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あの日の私

大学時代の一つ一つに意味がある

私は、大学1年生から、「将来、何を仕事とするか」を考え始めました。それまで大学に進学することだけを目標にしており、その先が考えられていなかったのです。現在の専門である心理学に至るまでの道のりは平坦ではありませんでした。

18歳から22歳まで私は1回目の大学生時代を送りました(卒業し2年間の会社勤めの後、2回目の大学生時代を送ります)。社会科学を学ぶ学科に所属し、サッカーサークルに入り、結婚式場のウェイター、植木屋の手伝いなど様々なアルバイトをし、それなりに楽しい学生生活を送っていました。一方、頭の中では「将来、自分は何をすべきか?」「どのような仕事をして生きていくのか?」などを一人で悩んでいました。

答えが出ないまま、3年生の後半になり就活の時期になりました。私は気乗りせず、同級生よりかなり遅れ、4年生になってから重々しい気持ちで就活を始めました。内定をとれず落ち込む私を見かねた兄から、就活のやり方を教えてもらったお陰で何とか内定が得られ、卒業し企業に就職しました。企業では多くの方にお世話になり、かけがえのない同期の友人が得られましたが、働きながらも大いに悩み、様々な方に相談に乗っていただきました。試行錯誤の結果、心の健康増進に貢献するために心理学を学ぼうと決断し、退社して別の大学の心理学科3年に編入学しました。その後、大学院に進学し、心理学の研究者を目指すようになりました。

結局、最初の大学4年間では心理学までたどり着かなかったのですが、振り返ると、大学時代に好きでやったことの中に今につながるヒントがあったと感じます。一つ目がアルバイトで貯めたお金で行った海外旅行です。タイ、マレーシア、中国、ネパール、インドなどを回り、様々な人に出会いました。タイでトレッキング・ツアーに参加したとき、ドイツの女性が「エンジニア」と自己紹介したのを聞き、「これが自分の専門」と言える仕事を持ちたいと感じました。その他にも多くの方と色々な話をすることで少しずつ世界が広がり、心の琴線に触れることが何なのか理解が進んでいった気がします。

二つ目が文化人類学と政治思想史の授業です。1回目の大学時代は、それはそれは不真面目な学生だったのですが(詳しくはとても書けません…)、この二つの授業は面白くて、一心不乱に受講しました。文化人類学の先生が「授業を受講し終えた後には、文化人類学的な見方ができるようになり、世界の見え方が変わる」とおっしゃり、その通りになったことに感動しました。学問の楽しさを体験できたことは大きかったです。

今振り返ってみると、大学時代のその時その時の、一つ一つが今につながる大事な経験だったのだと感じます。大学時代に経験すること、考えること、悩むことに無駄なことはなく、全てに意味を見出すことができ、それらを通して、自分が形作られていくのだと思います。

特にやって良かったと思うことは、様々な人と出会い話したこと、アルバイト、サークル、就職活動、会社勤めなど様々な経験をしたこと、途中から切羽詰まって、勇気を出して色々な人に相談したことです。人生は様々な人との関わりによって成り立ち、人に支えられて進んでいくものだと感じています。

心理学部教授 伊藤 拓


大学1年次に参加したタイ・チェンマイでのトレッキング・ツアーにて。
ツアーの一部では、象の背中に乗って森の中を移動しました。


現在の先生。

白金通信2016年7月号(No.485) 掲載

 

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