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現代を斬る

海のプラスチック汚染-マイクロビーズに焦点をあてて

マイクロビーズの環境リスク

近年、北極から南極にいたるまで、地球規模での海のプラスチック汚染の広がりが明らかとなっている。海での観測結果をふまえて作られたモデルからは、すべての海に浮遊するプラスチックの量は27万トンにのぼると推定されている。

化粧品、洗顔料、歯磨き剤には、肌の汚れや古い角質の除去などの洗浄効果の向上のために、微細な研磨剤が添加されている。研磨剤にはかつては天然素材由来のクルミの殻やアプリコットなどの果実の種子が使われていたが、十数年前から、安価で、粒径が均一なプラスチック製の研磨剤(マイクロビーズと呼ばれる)が使われるようになった。

マイクロビーズは1ミリ以下の超微細なプラスチック粒子で、体積が小さく、軽量で、また数が多いなどの性質を有するため、家庭の洗面所やバスルームで使用されると、それらを有効に収集して処理することはできず、海、河川や湖沼などの自然環境に流れ込んでいく。ポリエチレン製やポリプロピレン製のマイクロビーズは海水よりも軽いため、海洋環境において広く浮遊・拡散し、プランクトンによって摂取され、プランクトンは海洋生物によって摂食され、海洋生物の体内に蓄積し、成長を阻害し、ひろく海洋環境や海洋生態系にリスクをもたらす。

ポリ塩化ビフェニル(PCB)などの残留性有機汚染物質のプラスチックへの吸着も確認されている。プラスチックを魚や海鳥が摂食すると、体内でPCBが脂質に蓄積したり、腸閉塞や胃潰瘍をきたし、必要な栄養分を十分に吸収できなくなり、成長を阻害され死亡したりする可能性が指摘されている。プラスチックが生物にもたらすリスクがどの程度であるかについてはまだまだ研究途上にある。

東アジア海域のマイクロビーズの浮遊量は約172万個/㎢で、他の海域と比べて桁外れに多い(北太平洋は約11万個/㎢、世界平均は約6万個/㎢)。

マイクロビーズ規制の動き

自然環境へのマイクロビーズの新たな流入を止めるために、化粧品、洗顔料、歯磨き剤などに含まれるマイクロビーズを対象にした製造・供給・販売・輸入の禁止などの法的規制、業界の自主規制、天然素材由来の代替品への移行などが世界各国で始まってる。米国、英国、フランス、オーストラリア、またアジア地域では台湾や韓国は、マイクロビーズ入り製品の製造・販売などの法的規制を既に導入しているか、導入を検討している。

また、各国におけるマイクロビーズ入り製品の法的規制を受けて、ジョンソン・アンド・ジョンソン、P&G、ユニリーバ、ロレアルなどのメーカーは、天然素材由来のスクラブ剤に転換するなどの方針を示している。

日本ではどうか。現在はマイクロビーズ入り製品の製造や販売などの法的規制は行われていない。一方で、化粧品メーカーの業界団体は会員企業に対して自主的な対応を促している。たとえば、花王が洗顔料に使用しているスクラブ剤は天然素材由来の成分(セルロースやコーンスターチ)で開発したもので、マイクロビーズには該当しないという。

白金通信2018年12月号(No.497) 掲載

鶴田順 Tsuruta Jun

法学部准教授。
専門は国際法。
日本における国際法規範の実施に関心がある。
近著に『国際法講義』(成文堂)、
「アジアの海洋秩序をいかにして維持・構築するか」『外交』48号など。

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