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ある定期試験の講評

阿部満

 

1.出題意図
  基本的な事項について説明する小問を10題出題。全問必答形式。いずれも授業でかなり強調した事項であり,今後,契約法,民事法(民法,商法系科目,消費者法科目,企業法科目など)を理解する上で必要不可欠なものばかりである。
 本来,大学は,「学問」という形式の中で,問いを見つけ,問いの構造を分析し,問いの解決策を導き出し,解決策に含まれる問いをさらに発見する知的作業をする場所である。各科目の授業は,担当者が問いを発し,問いに近づくための基本的知識・思考方法,過去の解決策を説明する。学期末試験が行われる場合は,通常授業で扱った問いの中で重要なもの(事例問題であれ,一行問題であれ)を出題し,学生がその問いに関する基本的な知識,思考方法が身についているか,さらにここの学生がその問題にどのような解決を試みるかを評価する。講義形式の授業においては,担当者にとって学生全員から自らが発した問いにどのような反応したかを確認できるほぼ唯一のダイアローグの機会である。
 しかし,この「民事法入門」は上述した大学の授業の標準からするとかなり特殊である意味(知的作業のレベルで言うと)レベルの低い目標をもつ科目である。この科目の目的は,今後学生諸君が民事法に関連するさまざまな法制度の基本となっている事項を理解し,身につけることにある。問いを追求することには重点がおかれていない。日頃の授業も,問いの前提になっている基本的知識と個別の知識の相互関連を中心に説明してきた(もちろん基本の理解のために事例問題等の問いは随所で示してきた)。学生の立場から見れば,説明を理解し覚えることに努める「高校までの作業に毛の生えた程度」の科目ともいえる。
長くなったが,このような科目の目標上,基本的な知識を身につける機会として学年末試験を設定し,幅広く基本的知識が身についているかを短い文章で綴る形式をとった。

2.採点方針
  各問に関する基本的な知識(定義,制度であれば,目的,要件,効果,問題点,条文,典型事例)のうち,重要ないくつか(問によるが,例えば制度を説明する問題ならば,定義,目的,要件,効果のうち3つくらい)が書けていれば10点満点,関連することが書いてありおよその理解できていると思われるものには8,9点,基本的な知識のいずれかが書いてあって誤っていなければ基本6点,理解が間違っている,知識が不正確すぎるものは適宜考慮した。なお,条文の誤記・未記入は今回は考慮しなかった(積極的に書いて正しかった場合には考慮した)。(詳細は略)

3.結果・成績分布・成績優秀者(省略)

