大正の礼拝の音-大リードオルガン

明治学院記念館のオルガン 白金通信1998年2月号から

記念館に大きな古いオルガンがある。演奏に供されなくなってずいぶんと時間が経った。ところがこのオルガン、演奏できるリードオルガンとしては国内では最大で最古のオルガンだという。明治学院の120周年を記念して、このオルガンが修理され、よみがえった。

オルガン研究家  仁平利三さん
このオルガンはどんなオルガンなのでしょう

いままで、130台以上修理してきましたが、このオルガンは、リードオルガンとしては国内では一番大きいのではないかと思います。芸大の音楽学部のものはもう少し小さいですね。タイプの違うハルモニウムというものでは赤坂の霊南坂教会のものがありますが、それが、このオルガンに匹敵する大きさでしょうか。
武蔵野音楽大学の楽器博物館のハルモニウムは、もう鳴りません。同志社の高等学校に明治学院と同じ型のオルガンがありますが、これも鳴らない。
ですから、いま実際に演奏できるリードオルガンとしては現在日本で最大で最も古いものということになりましょうか。

いつごろ作られたのでしょうか

このメーソン&ハムリン社製オルガンの形式は、外板には、「STYLE 410」と刻まれていますが、内部には「415」と彫られています。製造年を確認するため、この形式と製造番号、それに写真をオランダでオルガンの修理と販売をしている、ルイス・フイフェナールというマイスターに送って、資料を照会してもらいました。その結果「1907年あるいは1892年」と思われるとの返答をいただいています。ただ一八九二年のメイソン&ハムリン社のカタログの銅版画をみますと、譜面台の形が違います。このようなことから考えて、このオルガンは1904年製と見ています。
リードオルガンの歴史は1840年くらいから始まるわけで、まあ150年の歴史を持ちますが、このオルガンは90年以上前のものであることは間違いがないということです。

オルガンの修理はいつ頃から

牧師の家に育ち、小学生の頃からオルガンを兄貴たちが分解するのに加わり、調整したりしていました。音楽の先生をしていた定年までに約100台くらい、その後30台くらいは修理しています。

オルガンの修理とは

いままでいくつもオルガンを修理しましたが、こんな複雑な機構は初めてでした。送風の部分はどういうふうに風が流れて、どこに入っていくのか、たどって考える必要がありましたし、カプラーの連結部分も四種類あるのですが、これもリードオルガンでは初めて見たものです。
多くの部品は長い年月の中で、いたんできており、皮やフェルトは張り替える必要があり、リードは痛んだものもあります。そして、日本で直せないものは、ヨーロッパに送って直したり新しく作ってもらうこととなります。
このように一つ一つの部品を調べながら当時の職人が何を考えていたのか、それを追いながら修理していきます。木片にわずか0.4ミリの溝を切り、そこにスキンペーパーと呼ばれる皮をはめ込んでちょうつがいにしてあったり、フェルトの厚さや硬さ、膠の量でメカニズムの駆動状態が違ってきます。まあ、オルガンを再設計しているようなものですね。新しく作った方が早いのかもしれません。

これからの課題は

このオルガンは、もともとは手動のふいごによって鳴らされていました。今は電動のポンプで動いていますが、この復元をしたいですね。内部を見るとその取り付け部分だけが頑丈に残っていますが、ふいごの駆動機構やその形は全く分かりません。アメリカのリードオルガン協会の方々に20通の手紙を出しましたが、分からないという回答が7通ほど返ってきています。類似のオルガンがどこにあるかが分かり、渡米して現物を見れば、そこからは再度作ることが出来ると思いますよ。

明治学院オルガニスト長谷川美保さんの話

リードオルガンというと、小学校の教室でみんなで歌を歌ったあのオルガンを思い出す方も多いのでしょうが、このオルガンは規模・質とも全く違います。
手用の二段の鍵盤と足用の鍵盤を持ち、ストップというレバーにより、音色と音量を選択できます。
楽器としてのリードオルガンとパイプオルガンとの存在の違いを考えますと、17世紀から18世紀にその黄金時代を迎えるパイプオルガンは、建物に据え付けられて一体となるものですが、19世紀の中頃から普及するリードオルガンは、ある程度の持ち運びが自由であること、価格がパイプオルガンほど高くないことがあり、このオルガンの発明と普及により、各地各所でオルガン音楽の演奏が可能になったのでしょうね。
発音機構がパイプオルガンと違いますから、テンポの早い曲は余り合わずにしっとりとした曲が似合います。ピアノとの差では、まず鍵盤を押している限り一定の音が減衰せず出ること、ストップというレバーにより音色と音量を選べることでしょう。
このリードオルガンは他のオルガンと比べて表現に幅がとれるように思います。オープンディアパソンというストップを引くと太い明るい音がします。すごく芯があってしかし硬すぎない音です。またビオラのストップでは深みがあって渋い音がします。
また、このオルガンはやはり古い時代のオルガンだけあって、地味ですがしっとりと落ちついた深みのある音を出します。ゆったりとのんびり話せるような味わいもあります。人で言えば、活発でありながら上品で落ち着いたおとなの女性といった感じでしょうか。
オルガンはピアノとは指使いが違ってきます。発音機構の差から、ピアノほどすぐに鍵盤操作に音が対応しませんから、オルガニストはそのことを配慮しながら演奏しないと、音がつながって濁って聞こえてしまいます。これはパイプオルガンに顕著です。ロマン派以降はオルガンにもオーケストラに近い要素を要求されるので、その差が少なくなります。そして、このリードオルガンは指で音のニュアンスを作ることがそれなりに出来ますね。
ピアノをやっている人が、足鍵盤付きのオルガンを見て、ペダリングを勉強すれば弾けると思うようですが、実は手のほうが難しいんですよ。
12月のレクチャーコンサートでは、リードオルガン発祥の地であるフランスのセザールフランクの曲を弾きました。曲の進行が滑らかで、リードオルガンのやわらかい音を楽しんでもらえたと思います。パイプオルガンの曲は一つ一つのパイプの音がシャープにでるバロック時代の曲を選び、パイプオルガンの音を比較して理解してもらえるようにしました。
このリードオルガンはこれからは記念館小チャペルでの礼拝や行事に使われていきます。留学などで9月卒業の方は、入学式はパイプオルガン、卒業式はリードオルガンが聞けることになりますね。
宗教部では「パイプオルガン講座」をやっています。
この中に修復されたオルガンを取り入れてもみたいなとも思っています。
そして、横浜から進級してくる学生が来る4月には、何か小さな演奏会を行なってみましょうか。

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