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フィールドスタディC 最優秀賞 : 坪井満直

中国ではどんなものが売れるのか?

事前の計画予定表には、「中国と日本では商品を選ぶポイントに違いはあるのか?」をテーマにしたが、それにはまず中国でどんなものが売れているのかを調べることにした。

中国でどんなものが売れるかの最初の例として、2002年に創立し、わずか4年で生産台数30万台を突破した北京現代を挙げたい。

北京現代が参入した当時、中国の自動車市場は平均価格が高く、高所得層は高級車が乗れたがそれ以下の層はどうしても中級車を持つのが精一杯、という状況であった。しかも外国系の自動車企業は本国や他の外国で販売されているモデルよりも若干古いものが出回っていた。

そんな中国の自動車市場に、2002年という他の世界の主要自動車メーカーに比べ大きく出遅れた参入となった北京現代は、それまでの中国の中型クラスの平均価格を大きく下回る「ソナタ」「イーラント」等を次々と発表した。

この奇策とも言える北京現代の低価格戦略は、中国の中流層、つまり生活が豊かになるにつれてより大きく、よりデラックスな車が欲しい、けれど高級車には「手が出ない」人たちの要望にうまくマッチしていた。実際、北京現代の主な顧客層は月収一万元前後のホワイトカラーと呼ばれる外資系企業の社員や自営業の層が一番多い。広報の方によると、中国人のお客が車に求めるものは技術、デザインであるという。確かに小型クラスよりも中型クラスのほうが、技術はともかく、デザイン性は大人が乗る車としては断然上である。しかも今まで高くて手が出なかった「高級車」の雰囲気、その上他の外国メーカーと違い韓国本国と同様の最新モデルが購入できる。中国の中流者層はさぞ喜んだことであろう。

この北京現代の例で言えることは、中国の消費者は中級車よりも高級車、古いモデルよりも新しいモデルといった「誇り」「プライド」を大事にしていることである。

通勤や子供の送り迎え、そして週末には家族を乗せてドライブを楽しむであろう車は外観のデザイン、もっと細かく言えば周りへの世間体、そして自分の面子を保てるものでなければならないのである。

これは携帯電話にも言えることで、中国の携帯電話市場に大きなシェアを持つサムスンのユーザーによると、「外観がファッショナブル。着メロの音も良く、液晶画面もシャープ。こんな携帯電話を友達の前で取り出すと、みんなの視線が自分に集まるのがわかる。そのカッコ良さがたまらない」だから多少無理してでもぜひ一台持ちたいというのだ。この事も周りに対するプライドや面子を大事にしている一例である。

中国人にとって秋のもっとも大切な年中行事の一つに「年秋節」がある。この日に満月を愛でるのは日本と同じだが、中国では遠方から親戚が集まり、団欒しながら月餅を食べる習慣がある。親しい人同士では月餅を贈り合う習慣もある。

実はこの月餅、「食べる」よりもっと重要な役割がある。

中国のスーパーやデパートの月餅売り場を見てみると、絢爛豪華なラッピングを施された月餅と、これまた質素なパッケージに包まれた月餅との二種類が並んでいる。これはいうまでも無く前者は人に送るためのものであり、後者は自分や家族が食べるためである。この二つの売り場での値段は10倍もの値段の差があった。私個人、お土産に月餅を買おうとお店のカタログを見たところ、豪華な箱に入っている贈答用の値段の高さに「これは学生が買えるものではない」と驚いたものだ。一時期は金箔に包まれた月餅が飛ぶように売れたという。そのあまりの行き過ぎの状況を見かねた中国の地方政府は、近年、相次ぎ「月餅過剰包装禁止令」を出した。

次に、中国のテレビを見ていて気づいたことがあった。中国の全国ネットのチャンネルの一つに中央電視台という放送局がある。それは中国のNHKとも呼ぶべき国営放送なのだが、NHKと決定的に違うのがCMが入るという点である。これは企業や商品からしたら喜ぶべき状況だろう。なぜならテレビを通じて「国が保証しているブランド」の“お墨付き”を頂けるのだから。

この仕組みをうまく利用した例はないかと調べたところ「統一潤滑油」の例があった。

潤滑油とは車のエンジンオイルのことで、中国やモービルなど海外ブランドが圧倒的なシェアを持っていた。しかし中国の道路事情は海外とは異なり、海外メーカーの潤滑油は必ずしも中国市場で売れているわけではない。「統一潤滑油」の製造元である北京統一石化は試行錯誤を重ね、中国市場に適した車両用潤滑油を開発した。

しかし北京統一石化の知名度は低く、「統一潤滑油」もほとんど知られていなかった。良い商品でも、すぐに売れるわけが無い。が、彼らに思いもよらないチャンスがやってくる。

2003年3月20日、アメリカがイラク侵攻を開始した。北京統一石化はこれを千載一遇のチャンスと見て、一日で広告を製作。中央テレビのイラク侵攻中継番組で流した。たった5秒のテレビ広告は訳すと「摩擦はいらない、潤滑をくれ」というキャッチフレーズが大写しになるだけ。「摩擦の結果としての戦争」をうまく捉えたこの言葉はたちまち流行語となった。程なく統一潤滑油はエンジンオイルでトップシェアを獲得した。

