フィールドスタディC 最優秀賞 : 金菊香
中国は社会主義という日本とは異なる政治体制を持っている。1970年代末、改革開放政策に転換してから、中国は年平均 9 %という高い成長率を遂げてきた。特色のある社会主義を建設するという方針の下で民営企業の成長と国有企業の民営化の進展が象徴とされる。
では、国有企業を民営化する必要性はどこにあるのか
日本政府が郵政民営化を計っているように、国有企業の低効率は万国共通の現象とも言える。
中国も例外ではない、実際改革開放以来、経済成長率は国有企業のシェアの高い地域ほど低い傾向が見られる。東北三省は、他の地域より国有企業のシェアが高いゆえに、成長率も全国平均におよばない。これに対して、多くの外資系企業が進出している広東省や、民営企業の活動が活発化している浙江省は、中国の中でも最も高い成長を遂げている。そのうえ、四大国有商業銀行を中心とする中国の金融システムは、政府による介入が多いために、国民の貯蓄を有効に投資に転換させる役割を果たしていないのが現実だ。
国有銀行と国有企業の所有権はいずれも国に帰属しているが、それはあくまでも抽象的な概念に過ぎない。実際には政府、企業の主管部署、企業などが国有財産の所有主体であり、意思決定の権限と責任を負う義務は彼らに帰属する。しかし、実際には誰も経営結果に対して責任を負わないため、このような所有権構造のもとで、真の独立市場およびそれに対応できるコーポレート・ガバナンスが形成されていない。
中国の国有企業は統一計画のもとでつくられ、従業員に社会保障の全般を提供している。文化、住宅、医療など様様な無料社会福祉を提供しているほか、娯楽などの様様な生活に必要な商業施設なども低料金で提供している。それだけでなく、安定性が高い仕事で解雇される心配がなく、給料は国で決められているため、企業の経営状況や利潤の有無とは関係がない。
上で述べたように国有企業の一つの特徴として、従業員制度が終身雇用であることだ。
一旦国有企業に入ると仕事を得るだけでなく、死ぬまで一生の保証がついてくるので、昔は国有企業従業員の身分はかなり誇りにできるものだった。従業員達は経営不振でも決まった給料をもらえるので時間さえ守れば仕事の質などには関心がなく、現役の従業員は仕事への向上心と競争心を持っていない。
今回の調査対象の国有企業首都鋼鉄集団(以下首鋼と省略)は1919年に設立し、在籍従業員11万人あまり、しかし実際現場で仕事に携わっている従業員は2万人程度しかいない、ここからわかるように国有企業は経営不振のうえに無駄な人件費を大量に費やしている。
多くの従業員は一生同じ職場で同じ仕事をしており、その家族も同じ国有企業に勤めていることが多い。
首鋼の場合も例外ではない。広い面積の工場内にかつでは工場内を走る専用バスや売店、警備員など一つの小さい独立した社会を連想させるような光景だったという。その人員の大部分は従業員の家族によって形成され、一生国の給料で食べていけるため、サービスの質などいうまでもない。
これらの問題は90年代に入り、政府の政策で少し改善を見せたが、従業員の意識の改善や経営への熱意はまだまだめどがつかない。
一方、国有企業では従業員間の給与格差が小さく、優れた能力を持っていてもそれに見合った給与が支払われない環境にあるため、能力や学歴が高い人材が次々賃金の高い会社文化の良い外資系企業へ逃げ出し、有能な人材の流出はかなり深刻な問題に陥っているため、経営不振はますます深刻化してしる。
政府は90年代半ば頃から、「抓大放小」(大をつかまえ小を放す)と、「国有経済の戦略的再編」という名のもとで、国有企業の民営化を進めてきた。「抓大放小」では、民営化の対象は中小型の国有企業にとどまるが、「国有経済の戦略的再編」ではそれより一歩進んで、大型を含む国有企業を民間と競合する分野から全面的に撤退させる方針が打ち出されている。
以上より中国は目前、経済を持続的に発展させるに当たって国有企業の民営化が大きな課題であるといえる。
首鋼が直面しているその他の問題として環境問題が挙げられる。
2008年北京オリンピックの開催を控え、北京市で環境の徹底的改善に力をいれているなか、首鋼で幾つかの環境問題が浮き上がってきた。
黒い煙を噴出する二つの煙突、工場から出る工業排水、そして使っている石炭、鉱物原料と800万トンの鋼製品の半分は毎日500台から600台のトラックが工場から伸びている長い道路を走っていて、西から風が吹く度にトラックの排気ガスや埃が北京城の空へと飛んで行く。
2004年北京気象部門の調査によると、石景山区(首鋼の工場が位置する場所)の一年間の晴れ日は184日、全年の50.4%をしめている、一方で北京市の晴れ日は229日で全年的62.5%を占めている。石景山区は平均より12%低いことから首鋼による大気汚染の程度がわかる。
そしてもう一つ水資源の問題からも首鋼を取り上げることができる。
中国は経済発展とともに水不足や水汚染の問題も深刻化している。特に雨や湖が少ない中国北部は南部から水を引いて使わなければならないほど不足しているのが現状だ。
首鋼の鋼鉄の生産には大量の水が必要である。一つの例を挙げると首鋼が1トンの鋼鉄を生産するのに9トンの水が必要となる、従って1000万トン(約3年の生産量)の鋼鉄を生産するのに9000万トンの水が必要とされる、これは300万世代の年水消費量である。
一方、国の政策に従い、黒い煙を噴出していた煙突は何段階の慮過を経て今は白い煙に生まれ変わっている、工業排水の問題も大幅に改善され、現在は工業排水を循環させ使いまわす仕組みを取っていて、水質も昔と比べよくなり排水を貯める人工湖の中に小魚やえびなどの生物が生息している。冬になると循環させた水が温かくなっていることもあって野生の鴨が訪ねてくるという。
しかし、これらの改善があるにもかかわらず首鋼は首都北京から引越しする運命を免れない。
国では首鋼が首都環境に対する汚染の改善がまだ十分ではないと考えたうえ、北京この歴史古城の保護や2008年オリンピックに及ぼす影響を考慮した。また、工場を工業原料の取れる地方に移すことで生産コストの削減も測っている。
特色のある社会主義を作り上げるには常に旧体制を壊し、新体制を確立することである。この過程において、東欧・ロシアでは、経済危機や所得の二極分化を経験してきた。程度の差はあるが、中国も同じような課題に直面している。これらは持続的な成長の妨げになりかねないだけに、中国政府は、さらなる市場化改革を進める際、効率、公平、そして安定にも同じ程度に配慮しなければならない。