学問の世界へようこそ
蛯原健介
新入生のみなさん,ご入学おめでとうございます。
みなさんは,これから4年間にわたって本学の法学部で学ぶことになります。ひとくちに法学といっても,憲法,民法,刑法等々さまざまな分野があり,また,それぞれの分野の中でも,研究領域は細分化されています。
私の専門は「ワイン法」になります。行政法,経済法,知的財産法などにかかわる学際的な領域で,大学院ワイン法専攻を設置している大学も海外にはありますが,日本の法学部には,そのような名称の講義は存在しません(ワイン法について詳しいことを知りたい方は,下のリストに列挙した最近の業績をご覧ください)。また,日本国内で,ワイン法の研究に取り組んでいる研究者もほとんどいないようです。しかし,そうであるからこそ,海外の学会や国際会議に積極的に参加し,次々と研究成果を公表することを求められます。当然,第一線で活躍する海外の研究者との連携は不可欠ですし,1年に2~3回は海外へ出張することになります(でも,私は海外出張が大嫌いです)。授業や大学の仕事をこなしながら,ひとりで最先端の研究に取り組むのは決して容易ではありません。
大多数の学生諸君が民間企業へ就職することを考えると,法学部の学部教育で期待されているのは,広く法律一般の知識を習得した「ジェネラリスト」の養成かもしれませんが,しかし同時に,専門的な知識を獲得した「スペシャリスト」をも射程に入れています。実際,明治学院大学法学部で学んだ後,大学院での研究生活を経て,別の大学の法学部の先生になって活躍している先輩方は少なくありません。私のゼミでも,国立大学や私立大学の法学部・法科大学院の教員になったゼミ生が何人かいます。
ところで,これからみなさんが学ぶ法律学は,ヨーロッパを中心に発展してきた歴史があります。法律学(とくに民法や刑法)の研究者にとって,ドイツ法やフランス法の知識とともに,ドイツ語やフランス語の能力も必要不可欠です。たとえば,法律学科の学生諸君が誰でも手にする「六法」というものがあります。この六法という概念は,明治初期に箕作麟祥によって翻訳されたナポレオン5法典(民法典,商法典,民事訴訟法典,刑法典,治罪法典),そして憲法典を加えたフランスの6つの法典に由来するものであって,フランス法から生まれたものです。また,ドイツ法が日本法や日本の学説に与えた影響もはかりしれないものがあります。
しかし,今日,私たちは,すっかりアメリカ的な価値観に支配されており,社会では英語の重要性ばかりが強調されています。本学では,英語以外の第二外国語として,ドイツ語やフランス語といったヨーロッパ系の言語,アジア系の言語を習得することができます。これらの言語を学ぶことを通じて,英米とは異なる文化や世界観,価値観に触れていただきたいと願っています。長期であれ,短期であれ,海外に留学する機会があれば,英語圏以外の国への留学を検討してみてください。海外生活,しかも英語すら通じない,ということで不安は大きいと思います。しかし,本学では,フランスのエクス政治学院,リモージュ大学,ドイツのハンブルク大学をはじめ世界各国の大学と協定を結んで,多くの学生を海外に送り出しています。とくに,南仏プロヴァンスにあるエクス政治学院は,法学や政治学の教育で知られるグラン・ゼコール(大学とは異なるエリート養成機関)であり,法学部の学生諸君が積極的に留学に挑戦されることを期待しています。
アドバイスをもうひとつ。入学後,急に目標を失ったり,大学になじめずに困っている人が少なくありません。スタートが肝心です。できるだけ毎日大学に出校して,真面目に授業に取り組むとともに,それ以外の空き時間も,図書館などで学習する習慣を身につけてください。さらに,履修登録した講義だけでなく,シラバスをみて興味をもった講義については,他学年・他学部であれ,「もぐり聴講」をしてみてはいかがでしょうか。人数が限定されているクラスやゼミでなければ,熱心な学生の聴講を拒否する先生はいないと思います。また,平日だけ出校するのではなく,土曜日には白金校舎に足をのばして勉強するように努めてください。法律学科であれば,2年次から土曜日の白金校舎の講義を履修することができます。ぜひ充実した大学生活を送ってください。