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コラム「キャンパスCLINIC」

おお~ご隠居、そんなところで日向ぼっこなんていいね~

白金通信2006年3月号

「おお~ご隠居、そんなところで日向ぼっこかい。 病院を若先生に譲って悠々自適だね。
 あれ? それにしちゃなんだか冴えない顔だね」
「おお、熊さんか。いや、医者ってのは仕事してるのが一番だね。暇になるといらんことを考えてしょうがないよ。」
「いらんこと?若先生に代替わりして病院もでかくなって心配なんてねえだろうに。」
「そうさね、人様にはそう映るか。だがね、どうも息子のやり方は気に食わなくてね。」
「そうかあ?若先生、いっぱい検査していっぱい薬くれていいって評判だぜ。」
「熊さん、検査は病気を見つけるためにあるんだよな?例えばタバコ吸ってコレステロールも血糖も高い60台のおっさんと
 40台のタバコも吸わない、血糖もコレステロールも低い若い奥さんとが、同じ「胸が痛い」と病院に来たとする。
 この二人に負荷心電図をしたところ、二人そろって「陽性」、つまり狭心症の疑いありと出たとする。
 二人に同じように、さらにお金も時間も、またある程度痛みも伴う検査をする必要があると思うか?」
「怪しいなら二人とも検査するべきだろう?」
「そう考える医者もいる。息子がその典型だ。だからどんどん医療費がかかり、病院は儲かり、大きくなっているんじゃよ。」
「確かに金がたくさんかかるのは、いい気しないけど病気の可能性をみるなら、ある程度金がかかるのは仕方ねえよな。」
「だから素人は文句もいわねぇが、わしゃこれでも科学者の端くれだからそれが無駄なことを良く知っておる。
 同じ検査をしてもその検査をする前の検査前確率つまり有病率が高いと結果は信頼できるものになるが有病率が低いと多くの偽陽性、
 つまり、結果は陽性でも実は間違いって場合がすごく多いんじゃ。
 さっきの例では六十台のおっさんはめちゃめちゃ有病率が高い。
 だから陽性にでればこれは次の検査をするべきじゃが、四十台の若い奥さんの方の有病率は非常に低い。
 もし陽性にでたら検査が間違いなのでは?と検査の信憑性を疑うほどで、つまり検査はそれほど前もって疑わしい患者さんにしてこそ
 検査の意味がある、ということじゃ。」
「無駄ならお医者が無駄だといってくれればいいじゃねぇか?」
「検査すれば病院は儲かる。それに無用だという説明をするのには結構時間がかかって面倒だ。
 それに万が一の低い確率で本当の病気がみつかると患者がやってくれといった
 検査をしなかった医者は、早速やぶ医者扱いで訴訟の種じゃ。」
「う、う~ん」
「つまり医者だけでなく患者の方もある程度の知識と理解力がないと非常に無駄な検査が蔓延するんじゃよ。」
「じゃぁ、明日から検査勧められたらご隠居にいちいち聞きにくることにするよ!んじゃ、忙しいから。またそんとき!」
「これでよかったんじゃろか???」

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