国の“お墨付き”つながりで紹介させてもらうと、中国の西南にある西双版納の事例がある。西双版納はメコン川が近くにあり、タイやミャンマー、ベトナムと友好が深く、また西双版納で生活しているほとんどの人が少数民族の一つであるタイ族である。

この地方はもともと農業の三期作や天然ゴムの生産が盛んだったが、地域のさらなる発展を目指す際に、農業だけでは無理と判断していた。しかし、今ある自然環境を無視してまでの工業化は不可能であった。

そこで、第三次産業である観光事業に力を入れることにした。政府の観光援助の下、独特の温帯の気候を生かし、さまざまな植物が見られる植物園や、タイ族の村での観光、夜には少数民族の人々によるショーを行う劇場も建てられた。タイの文化とも深くかかわっている西双版納地方は、中国の主民族である漢民族の興味を集め、わざわざ国外に行かなくても多文化との交流ができると国内旅行者を呼び寄せ、観光を主とした第三次産業は今や第一次産業の収入を追いぬかんとしている。その証拠は夜のショーの満員ぶりをみて直に感じ取れた。

三つめに、中国で商品が売れるかどうか決まる大事なポイントに「ネーミング」がある。最も成功したといえるのが「可口可楽」、炭酸飲料のコカコーラである。これはただ読み方を再現しただけでなく、植物の名前でしかなかったCoca Colaが「おいしくて楽しい」という意味をも付加することに成功している。

今回フィールドスタディで市場調査をした場所の一つに、スーパーマーケットの「家福楽」があった。「家福楽」とは、フランスのスーパー大手「カルフール」の中国名。「幸せで楽しい家」を連想させる「家福楽」は既婚のカップルをターゲットに中国小売りチェーンの最大手といわれるまでの急成長を遂げた。

この二つの例からわかるように、漢字の国である中国で商売を成功させるためには、なんといっても中国の文化や民族性にうまくはまるネーミングが必要だ。車でいえば、国を問わず、お金持ちであることの決定的なステータスである外車のベンツとBMW。ベンツの中国名は「奔馳」、疾走する意味の熟語である。そして、BMWといえば「宝馬」。名馬を意味する単語だ。名馬のような高級車。人に自慢するならそんな素晴らしい名前を持つ車を誰でも買いたくなるだろう。

中国と日本では商品を選ぶポイントに違いはあるのか?

周りに対する「プライド」と「面子」を大事にし、それらを満たせる商品、自分たちの文化にあった名前を持つ商品が広く受けいれられる中国。そんな中国と日本との売れる商品の決定的な違いがあった。それは「生理的な欲求」を満たすものの違いである。

日本では、消費者にとってマクドナルドもケンタッキーもピザハットも、もうあって当たり前、珍しさも新鮮味も無い、食べるだけの「生理的な欲求」を満たすだけである。そして今では郊外で有機栽培で作られたキャベツやトマトがブランド化している。

それに対して北京や上海ではかつて日本が経験したように、マクドナルド、ケンタッキーやピザハットが都市の新しい風俗となる一方で、身辺の農家で作られた野菜は逆に「生理的な欲求」を満たすものに過ぎない。

携帯電話にしても、ズームする際のカメラ画像がいかにはっきり映るかを追い求めるのが日本なら、外見のコンパクトさやカッコ良さを求めるのが中国。商品の機能美に心惹かれるのが日本なら、高級感を持った外見美に心惹かれるのが中国である。

その土地の環境、文化、生活習慣、その土地に住む人々の考えに違いがあるように、中国と日本では商品を選ぶポイントに違いがあるのは当然のことである。たった二週間であるが、少しでも中国各地の環境、文化、生活習慣、人々の考えに触れられたことは大きな経験になった。

太極拳について

さて、もう一つのテーマである太極拳。「相手の力を受け流し、その力を利用して相手に攻撃を与える」そんなフレーズに「市場情報を見極め、それに合わせた戦略を打ち出していく」というマーケティングの仕組みを感じ、前々から関心を持っていた。

今回北京大学に滞在しているときに流派の一つである楊式の簡略式を教えていただいた。

体験を終えた後、北京大学の学生である王さんに話を聞いてみると、一年生の男子は太極拳は必修である。さらに太極拳に興味を持つ留学生は多く、大学では太極拳のサークルがいくつか作られ、朝や夜にサークルで集まり、主に今回学んだ楊式よりも動きの多い陳式を練習しているのだという。

さらに話を聞くと、太極拳は基本的に仕事を定年したお年寄りが老後に行うもので、現役のサラリーマンや学生はその動きのゆっくり加減から普段の忙しい生活のリズムに合わないらしく、若い人で太極拳をしている人は珍しいそうだ。実際やってみて、ゆっくりした動きが多いとは私も感じたが、それがじれったく思う人もいるのだろう。

太極拳は中国の人にとって、日本人がかつて夏休みに朝早くおきて公園で行ったラジオ体操のような懐かしい存在ではなく、仕事を退職し、何か趣味を始めようと盆栽やゲートボールに精を出すのと同じ、老後のささやかな楽しみなのだ。

参考文献:徐向東、『中国で「売れる会社」は世界で売れる!』、徳間書店、2006年