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学生による履修報告 : 川口龍平

今回の調査でまず感じたのは文化的観点や経済的観点から見た中国と日本の大きな違いである。文化が違うのはともかく経済の発展の仕方や経済改革の違いなど、現地の講義によって得られた情報は貴重な知識として活かしていきたい。

さて、研究テーマとして私は「中国国内のIT産業」をあつかった。二週間の現地調査により様々なものが見えてきた。まずIT関係の企業は成都、上海に集中している。沿岸部であり商業の中心である上海に企業が終結する理由はわかるが、なぜ内陸部の成都にも企業があるのかが疑問となった。そこで現地の調査と日本で行った調査を照らし合わせながら研究してみた。成都は以前国防産業の中心地であり、80年代までに大きく発展していった。しかしその後政府が国防産業から手を離し始めた。軍事エンジニアだった技術者達は高い能力を持ちながらもそれを使う術を探すうちに、徐々に国防産業から民用品の生産へとシフトしていった。そんな中高い能力を持つ技術者達は情報産業の担い手として発展していった。現在成都はそういったエンジニアを擁する情報産業企業が多く目立つ。海外だけでも10社以上が参入しており日本のTOYOTAを始め世界最大規模の多国籍半導体メーカーであるインテルもこの成都を生産の拠点としている。それほどこの成都という都市はエンジニアの宝庫であり、中国情報産業の拠点なのである。現地で調査を行った時に、まず街で目立ったのがPCショップの多さである。バスや徒歩の移動の中で市街を観察した時に多くのPCショップを見かけることができ、インターネットカフェを数軒発見することもできた。また、成都は電気系の大学も多く存在し、今後のエンジニア排出に大きく貢献しており、TVのCMでもネットゲームのCMが流れているところからすると、相当ソフトビジネスに力を入れていることがわかる。また、帰国してからの調査でわかったのだが成都には1991年に設立された国家レベルのハイテク開発区が存在する。ITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)や、先ほど述べたような中国最大のICチップ生産地、国家認定のオンラインゲーム開発基地、そしてなんといっても安価な人件費と優れたインフラが魅力の開発区である。ここで注目したいのは安価な人件費ということだ。IT企業の密集地として先に上海を挙げたが、沿岸部の上海の人件費よりも内陸部の成都の方が断然人件費は安い。よって海外の企業がこぞってこの人材の豊富なこの成都へ開発拠点を構えているのである。日本の企業もNECを初めとしてソフト開発の受託拠点を成都に設けている。2004年に報告された「成都経済報告」によると、2004年の成都市におけるGDP伸び率は13.6%。四川省全体の伸び率を1ポイント近く上回る形となった。また、伸び率は省同様ここ10年来の最高の値で、GDP総額も2,185.7億元に達した。このように成都は中国のIT分野でも目を離せない重要な拠点となっていることがわかる。

また、今回滞在した北京大学の周辺にも日本の秋葉原のような電気街も出現している。中国のカルフール内の電気店などでソフトウェアの価格調査を行ったが、ソフトウェアの一つあたりの値段が10元~30元という破格の値段がついていた。また、成都市内の電気店では日本のゲームソフトが15元で売っていたり、音楽CDがMP3を媒体として108曲入って10元で売られていたりと日本では考えられない物価の差を目にした。これは海賊版などの要因を受けて価格が安くなったと考えるのが普通だが、パソコン関係のソフトウェアは確認したところ正規の販売アイテムだったので中国と日本では物価水準が大きく違うことがわかる。先ほども述べたとおり破格の値段で売られてる音楽やゲームなどのコンテンツに注目してみる。中国のコンテンツ市場にはコピー商品が氾濫している。音楽、映像、ゲームなどのコンテンツは日本や欧米のものを含めて多くのものがコピーされ販売されている。日本の企業はどのように中国でコンテンツビジネスを展開するのだろうか。今年の夏、他大学のフォーラムに参加した時に講師であった日本大手企業の「電通」のプロデューサーの話の中でちょうどこの話題がのぼった。話の内容はアニメーションに絞った話題であったが、ビジネス展開としてはコピーのイタチごっこをこれ以上続けるのはあまりにも非効率的であるためアニメーションを課金システムで放送したりするなどの処置をとっているそうだ。しかしそれでもコピーは必ず生まれるため今後のビジネス展開は難しい。今後のビジネス展開で最も重要なのは価格設定ではないだろうか?日本や欧米の価値観で売っても中国では海賊版が必ず優位に立ってしまう。しかしさきほど述べたソフトウェアのように正規のものでも安くすれば購買意欲は上がり結果購入に結びつく。つまり海賊版よりも少し高い値段設定を設けなければならないのだ。中国での値段の設定は非常にシビアなものである。

