学生による履修報告 : 青柳宏幸
旅をはじめるにあたり
今回のフィールドスタディに参加するに当たって、個人的な研究テーマに掲げたのは環境問題に対する中国の取り組みについてであった。
環境問題は、今後の対応如何では我々の生活を直接的に脅かす事態として全世界の政治、経済において注目を集めている。我が日本でも2001年には環境庁が環境省になり、クールビズが巷の話題になった。また民間においても企業の環境部や、環境保護を求めるNGOの活動が垣間見られるようになり、様々なイベントが世間の注目を集めている。このような公から個人レベルにおける意識改革の動きは世界中に広がっており、特に先進国において顕著である。
今回フィールドスタディで滞在することになった中国は改革開放政策のため、近年目覚しい経済発展を遂げている国である。が、いまだ先進国として位置づけるのは早いだろう。また、発展と環境汚染は、我が国の足尾銅山や水俣の例を持ち出すまでも無く、切っても切れない関係にあることは歴史が証明している。そんな中国が抱える環境問題とは何なのか、その対策はどうなっているのかを観察するのが今回の旅の目的である。
実際に現地で学んだこと、考えたこと : 北京編
~中国って結構…~
まずわれわれが中国で最初に降り立った都市は首都北京である。玄関口の北京空港はとても広く静かで、かつ清潔な印象を受けた。この空港は99年に拡張工事、04年に新ターミナルビルがオープンしたそうだ。そして空港から北京大学へ向かうバスの車窓から見る夜の北京市内。街を彩るイルミネーションと高速を走る車の流れるようなテールランプ。そして道の両側には整然と植えられた、夏の終わりの街路樹。吸殻ひとつ落ちていない道を自転車で走りぬける恋人たち――
と、初日の風景を思い出した順につらつらと書き連ねてみたけれども、やはり自分はかなりな勘違いをしていたことに気がついた。
そう、中国はキレイなのである。
もちろんこの場合の“キレイ”は多分に主観的なものである。個人的な先入観に基づいた上での“キレイ”なのである。だから人によっては同じ風景を見て「まだまだだな」と思うかもしれない。が、自分は旅行前に中国の深刻な環境問題について調べ、また各種報道にふれた結果、勝手に中国をとても“キタナイ”街だと思い込んでいたのだ。『百聞は一見に如かず』。改めて口にする必要も無く、フィールドスタディの真髄を初日にしてしっかりとこの手に掴んだのであった。
当然このあとの旅の中で本当に汚い場所には何度も出会ったけれど。
~北京のゴミ事情~
環境問題をテーマにする者として結構驚いたのが、道にあまりゴミが落ちていないことであった。都心部に行けばあったけれど、少ない。日本だったらさりげなく宙を舞うビニール袋だとか、あからさまなタバコの吸殻や空き缶だとか、無遠慮なゴミの山なんかが植え込みに捨てられているものだけれど、北京の街ではあまり見かけなかった。どうしてだろうか。日本でもゴミ問題は深刻である。少し北京のゴミについて考えてみる。
中国では工業化と経済発展が進むにつれ、ゴミの量も比例して多くなっていった。80年代後半にはゴミ増加率が年平均で10%近くに上っていた。98年には都市ゴミの総廃棄量が1億4200万トンに達し、2012年には2億トンになると見られている。つまりゴミの量は日本よりもはるかに多いのである。
次に回収方法であるが、都市ゴミは基本的に市の責任で行われている。しかし旅の途中ゴミ収集車には遭遇しなかった。また、都市も一歩裏に入ると、徹底した回収が行われていないというのが問題のようだ。
またゴミの内訳だが、中国では昔からゴミのほとんどがこれ以上リサイクルできない無機物ゴミであった。しかし近年生活環境が変化し、家庭からもリサイクルできるようなものや、有機物のゴミが捨てられるようになった。
最後に処理方法である。この国では焼却というやりかたはメジャーではなかった。ゴミのほとんどが無機物であったため、埋め立てが主流だったのである。その際も分別はせず全て一緒に埋め立てていた。
つまり、莫大な量のゴミを分別せずに埋め立てているというのが中国のゴミ処理事情なのである。
そういえば我々が滞在中に何度も出会ったのが、ペットボトルを回収する人たちであった。北京に限らず中国は日本より乾燥しているのでペットボトルの水が必需品だったのだが、空いたペットボトルを手に持っていると、どこからとも無く袋を持ったおじさんだかおばさんが現れて捨ててくれるのである。
「なんと素晴らしい!なんとエコロジー!」と最初は思ったけど、まだ中身の入っているものまで持っていかれかけてようやく気づいた。売れるんですね、あれは。資源回収業者かなんかに。そういえばちょっと前日本で街の金属が盗まれるという事件があった。中国に輸出されているという噂だったが、あれもやっぱり売れたのだろう。
金属の窃盗は犯罪だが、資源回収は最近どんどん進んでいるようだ。リサイクルをビジネスとするにあたって重要となってくるのは、資源回収及び分別にかかるコストが、再資源化後の商品価値より低くなければならないという点だ。これが逆になると回収すればするだけ大損をする。中国では人件費が安いため、資源回収にかかるコストが安くて済む。このため近年資源回収が、外国企業も参加して中国国内で流行となっているのである。
もちろん問題もある。日本からの不正な資源輸出や、リサイクルをするにあたっての現地工場の環境破壊などがそうだ。しかし今後このような問題が解決に向かうとしたら、中国のリサイクル事業は大いなる可能性を秘めているといえるだろう。
