ブラジル「フィールドスタディ(E)」実施報告
教員による海外フィールドスタディ報告 : 服部圭郎
ブラジルの建築の巨匠、オスカー・ニーマイヤー博物館の前で記念撮影
2012年度のフィールドスタディEではブラジルのクリチバ、そしてフォス・ド・イグアスを訪問しました。クリチバへの訪問は今回で5回目になります。フォス・ド・イグアスの訪問は今回で2回目です。クリチバでは例年通り、クリチバ市の環境局長、パラナ州の環境局長まで務められた中村ひとしさんの案内のもと、クリチバの環境政策、そして都市政策を学びました。
さらにフォス・ド・イグアスでは、イグアスの滝や世界最大の水力発電ダムであるイタイプ・ダムなどを訪れ、観光による地域開発の課題、エネルギーの輸出入問題などを学習しました、また、学生たちはイグアスの滝の雄大なる自然を観ることで、大きな感動も得ていたようです。
ブラジルは現在、経済が好調ではありますが、それによる歪みも大きくなっています。そして、これまで世界から賞賛されてきた都市政策、環境政策も迷走しているような状況にあります。学生たちには、そのような現状をしっかりと認識してもらい、それまで上手く機能していたシステムが円滑に行かなくなった場合の対処法などを考察してもらいました。日本と違う環境に飛び込んでこそ、見えてきた経済政策、社会政策の難しさを理解することが出来たのではないかと考えます。
実施プログラム: 2013年2月9日—2月22日
| 2月9(土) | 16:30成田空港集合 AA060(19:10発) AA987(18:30発) |
機中泊 |
| 2月10(日) | サンパウロ着(08:25) サンパウロ発12:25 クリチバ着13:20 ハラホテルへ移動(簡単なオリエンテーション) (クリチバ泊) |
クリチバ |
| 2月11(月) | クリチバの市内視察 22時 夜行バスでフォス・ド・イグアスへ |
車中泊 |
| 2月12(火) | フォス・ド・イグアスの視察 | フォス・ド・イグアス |
| 2月13(水) | イタイプ・ダムの視察。 21時10分 夜行バスでクリチバへ |
機中泊 |
| 2月14(木) | 午前:URBS 午後:公共交通(バス試乗) |
クリチバ |
| 2月15(金) | 午前:環境局 午後:ゴミ・みどり・環境寺子屋 |
クリチバ |
| 2月16(土) | 海岸都市へのハイキング | クリチバ |
| 2月17(日) | 休み | クリチバ |
| 2月18(月) | 午前:IPUCC 午後:都市デザイン事業 |
クリチバ |
| 2月19(火) | 午前:中村さん講義 午後:緑地計画(バリグイ公園等) |
クリチバ |
| 2月20(水) | クリチバ発18:40 サンパウロ着19:45 サンパウロ発 23:55 |
機中泊 |
| 2月21(木) | 機中泊 | 機中泊 |
| 2月22(金) | 東京14:05着 |
学生によるレポート
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私は卒業後、地方公務員として社会に出たいと思っている。このフィールドスタディEを履修し、「生きた教科書」であるクリチバを視察することによって、自分がまちをつくっていく立場になったときをイメージしながら、環境・交通・土地利用などの都市政策について理解し、学ぶことを目的としていた。「都市は人間のためにあるべきである」という強い信念を持ってクリチバを「人間都市」として発展させたジャイメ・レルネル元市長を中心とする人たちがつくりあげたまちを実際に見て感じたことを述べていきたい。
クリチバの具体的な政策は3つほどあり、1つはゴミ問題を含めた環境政策。2つ目はバスを中心とする交通政策。3つ目に交通を考慮した土地利用政策である。