目覚しい発展を遂げる中国IT産業だが、北京大学の講義の中で非常に興味深い内容の講義を受けた。先ほどのデータからみるように中国のGDP成長率は驚くべきものであり、経済大国として目まぐるしい発展をとげている中国であるが実はある一つの矛盾が生まれている。それはICT産業に注目するとよく分かるのだが、中国の現在の労働生産上昇率は日本の三倍である。しかし利潤率という観点から見ると低下しているのだ。これは大きな矛盾である。なぜ労働生産率は上昇しているのに利潤率は下がるのか?これをミクロの視点で見てみる。中国は以前から技術開発の遅れが目立っていた。日本やアメリカのように品質の高い車やパソコンの開発は非常に難しいものであった。しかし時代の流れにより現在ではパソコンのように部品さえ集めることが出来れば誰でも生産可能な時代になった。これは技術が進化したことによりインターフェイスを気にしなくても組み足られるよう様々な部品が開発されたためである。これによって中国は刷り合わせ産業ではなく組み立て産業の代表国家として自動車やパソコンの生産に乗り出していった。しかしここまできてなぜ利潤率は低下してしまうのだろうか?ここで製品レベルの視点で見ていく。確かに組み立て産業により様々なものを自国で作り出せるようにはなったが、それにともないキーコンポーネント、製品の一番中心となるデリケートな部品はますますインターフェイスを必要とするようになり、複雑化していった。残念ながら中国ではそのキーコンポーネントを生産できる技術がまだ存在しないためにどうしても海外発注に頼るしかないのだ。液晶プラズマテレビを例にして考えてみると分かりやすい。液晶プラズマテレビの生産コストの中で一番コストのかかるのはパネルの部分である。この部品は全体のコストの約70%を占めてしまう。中国ではこのパネル以外の部分であれば組み立て生産は可能なのだが、どうしてもこの最もコストの高いパネルは生産できない。よってこのパネルを日本、韓国から発注しなければならず、結果コストが非常にかかってしまうのだ。中国はこの状況が現在非常にネックになってきており、中国企業が生産しているテレビや携帯電話端末、DVDプレーヤーなどの最終製品はすべて生産過剰になり、対照的にICチップやハイエンドサーバー、液晶ディスプレー、システムソフトなど産業のキーコンポーネンツはいまだ輸入に頼らざるを得ない状況にある。つまりこの組み立て産業は一番付加価値の高い部分を全て海外企業に持っていかれてしまっているのだ。この産業構造のゆがみは年々深刻さを増しており、中国IT企業の上位100社の売上高合計の全産業に占める割合が年々低下していることからも、成長鈍化の兆候が顕著に表れてきている。ソフトとハードの面においてもその産業構造のゆがみが見てとれる。世界中でデジタル化の波が押し寄せる中で中国のIT産業におけるソフトとハードの売上規模の比率はいまだ1対9と非常に大きな開きがある。米国の3対5は極端な例だが、あまりにもソフトの割合が低すぎる。また、貿易においても安価な労働力を駆使した加工型貿易が未だ柱であり、高付加価値貿易のノウハウが育っていないのが現状である。つまり今現在急激な成長を遂げているのは事実ではあるが長期的な面でみれば不安要素がまだまだあるということだ。

ではいったい今後の中国のIT産業に必要なのはなんなのだろうか?私は中国自身の技術革新が必要ではないのかと思う。IT産業に限らず中国は世界のプライスリーダーである。安価な労働力をつかった安価な製品を世界中に輸出しており、価格の面で言えば中国の右に出る国はないだろう。しかし中国国内へ目を向けた時に、市場は既に品質、サービスが求められるようになっており高付加価値の商品は全て大手国際企業に持っていかれてしまっている。よって中国企業は技術革新を行い高付加価値商品を生み出さなければいつか大きな壁にあたってしまうことになる。現在中国はIT専門大学を開設したりとクリエイター、エンジニアの育成に力を入れており、この問題を解決は決して不可能なことではない。今後の中国IT産業に注目しよう。

最後になるが今回の現地調査は自分の中で大きな意味を持つものとなった。今までのレポートの調査はインターネットを使った調査が主だった。今回は自ら現地へ行き自分の目で観察し、質問や疑問をその場で消化していく能力が向上したと思える。内陸部の調査は中々できないことであるため非常に良い体験となった。今後もこの経験をゼミ活動などに活かしていけるよう精進する。今まで近くて遠い国だと認識していた国をこんなに間近で見ることは本当に貴重な体験である。これを人生の宝として自分のステータスとして活かしていきたい。

参考サイト

日経ネット : http://www.nikkei.co.jp/

Yahoo!ニュース : http://headlines.yahoo.co.jp/hl

IT情報マネジメント : http://www.atmarkit.co.jp/im/