が、現在のところリサイクル率はとても低い。日本や世界と比べまだまだなレベルである。なぜか。
これは当然ながら、市民の意識レベルの低さが原因である。いくらペットボトルおじさんや回収業者が頑張ったって、政府が資源回収におカネをかけるようになったって、北京市民1500万人がリサイクルに関心を示さなかったら焼け石に水である。しかしそれが現在の状況なのだ。
中国でも街にゴミ箱がある。お店の前とか道端とかで、日本でも普通の光景である。しかし決定的に違うのが、分別をしていないことだ。燃えるゴミも燃えないゴミも同じゴミ箱に捨てている。誰が言っていたか忘れたが、旅の途中に「中国人はあまり分別をしない」という言葉を小耳に挟んだのを覚えている。そして分別するタイプのゴミ箱を見たのは主に空港であった。これではリサイクルは進まない。市民の意識を示すいい例だろう。
というわけで北京にはゴミが多いという結論だが、なぜ自分はゴミが少ないと感じたのか。節穴といわれればそれまでだが、おそらく一つにオリンピックの影響があるに違いない。中国は来年のオリンピックのため、街並みの再開発を行っており至る所で工事をしている。故宮までしていた。北京からはるか離れた成都でもしていた。だから再開発後のキレイな所はキレイなのだそうだ。
このオリンピックという一大国家的イベントが成功するとともに、これに伴った政府の国民に対するマナー及び環境教育が功を奏すことを願いつつ西安に向かう。
実際に現地で学んだこと、考えたこと : 西安編
~悠久の歴史と西部大開発~
古くは長安と呼ばれ、二千年ものあいだ都が置かれた歴史ある街である。十三時間にわたる寝台車での長旅にフラフラになりながら降り立った。街を巡る城壁が趣深い。市場には活気があり、お茶が旨い。野良猫にも品がある。いい街である。
ここでは中国の西部大開発に関する講義を受けた。西部大開発とは、つまりは豊かな東部地域と開発の遅れた西部地域との間に生じた格差を是正するために政府主導で行われている国家的プロジェクトである。2000年から始まったこの政策、ここへ来てだいぶ成果を挙げている。GDP成長率は毎年10%近くを維持しており、今後も続いていく見通しである。
個人的に興味深かったのは、経済発展は進んだが産業の構造改革は進んでいないという点。そしてやはり環境にも悪影響が出てきているという点だった。特に環境は工場からの排水や排気が問題になっている。
今後の課題として、開発に並行した環境改善が必要ということを講師の方がおっしゃっておられたが、開発が進んだとはいえいまだ貧しいこの地域で、目覚しい効果を上げられるほどの環境対策がとられるかは疑問である。まさに課題であろう。
~ホテルで…~
西安のホテルでバスタオルが取り替えられない事態が起きた。が、これは怠慢ではなく環境に配慮しているのだそうだ。どういうことかというと、汚れていない物をいちいち洗うのは水がもったいないし排水が川を汚くする、という考え方。洗ってほしいときはそれなりの意思表示の仕方がある。環境への意識改革の一つの例だろうか?日本でもこういうホテルが増えているらしい。
実際に現地で学んだこと、考えたこと : 成都編
~四川盆地の大都会~
劉備とパンダの国、というだけでは勉強不足である。「天府の国」の別名を持ち、また蜀錦を産するため「錦城」、芙蓉の花を由来として「芙城」とも呼ばれている。紀元前からの歴史を持ち、四川地方の中心地である。昔から商業の盛んな土地であり、絹、漆、茶、塩を産した。そんな土地柄から現在でも商業活動が盛んであり、外資系企業も数多く進出し「最も投資にふさわしい」とされている。
ここで講義があったが、自分はエネルギー問題に注目した。中国はもはやエネルギーの輸入国であり、エネルギー効率や環境に配慮するため現在の石炭主流の火力発電から、水力や原子力への転換を図っている。この成都ははるか昔から水資源が豊富であり、都江堰を筆頭に数多くのダムがある。が、電力供給量は十分ではない。
ダムは日本でも環境に関して多くの抗争がある。成都も例外ではなく、中小のダムによって水質汚濁が問題となっている。
ここにも開発と環境の対立が垣間見える。成都は排気ガスが中国でもワーストだったそうだが、規制を厳しくするなどして改善させた。今後うまくクリーンな発電に移行することが出来ればきっと水もきれいになるに違いない。
実際に現地で学んだこと、考えたこと : 上海編
~万博に向けて~
上海の滞在時間はとても短かった。が、開発の進んだかなりの大都市でそのスケールに圧倒されっぱなしだった。来年は万博が行われる予定。何か凄い事をやってくれるはずだ。
旅を終えて
中国の環境問題とその対策が個人テーマだったが、実際に旅をして感じたことがある。中国では開発が進んでいたその裏で大気汚染、水質汚濁、砂漠化等の深刻な環境問題を抱えてしまった。現在政府が対策に乗り出しているが、現状維持が精一杯の状態だ。
環境問題は政府だけで解決できるものではない。必要なのは市民の意識の変化である。しかし見たところいまだ環境に対する意識や関心は薄いようであった。これから必要なものは環境教育である。その一方で、今後も続いていくと思われる経済発展と実際どう折り合いをつけていくかが課題だと思った。
二週間という長期にわたった旅であった。しかし、その分得たものは計り知れない