明石海峡大橋の経済的・社会的効果から考えることもできますし、文化的な影響や環境への影響などを考察することも興味深いアプローチです。

翻って、文学(経済学・社会学・国際学・法学・心理学)という学問領域も学びは多様であると思います。積極的に学びに取り組んでください。それを指導し、支える優秀な教授陣を本学では有しています。皆さんへの働きかけや、質問への対応も十分に行ってくれるはずです。それぞれの分野で自分自身が感心を持ったテーマに「なぜ」を問い、そしてそれらを理解し、課題があれば解決に至る道筋を考えていくことが大切です。

しかし、大学・大学院での学びは、教室の中の学修だけでは完結しません。学びを語り、自分の考えを確認していく、他者の考えを聞き、その考えに耳を傾け、考え方を修正するあるいはより確かなものとしていく作業が必要です。大学における多くの人々との交わりのなかで学びは完結します。また、法律や社会的制度だけでは世の中は動かず、その下での人々の営みがあってこそ日本や世界は動いていきます。

私は、児童福祉を専門としていますが、子どもの成長発達のための施策や子育て支援、虐待対応法改正や制度策定のお手伝いをしてきました。この過程のなかでも、現場や子どもや親からの話は貴重な示唆を与えてくれました。楽しい思い出もあります。地元の自治体の観光振興策を中学生と話し合ったときに、これからの「ウリ」に関する意見を求めたところ、なかの一人が「心霊スポット」で売り出すという意見をくれました。同席していた市長はびっくりしていましたが、私は新鮮な発想だなと感心しました。児童福祉施設の第三者評価方法をめぐっても子どもから貴重な示唆を受けたことがあります。各種委員会では、専門家や行政関係者と同様に、住民代表や保護者代表の意見を大切にしています。どのような法律や制度であれ他者、人間とのかかわりが必要です。この点は、どの学問分野でも共通していると思います。まず、他者の言葉を「聴く」ことからスタートし、お互いの意見を交換することが大切です。

学びと多様な他者との交流は大学生活の2本柱といえるでしょう。本学が教育理念としてあげる”Do For Others”他者への貢献も他者を理解することが前提であり、それとともに自分を識り、まさに聖書の”Do For Others”の言葉の前に記された自分が他人にしてほしいことを明確に理解していくことも必要な取り組み課題です。大学は、到達点ではなく、これからのキャリアを考え、計画し、次のステップを踏み出す力を得る場です。皆さんが豊かな大学生活を送られることを願っています。