大学時代のなかで見つけるもの
辻 泰一郎
日頃20歳前後の大学生と接していて思うことは,学生諸君が非常に素直で真面目なことであり,同時に,しかし,無個性的で,突出を恐れて目立たなく存在している人たちがかなりいそうだということである。実際は,個人個人によって相当違いがあり,またそれぞれに悩みもあり,一律に語ることは適切でないであろう。
そこで私は,明治学院大学の平均的な学生像を念頭に置いて,学生が大学特代にどんなことに注意して生きていったら良いか,気のつくままに記したい。
先ず第一は,やはり高校までの,親や学校によって指導されている生活から,大学生として一人前の自主的な判断をもって主体的に生きていくという生活に変わるということである。即ち,自分の生き方が,自分が規律される身から自ら自身を規律する身に変わることになる。そこで私が言いたいのは,自分自身の今までの生き方について,反省をし,これからどんな自分になる(なりたい)のか自分目身を深く見つめることが必要であり大切である,ということである。要するに,自分自身を見つめ,自己発見をし,潜在したままの自分を呼び戻していくことである。本当は,自分は何をしたいのか,自分は何になりたいと考えている(存在)なのか,などなど,大いに悩んで,自分と対話をし,自分自身をよく知って欲しいと思う。
第二に,右の「自分探し」の延長として,自分が何をしたいのか,何に向いているのか,どんな資質があるのか,を確かめることができたら,自分の人世の大きな目標を見つけることがもうひとつの課題となる。将来,杜会人としてどんな分野で,どんな仕事をしていこうというのか,自分の人世の夢を描いて見ることが是非とも必要である,夢はそれぞれ個人によって違うだろう。A君は法曹になる夢,Bさんは公務員,C君は実業界で,Dさんは起業家,E君は研究者,Fさんはジャーナリストなどなど,いろいろある。いずれでもいい。要するに,自分の人世で何をしたいのかをはっきりさせるのは,学生時代が最もふさわしく,しかも,早ければ早いほどよい。目標が明確になれば,それへの準備と対応をより早期にすることができるからである。
第三に,自分の夢と関係するものであるが,せっかく大学には立派な先生方が沢山おられるのである。勿論しかし,それは何も大学の中だけにかぎられている話ではない。世間的にすぐれた人々は大勢いるからである。自分(の夢)にとって大切な,あるいは決定的に重要な「師」と出会うこと,逆に言えば,自分の「師」を見つけ出すことが重要な意味をもつ。「師」とは,要するに,職人で言えば,自分が弟子入りして業を学ぶ「親方」のことである。だから,別な風に言えば,すぐれた「師」に出会うことによって,自分の将来,自分の人世が決まってくる部分もあるのである。だから「師」は大事である。優れた「師」をできるだけ多く見つける努力を惜しむべきでない。
以上私は,大学時代に三つのこと,自分自身を見つめること,自分の目標(志)を見つけること,そして,自分の「師」を見つけること,が大切だと述べた。
大学が人格の形成の場であるとすれば,優れた友人との出会い交流を深め,互いに切磋琢磨することも重要であることは無論である。
が,それで問題が終るではない。むしろ,そうした自分自身の世界を構築するための基礎固めをするのが,大学生活の中味となる。
だから,それぞれは自分の目標に向って,必要な基礎とスキルの修得,例えば語学力,あるいは,情報技術の修得,さらには,専門的な学問の履修が不可欠となる。
漫然と大学時代を過してしまうことはもったいない。是非とも4年間という時間を有意義に活用して欲しいと思う。
最後に,基礎法学(西洋法制史)の担当者として,基礎法学について一言述べておきたい。
医学に臨床医学と基礎医学があるように,法律学にも,実定法解釈学と基礎法学の区別がある。法解釈学は日本の現行法の実用的な法解釈を学問の中心に据えるものであるが,これに対し,基礎法学は,法規範の効力根拠や正統性,法の目的に対する考察,法規範の構造や論理の分析,また,法現象の杜会学的考察,諸外国の多様な法制度の研究や比較,さらには,過去の法文化や法思想,法制度の歴史研究など,現行のわが国実定法の解釈理論とは異なる研究をするもので,言わば実定法解釈学に奥行きのある認識を提供するものである。従って,4年間の法学部在学中に,いくつかでも基礎法学科目を履修することを諸君にはおすすめした。
私の担当する西洋法制史(1,2)についてイメージをもつために,手頃なものをいくつかあげるとすれば,①ヘルムート・コーイング(久保・村上訳)『近代法への歩み』東京大学出版会,②クヌート・W・ネル(村上訳)『ヨーロッパ法史入門・権利保護の歴史』東京大学出版会,③山内進『決闘裁判』講談杜新書,④ペーター・スタイン(屋敷他訳)『ローマ法とヨーロッパ』ミネルヴァ書店をおすすめしたい。