武者修行のすすめ
池本大輔
2010 年に明治学院大学に赴任し,国際政治学と国際組織論の講義を担当しています。2002 年から2006 年まで四年間イギリスのオックスフォード大学に留学して,博士号を取得しました。その後関西の大学で数年間教鞭をとり,明治学院に移って来ました。私自身の個人的な経験を踏まえながら,明治学院大学の法学部で学生生活を送ることになったみなさんに,若い間に日本の外に出ることの重要性を訴えたいと思います。
私が中学生から高校生になった頃,世界は激動の時代を迎えていました。冷戦が終わり,ソ連や東ヨーロッパ諸国では社会主義体制が崩壊,それまで分断されていた東西ドイツは統一しました。半永久的に続くかと思われた秩序が雪崩をうって崩壊し,国際環境の変化が多くの人々の人生を一夜にして変える様は衝撃的でした。今から振り返ってみると,そのような激動期を若い間に経験したことが,その後国際政治学の研究者となるきっかけだったのかもしれません。
冷戦が終わりを告げた頃に生まれたみなさんが,今では大学生として明治学院で学ぶ年齢になりました。月日の経つのは早いものです。残念なことに,みなさんが生まれた時期をピークとして,日本の経済力や世界における地位は低下の一途をたどっています。それもあってか,国際政治の講義をしていても,日本の外で起きていることに対する関心はそれほど高くないように思えます。ましてや,海外に留学したい,国際公務員などの形で国際的なキャリアを歩みたい,という人の数は少ないのではないでしょうか。これは何も明治学院に限定された事態ではないようです。たとえば,最近海外の大学に留学する日本人学生の数が減少していることがメディアでたびたび取り上げられ,最近の若い世代は内向的であると嘆かれています。
私には「最近の若者は」という人々の尻馬にのって,みなさんを批判するつもりはありません。留学を経験したものとして,それが金銭的に高くつくだけでなく,必ずしも就職やその後のキャリアを助けるものではないことをよく承知しているからです。日本の非常に硬直した労働市場のもとでは,とにかく新卒時に就職先を確保するのが最優先の目標になるのはやむを得ません。留学していて就職活動のシーズンを逃せば,留学中に身につけた多少の語学力などは,たいしたアドバンテージにならないでしょう。その意味で,今の日本社会の枠組みを前提とする限り,留学しないという選択はむしろ「合理的」な選択だといえるかもしれません。
それでも私がみなさんに日本の外に出ることをすすめるのには理由がありま
す。それは,グローバル化が続く今の世界の中で,現在の日本社会の仕組みが長く続くことはないと思うからです。社会というのは,あくまで人間がつくりあげたものであって,自然にできたものではありません。たとえ私たちの住んでいる社会がどれほど不変のもののように見えたとしても,決してそのようなことはありません。冷戦の終焉や社会主義体制の崩壊は,それを何よりもよく示しています。狭い日本の社会の殻に籠もり,その仕組みに自己を適合させることで「合理的」に生きようとしても,仕組み自体がいつまで続くかわからないのです。みなさんの中で一人でも多くの人が若いうちに日本の外に出て,日本以外の社会を知り,そこに住む人々との交流を深めることを期待します。そうすることで,これからの日本が進むべき道についても新たなアイデアが芽生えてくるのではないでしょうか。