ドイツ「フィールドスタディ(D)」実施報告
教員による海外フィールドスタディ報告 : 服部圭郎
ユーヘンの露天掘り跡地にて
今年のフィールドスタディDは、ドイツの中北部に訪問した。中心的に滞在するのは、指導教官である私が客員教員を務めたこともあるドルトムント工科大学のあるルール地方である。ルール地方はドイツだけではなくヨーロッパの重工業の中心地方であった。しかし、1970年代頃から産業構造の転換に伴い、経済的なダメージを受け、多くの課題を抱えている。日本の北九州や、規模からいえば阪神地域とも類似した点を多く有し、フィールドスタディの対象としては意義が大きい地域である。さらに、これに加えて、ハンブルグ(もしくはベルリン)やケルンといった地域をも対象とし、幅広い視野でドイツを学び、学生達の視野を大きく広げることに資する二週間が送れるように企画した。
ルール地方では、ノルドライン・ヴェストファーレン州のエコ・センターに研修を企画してもらった。午前中にはエコ・センターの講師によるドイツの環境問題、エネルギー問題などの講義をしてもらい、午後にはフィールドの視察をした。フィールドの視察対象としては、ゼロ・エネルギー・ハウス、露天掘りを実施しているガルツヴァイラー、鉄鋼工場を住宅地として再開発したフェニックス、産業遺産を集客施設として再整備した石炭採掘場などである。また、エコ・センター以外ではドルトムント工科大学に訪れ、そこでルール地方の地域再生事業であるIBAエムシャーパークの概要を学習した。さらには2泊3日でハンブルクを訪れ、ハンブルクのIBA開発事業を視察し、それに加え、ハンブルクにあるソーセージ会社であるハライコ社を訪問した。
以上のような、ドイツにおける地域再生の取り組みを学ぶことで、日本においてもどのようなアプローチによって地域再生に取り組めばいいのか。学生達は多くの知的刺激を得られたのではないかと考える。
学生によるレポート
日本がドイツから学ぶべきこと
ともに第二次世界大戦で敗戦し、その後工業によって経済発展を遂げ、そしていま、工業が衰退している日本とドイツ。歴史的な類似点はあるものの、その二国間の都市政策、環境政策には様々な違いがみられた。以下では、その違いのなかでも特に日本が学ぶべきと感じたものについて述べていきたい。
まず、私がドイツに到着して心を動かされたのは、街並みの統一感だ。地域によってその統一感に多少差異はあるものの、特にハンブルグの中心市街地や、ミュンスターにおいては、伝統を感じさせる外観やの建築物や、それらに馴染むような外観の建築物が多くみられた。また、各街の教会より高い建物がある街はめったになく、あったとしても教会からは離れたところにあった。それは不文律でもあるようだが、そうしたことがスカイラインそろえ、より街全体の統一感が増していた。
街の外観がこのようになっていたのには、ドイツの人々が伝統を重んじる傾向にあるということのほかに、建設法34条も背景にあるのではないだろうか。この法律の基本は「新たに計画する建築物が周辺地域の既存の健全な住居環境を保全し街区の景観に悪い影響を与えることなく、むしろ街区の特性に適合し、さらに公共の利益に反してはならない」ということだ。ドイツも日本と同じく、戦災による被害を被っており、戦後につくられた建築物も多いと思うが、こうした法律があるため、街のなかでぽかんと浮いてしまうような建築物はつくりにくくなっているのではないだろうか。
日本の町並みは、建物のデザインも高さも統一感がある場所は少なく、自分の所有地内では自由にたてものをつくってもよい、とういう考えが強いことがうかがえる。しかしドイツのように各々が街全体のことを考え、建築を行っていくことで、より美しい景観をつくり、守っていくことができるのではないだろうか。
ふたつめにとりあげたいのは、人間を中心に考えた街づくりだ。私が滞在したデュッセルドルフでは、かつてライン川沿いに高速道路があり、その道路が人々の水辺へのアクセスを妨げていたが、現在では高速道路が地下化され、そのうえには並木道が広がっている。デザイン性の高いテレビ塔であるラインタワーを見上げながら水辺を歩くと、穏やかな気持ちになることができる。また、IBAハンブルグの行われている地域では、地域内の道路が街を分断してしまっているとし、道路の移設の計画がある。前者にしろ後者にしろ、コストは決して安くはないが、工業優先ではなく、人間を優先する計画に価値を見出し、実行している点において、日本より優れているといえるだろう。
以上二点について述べたが、どちらにも共通することは、人間の暮らしをよくしているということだろう。工業が衰退しているいま、日本がさらに優先すべきなのは自分たち、人間なのではないか。そしてそれをドイツは実行し、示していると思う。
さて、ここからは「環境先進国」といわれるドイツの環境政策について述べていきたい。
まず、ドイツの住宅について取り上げたいと思う。住宅から排出されるCo2量は、ドイツでも日本でも、国全体のCo2排出量約30パーセントにもおよぶ。よって住宅のからのCO2排出量を削減することは、国全体のCo2排出量削減に大きく貢献するといえるだろう。そして、人々の住宅での省エネを促す追い風になると考えられるものとして、エネルギー・パスがあげられる。エネルギー・パスとは建物のエネルギー効率がどの程度であるかを建物であるかを掲示するものであり、2008年7月からすべての新築住宅にエネルギー・パスを表示することが義務付けられている。新築住宅のみにしか表示されない、という点や、不動産所有者が、自らの所有する不動産の評価がエネルギー・パスのよって悪い評価が下されるのではないかという懸念を抱いている、といった課題点もあるが、エネルギー・パスによってむしろエネルギー効率のよい不動産を差別化できるといったメリットもある。今後さらにエネルギー・パスが普及し、人々の目にエネルギー・パスが触れる機会が増せば増すほど、建築業者や消費者のなかでの省エネへの意識が高まることだろう。
つぎに、自転車政策についてとりあげたい。フィールドスタディー中にミュンスターを訪れ、自転車政策についてのお話をうかがったが、自転車は環境に良いだけでなく、社会にとってもより効率のよいものだという気付きを得た。それは、自転車は走行中も、駐輪の際にも、他の交通機関に比べスペースをとらず、社会的基盤が安上がりだからである。
地価が高いという事情をもつ東京こそ、このような試みを行ってみる価値があるのではないだろうか。また、東京は公共交通が発達しており、オフィスや住宅も他の国内の都道府県に比べ密集しているので、少し社会基盤に手入れをすれは、自転車都市にむいているのかもしれない。
環境政策について2点とりあげてみたが、長期的なメリットを重視している点がこれらの共通点といえるだろう。環境問題は短期での解決がのぞめるものではなく、物事を長期的な目でとらえることが必要であるが、ドイツはそうした考え方が日本よりも浸透しているという点で、日本よりも優れているといえるのではないだろうか。