4.感想
 大ざっぱな感覚として理解して欲しいが,最終評価で,Sは水準を充たしている,Aは概ねOK,Bは理解不足の点が目立つ,Cは試験準備をしたことは理解できるがあまり理解できていない,Dは現段階では勉強準備不足というメッセージである。B以下の評価であった者は,後期以降の民事法科目(直近では,民法総則1,契約法1)の理解に必要な知識なので確実に復習しておいて欲しい。
 気になっていたことなのだが,出席は概ね良好だったが,授業中に寝ていたり,ノートをとらずに過ごしたりしている者が散見された。責任の一端は私にもあると自覚しており,大学では自己責任が原則なのであえて注意はしなかったが,ごく一部の例外を除きテストの素点に反映されているようである(当たり前ではあるが)。
 試験後のレポートで気になる点があった。授業中解説した事例問題にもかかわらず,まったく関係のない記述をしているレポート,一部分しか解答していないレポートが目立った。ノートをとらなかったのか,とりあえずレポートを提出しようとノートや教科書を確認せずに作成したのか。前者であるなら授業を受けてないと同じであり,後者ならばこちらがレポートを課した意図(もう一度復習して欲しい)を理解しておらず,またレポートを受け取った者にどのように受け取られるのかを理解していない。今回はこのようなレポートであっても加点の対象にしたが,レポートは誠実に書いてこそ意味がある。
 世間ではかなり誤解があるようだが,大学生の時期は飛躍的に知的レベルが向上する。この時期にどう過ごすかでその後の生活がどれだけ豊か(経済的な意味だけではない)になるかがおよそ決まってしまうと感じている。自分で自分を鍛えなければそれなりのリスクが降りかかってくる。同じ学生をみていて一年生と三年生とでは子供と大人,あるいは別人と思えるほど知力が上昇し,こちらにはないものを備えていると感じる者もいれば,相変わらず,こりゃ大変だと思わざるを得ない者もいる。同じ3年生だって前期のはじめにあったときと学年終わりとでは全く違う。学力は努力すれば常に向上し続ける。
 で,大学の勉強は一般的には高校までに比べたら比較にならないほど高度なことをやっている。かなりの時間と努力を割かなければ習得できないし,担当教員が要求する最低限の基準も充たせない。これは事実なのに誰も本当のことを言おうとしない。「大学の講義なんて出ないのが当たり前で試験前に情報集めてちょっと準備すれば単位は取れる」というのは,極めてミスリーディングで無責任な大人の回顧である。これらの発言をする人たちは社会的成功者に多い。この手の人たちは授業以外での学習,あるいは極めて個人特殊的な社会的経験・努力のなかで,基本的な知識あるいは情報収集・処理の方法を自分なりに一定レベルまで発展させている人である。つまりこの手の発言をする人は今はどのように見えるにせよ,19,20歳の段階で皆さんより格段情報処理のプロだったのである。この人達だって,続けて,あるいは別のところでは大体こういう。「大学のときにちゃんと勉強しておけばよかった」。
 誰も大学生になって受験勉強のようなガリ勉を全ての科目についてしろとはいっていない。大学はガリ勉をするところではないし,他人から与えられた教材・課題を闇雲に処理していっただけでは何の力にもならないだろう(よい成績はとれるだろうが。この方面での「危うい秀才」も何人も見てきた)。では,最低限何をやっておくべきなのだろう。大学のカリキュラムはある一定の提案をしている。必修科目というのは「誰でもとれる科目」ではなく,「最低限やっておくと後々困らない(大学の中だけに限らない)科目」だと考えて欲しい。

5.今後のアドバイス
 まず,期末テストに出た問題は基本中の基本ですから,正しい知識をノートや教科書で確認してください。
 1年生にとって後期からの法律科目は,情報量,思考のレベルなどいろんな意味において一段階高いものになります。授業に出て,授業の内容について情報をまとめる,考える習慣をつけてください。90分間他人の話を集中して聞き,情報を処理するのは大変ですが,避けていてはいつまでも力はつきません。習慣づければ誰にでもでき,やった分だけ自分に返ってきます。

履歴:1962年宮城県塩竃市で出生。宮城県仙台第二高等学校卒業,中央大学法学部法律学科卒業,同大学大学院法学研究科博士・前期課程民事法専攻修了,東京都立大学大学院社会科学研究科基礎法学専攻単位取得退学。1992年東京都立大学法学部助手(民法),1996年駿河台大学法学部専任講師,1998年同助教授(民法・環境法),1999年明治学院大学法学部法律学科助教授(民法),2000年消費情報環境法学科助教授(環境法,民法),2004年法律学科教授(民法),現在に至る(2004・05年度法律学科主任)。2006年4月から2007年3月カリフォルニア大学バークレー校ロー・スクール客員研究員(環境法)。
 担当科目は年度によって異なる。明学では現在民法担当教員として雇用されている。
 これまで明学で担当したことのある科目(現在のカリキュラム上の名称に修正して表記):【学部】契約法の基礎,民事法入門,民法総則1・2,物権法1・2,債権総論1・2,契約法1・2,不法行為法,環境問題の展開と法1・2,リスク管理と制度設計(環境リスクについて分担),法律学特講2(交通事故民事損害賠償,一部代講),演習,民事法特講【法科大学院】民事法基礎事例演習1・2,民事法判例演習1,消費者法。【大学院法学研究科】民法研究。
 2013 年度担当科目:(春学期・横浜)民事法入門,民法総則2,(春学期・白金)不法行為法,(秋学期・横浜)民法総則1,二年次演習,(秋学期・白金)不法行為法,(通年・白金)演習,卒業論文。(大学院法学研究科博士課程)消費者法研究。
 研究の対象は,環境法,不法行為法,消費者法,契約法を中心に自分の興味のあること。
 授業を担当する際のモットーは,「勉強するのは,学生。教員が勉強して,学生が楽をするのは,筋違いかつ教育する意味がない。」
よろしくお願いします。