まず、環境政策に関してだが、クリチバを見てきて印象が強いのは緑が多いこと。データによると、2000年時点での1人当たりの緑地面積は、51.5平方メートル。(東京都の人口1人当たりの緑地面積は4平方メートル以下)しかし、1966年にマスタープランを策定した後の1970年時点での1人当たりの緑地面積は、1平方メートル未満であった。人口が増加する中、緑地面積を飛躍的に伸ばしてきた。元パラナ州環境局長、元クリチバ環境局長であるヒトシ・ナカムラ氏は、市民対象の公園を多く整備してきた。クリチバ市内にはイグアス川の多くの支流が流れているため、それらの河川による洪水に悩まされていた。また市民が憩う場も不足しており、主要河川流域地域に沿って公園を整備し、洪水対策となる貯水池を設置した。それは、拡張する都市化から貴重な緑地や生態系を保全する役割も果たした。市のシンボルとして作られた植物園には、周辺にファベラがあった。当初、自分たちは大変な生活をしているのに、金持ちのための公園がつくられ、ファベラの住民の気に障ったが、当時その管轄部署の環境局長であったナカムラ氏は造園の仕事を教え、ファベラの住民を雇うようになった。同様に、治安の悪かった土地を地主から市が買い取り、公園を整備したことにより、その地域を高級住宅街にも変貌させた。水害防止対策・ファベラ化防止対策も兼ね、このように「人のための緑地政策」が施され、市民全体の利益を優先させた。そして、自然を残していくことを人に認識させた。「人を大切にするまちづくり」が行われていることを感じた。クリチバが河川を保護しながら公園化を果たしたのとは対照的に、日本では河川をコンクリート漬けにし、お金をかけた自然破壊が行われている。この失態に気づき、それを戻そうとするには資金と時間がかかる。お金ではなく知恵を使い、事業ではなく計画を施し目的を達成させる。ヒューマンスケールを大切にしていた。
公共の建築物を建てる際に、ナカムラ氏は「自然にちょっとお邪魔します」という精神が大切であると語っていた。訪れたうちのひとつである環境市民大学では、コンクリートの電信柱が導入される前に使われていたユーカリの電信柱をリサイクルし、建材として利用していた。チングイ公園周辺にある高級住宅街に佇む、建築家であるカナーリ氏が建設した住宅も見学した。豊かな緑地空間を持つ優れたアメニティの都市空間はクリチバの魅力である。まちに合った建築物をローコストに、人の権力を見せず、自然と調和する形でつくらなければならない。カナーリ氏の言葉は正に「自然にちょっとお邪魔します」とリンクしていた。この住宅は、太陽の向き、風の通り道を考え、床には日差しが反射する塗料を使用し、塀は植物でつくられている。「早くて、安くて、シンプルに」という言葉も印象的であった。
ゴミ収集関係の政策では、ゴミは環境を左右するということが重要視された。これを通して市民参加を図り、環境についての意識の向上も狙いのひとつとされた。どうしたら再生可能ゴミが集まるかを考え、ゴミに価値をつけた。実際に「緑との交換プログラム」を視察したが、市民は満足そうに列に並び、再生可能ゴミと野菜・果物を交換していた。できるだけシンプルで、「市民が理解しやすいプロジェクト」を市民と共に行っていた。私が通っていた高校では空き缶を自動販売機の隣にあるゴミ箱に入れると、デポジットとして10円が返却されるサービスがあった。ゴミのうちリサイクルできるものには価値があるが、実際に物やお金に換わることによる意識の差は大きい。日本のような「燃えるゴミと燃えないゴミ」という行政目線での分別方法ではない、「市民が理解しやすいプロジェクト」だと感じた。
次に交通政策について。クリチバ市内を何度も車やバスで移動したが、渋滞に巻き込まれなかったのが印象的であった。一方通行の道路が多く、日本でいう「右折レーン」が見当たらなかった。このため、円滑な交通が実現されていた。公共交通では当初、地下鉄の導入も検討されたが予算が不足していたため、バスが使われている。まちではバスを見かけないことはなく、また利用者も多かった。先に運賃を支払い、ホームでバスを待ち、ターミナルから実際に乗車してみると、バスは連結されていて大量輸送できる空間があり、スピード感もあった。駅の間隔、そしてチューブステーションのホームも乗降口と同じ高さになっていて、日本の電車と特に変わりがなかった。そして、バスは機能ごとに色分けされていて、市民目線でデザインされていた。日本では電光掲示板による電車到着時間の表示や自動改札、さらには「Suica」のような電子マネーによる運賃の支払いが実現されている。クリチバでは統合交通ネットワーク・システムにより、全市域の交通料金を均一化しており、さらに前払いのため、スムーズな運賃の支払いは実現されていた。日本の電車システムには劣るところがあるが、バスシステムは上回っていた。
