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「バッハ・モーツァルト・ベート-ヴェン」

明治学院バッハ・アカデミー芸術監督 樋口隆一(明治学院大学文学部教授)

 明治学院バッハ・アカデミーの7年目は、外に向かって大きく発展する年となりました。まず6月4日(日)の聖霊降臨祭には、私と合唱団がライプツィヒ国際バッハ音楽祭に招待され、聖ニコライ教会のカンタータ礼拝(9時30分開演)で、バッハのカンタータ第68番《神はかくも世を愛したまえり》BWV68を上演することになりました。入場無料ですので、ワールドカップ観戦などでドイツにおいでの方々はぜひお立ち寄りください。共演のムジカ・ユヴェンタは、ゲヴァントハウス管弦楽団のメンバーによるオリジナル楽器のオーケストラです。この日、聖トーマス教会では、同じ時間にビラー指揮聖トーマス教会合唱団がカンタータ礼拝を行い、いみじくもバッハの後継者との競演ということになりました。
 ライプツィヒは、1972年にまだ26歳だった私が、バッハ研究の基礎を学びに行った町です。それから実に34年の歳月を経て、バッハが活躍した聖ニコライ教会で、日本で育てた合唱団を率い、彼のカンタータを指揮できることには、感慨を禁じ得ません。
 さらに6月9日(金)には、バッハが洗礼を受けたアイゼナッハ聖ゲオルク教会でも演奏会をおこなうほか、5月末日には弓町本郷教会で「壮行演奏会」(入場無料)を行う予定です。

 明治学院チャペルが2年間の予定で改修工事にはいるため、室内楽、歌曲の演奏会は、キャンパスの北端に位置するパレットゾーン2階のアートホールで行いますが、合唱団・合奏団の演奏には小さすぎます。そこで外部の会場を探していたところ、横浜の神奈川県立音楽堂を使わせていただけることになりました。いうまでもなく横浜は、創設者ヘボンが1863年に「ヘボン塾」を開いたゆかりの地でもあります。「人類はみな兄弟」という隣人愛の精神に基づくベートーヴェンの《第九》は、ヘボンの"Do for others"の精神にも通じます。「木のホール」として親しまれている県立音楽堂のすばらしい音響もまた、《第九》をその前身に当たる《合唱幻想曲》とともにオリジナル楽器のオーケストラで聴くという意義深い演奏に、花を添えることでしょう。2004年12月から始まったシリーズ「古楽器で聴くベートーヴェン」は、世界的に見ても貴重な試みとして、「ベートーヴェン:交響曲第4番・ピアノ協奏曲第4番」のCD(明治学院サービスBAMG-0009)とともに、国内外の高い評価を受けるようになりました。「古楽器で聴く《第九》」も、多くの方に聴いていただきたいと思います。

 2006年は、モーツァルト(1756-91)の生誕250年にあたります。明治学院大学(文学部芸術学科・言語文化研究所)は、ウィーン大学音楽学科と共催で国際シンポジウム「モーツァルトの大衆性」(11月11日・12日)を開催しますが、バッハ・アカデミーもまた、11月11日(土)には、モーツァルトのセレナーデによる記念演奏会を行います。2006年のテーマが「バッハ・モーツァルト・ベートーヴェン」の三大巨匠となったのは、こうした理由によります。4月にバッハのチェンバロ曲を弾いてくださる曽根麻矢子さんは、創立以来の同人メンバーですが、近年はとみに国際的な活躍がめだっています。5月に登場されるジョン・エルウィスさんは、イギリスの誇る世界的名テノール歌手。渡邊順生さんのフォルテピアノ伴奏で、すばらしい名唱を聴かせてくださることでしょう。
 10月に登場されるソプラノの光野孝子さんは、カンタータのソリストとしておなじみですが、彼女の清澄な歌声によるモーツァルトのモテット「踊れ、喜べ、幸いなる魂よ」は、大いに期待できます。11月は、合奏団の中核メンバーである渡邊夫妻と神戸愉樹美さんによる室内楽です。彼らの演奏でバッハに影響を与えたブクステフーデのソナタが聴けるのは、本当に貴重な機会だと思います。

 チャペルの改修という機会に、いつもとはひと味違った企画となりました。こうして眺めてみると、どこにも真似できない個性的な演奏会シリーズになったと自負しています。いつにもましてのご来場をお待ちしております。


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