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現代を斬る

「18歳からの選挙権時代」に向けて

本年7月の参議院選挙では、70年ぶりに選挙権年齢が改められたことを受け、新たに240万人の18・19歳が有権者として加わった。この法改正は若い世代が積極的に求めたものというより政治家側の判断が強く働いた結果であった。しかしながら、従来消極的にしかなされてこなかった政治教育に光が当たり、将来有権者になる層を含めた主権者 教育の必要性が唱えられるようになったことは制度導入の肯定的変化と捉えうる。

政治参加とは?

それでは主権者教育として何が求められるだろうか。主権者として政治に関わる方法はやはり「政治参加」であろう。政治参加とは、多かれ少なかれ政策決定に影響を与える行為である。つまりそれは私達の意思を代表者に伝える行為である。その具体的な形態としては「投票参加(選挙での参加)」と「投票以外の参加」に分けられる。投票以外の参加とは選挙運動、地方自治法による直接請求制度や、集会への参加、デモ、陳情や請願、行政が用意する各種市民参加の場などである。つまり今回の法改正で18・19歳は、投票参加だけでなく選挙運動や条例の制定請求、議会の解散、首長や議員のリコールなどにも参加できるようになった。また投票以外の参加には年齢問わず参加できる制度(デモや陳情、請願、パブリックコメントなど)がある。

今回、参院選に向けて主権者教育の必要性が熱心に説かれたが、選挙の方法の説明など「投票参加」に焦点が当たりすぎていた。また18歳という年齢が強調されていた感がある。無論、投票参加は代表を選ぶ重要な制度であり、従来よりも多くの取り組みがなされたことは評価できる。しかし、実際には選挙がない時期の方が長い。また投票外参加には年齢が問われないものも多く含まれる。したがって、より早い段階からこうした二つの政治参加を使いこなせるような教育が必要であろう。

主権者教育として必要なこと

そのためには、まずは国や地方の政治過程がどうなっているのか、重要な争点として何があり各政党・会派の争点における配置図はどうなっているか、争点が私達に及ぼす影響は何か、政治過程とその影響を動態的に理解するための知識と情報収集のすべを学ぶ必要がある。そして意思表明に適切な手段は何かを知り、それができるための技能を学ぶことである。さらに、こうした行動に向かうための態度(公の事柄への関心や関わろうとする意欲等)の醸成も必要であろう。

以上を学ぶ上で、地方の政治過程は良い対象となりうる。自治体は身近と言われながらも若い世代の関心は国の方に向きがちである。しかしその政策決定は、駅前の違法駐輪や保育園の問題、防災対策など日々の生活に関わるものが多い。自分の問題に引き付け具体的に考える機会は、公の事柄への興味や関わろうとする意欲を高めることになろう。また政策過程を理解することは行政や議会の意見収斂における葛藤を学ぶことにもなり、信頼や監視の目が育つことも期待できる。選挙の時のイベント的な取り組みで終わりではなく、選挙とそれ以外の時期の参加もつなげられるような、息の長い取り組みが必要であろう。

白金通信2016年12月号(No.487) 掲載

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中谷美穂 Miho Nakatani

明治学院大学法学部准教授。
専門は政治行動論、政治過程論。特に人々の政治参加を促す要因や参加の効果、議員と有権者の代表に対する認識比較等を研究している。政治学科では政治心理学、社会統計学、社会調査論などを担当。

 

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