交通を考慮した土地利用政策では、テレビ塔から都市開発軸を見たときに感銘を受けた。日本の都心のような無秩序な都市空間とは別世界であった。都市開発軸の回路では、土地利用の高密度化が図られ、公共交通の幹線道路も通っていて、交通と土地利用は整合性を持って実現されていた。そうでない場所では、土地利用は低密度に抑えられている。住宅は都心と工業団地との間の公共交通システム内に建てられ、まちと関わりが持てる場所にある。市営住宅は、日本の「団地」のように間取りが統一されていて、部屋に番号がついたといったものではなかった。ある程度の個性を持たせ、差別化することにより、人を重んじた環境を整えていた。また、不法占拠などの土地利用にも柔軟に対応している。ファベラを特別社会的住宅としてゾーニングし、電気と水だけを通して、不法占拠ではあるが秩序立った環境を与え、治安の安定を図った。あるファベラであった地域を訪れたが、子どもたちの笑顔も見られた。治安は回復したかのように思われたが、実際にまた悪化し始めたと聞き残念であった。クリチバでは、イタリアやウクライナなどヨーロッパからの移民が多く定住している。イタリア系移民のコミュニティであるサンタ・フェリシダッド地区では、他の地域に比べて文化的施設や歴史的建造物が多い。その個性を発揮するために都市空間を規定する規制は厳しく設定されているが、用途に関しては、自由度を高くしていて、その地区のニーズ、必要性に応じた土地利用がされている。各国の文化との共存も成されていた。土地利用政策はさまざまな政策と絡み合い、メリットを生み出している。環境政策で公園がつくられたのも、水害防止対策・ファベラ化防止対策でもあった。クリチバが整合性を持って都市計画されたことを改めて感じさせられた。
以上のように、クリチバは非常にヒューマンスケールに富んだ「人間都市」であった。それぞれの政策には整合性があり、その政策の中心にあるのは人であった。自発的な市民参加により、行政と市民が責任を持ち、人間優先のまちづくりが行われていた。エピソードとして、特急バスが通行する道路確保のため、公園が解体されそうになったが、市民の反対運動により中止されたという事例もあり、市民の意識の向上が成されていることが証明されている。
クリチバは、地下鉄もなく、高技術のゴミ処理場も、廃却炉もなく、再生可能ゴミ仕分け自動選別機もなく、高速道路もない。お金ではなく知恵を使い、事業ではなく計画を施し目的を達成させ、人を中心としたクオリティの高い環境都市が形成されていた。日本ではよく歩道橋や地下歩道が見かけられ、人が自動車に追いやられることがあるが、クリチバではそのようなことはなかった。この時代、自動車と人の共存は避けていけないが、中央分離帯を花壇にしたり、道路公園をつくったりするなど、日本では見られない光景もあった。しかし、日本ではよく見られるバリアフリーには欠けていた。点字ブロックや歩きやすく、車いすが通りやすいような歩道の整備、音響装置付信号機の設置はされていなく、交通弱者にとっては外に出づらい状況にあると感じ、課題であると思った。
メインストリートである「花通り」は都心でも交通量の多い道路であったが、歩行者天国となった今では、通りに人々がひしめきあっていた。道幅は想像以上に広く、元は大きい道路だったということを実感した。レルネル元市長はこの通りの1区画を3日で歩行者天国にしたと思うと驚きであった。レルネル元市長に実際にお話を聞いたが、求める人材はナカムラ氏が針金オペラ座を短期間で建設したように、仕事が速くできる職員と言っていた。これから社会に出るにあたって教訓となる言葉であった。この2週間の英語も通じない世界での生活は、私にとって貴重な体験となった。クリチバだけでなく、フォスドイグアス、パラナグアにも赴き、さまざまな人、さまざまな動物と出会い、日本にないブラジルという国の豊かさを感じた。このような体験をさせてもらい、この期間にお世話になった方々に感謝したい。
PHOTOレポート
イグアスの滝では、その圧巻な自然景観に感銘を受けただけでなく、ブラジルの環境保護政策に関して勉強しました。
ブラジルでも高名な建築家、フェルナンド・カナーリ氏自身による彼の設計したユニークな住宅を見学しました。
大西洋海岸山脈の美しい山間の町モヘテスの町長から、観光によるまちづくりの解説を受けました。
日本の技術協力で牡蛎の養殖に成功している事例を学びました。
クリチバの元環境局長である中村ひとしさんから、日本の造園の知恵を使って設計した公園の説明を受けました。
大西洋海岸山脈の秀峰マルンビ山をバックに記念撮影。
原後雄太奨学金授与式の様子
原後雄太奨学金授与式の様子
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