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2003年度エッセイ

白金通信「紙上カウンセリングQ&A」より

白金通信「カウンセリング・ルーム」より

ご注意!悪質商法

Q.20歳の男子学生の母親です。最近ある大手企業名で息子宛てにハガキが何度か送られてきました。担当者は女性の名前になっており、「至急連絡したいことがあります」と書かれていました。ところがそこに記されていた電話番号は実際にはその企業のものではありませんでした。その後自宅に直接電話がかかってきたときには、息子に旅行の紹介をしたいと話していました。  意図がよくわからないハガキと勧誘を不信に思っていたところ、しばらくして同様のハガキを使った悪質商法のことをテレビで知りました。次から次へとそうした悪事を考える人間も不届き者ですが、短時間で楽にお金になるならという風潮の若者が多いことにも呆れてしまいます。
A.つい先月のことですが、悪質商法の一つであるマルチ商法の被害に遭う大学生が急増していることを受けて、文部科学省から全国の大学に対して被害防止に努めるようにとの通達が出されました。本学のキャンパス内でも注意を促す掲示を目にした方もいらっしゃるでしょう。この種の通達はねずみ講の被害が広がった1978年以来実に26年ぶりのことだそうです。それだけ今この問題が深刻になっているわけです。
マルチ業者の主な手口は、勧誘員を使って高額な商品を売り付け、さらには加入金等を支払わせてその商品の購入者自身も勧誘員にしてしまうというものです。実は勧誘員を集めて出資させることがマルチ商法の目的であり、この点はねずみ講とまったく同じです。
大学では勧誘員になった学生が「週に7、8万円の収入」、「勝ち組になろう」、「友だちを誘って金持に」といった誘い文句で友人の学生らを勧誘し、被害が拡大しました。「友だちの数は多いが、関係は浅く、限定的で、交流が途切れることに敏感」という現代の若者は特にマルチ業者の餌食になりやすいところがあるのかもしれません。
ところで「儲美頭信健」という言葉をご存知ですか?「儲」は不動産・金融商品、「美」はエステ・化粧品、「頭」は教育・資格・語学、「信」は信仰・宗教、「健」は健康のことで、「ちょびっとしんけん」と読むそうです。悪質業者はこれらの商品、手段と、「勝ち組/負け組」、「ポジティブ指向」、「癒し」といった現代社会のキーワードを巧みに利用して私たちを罠に陥れようとするのです。

もし悪質商法の問題に巻き込まれた場合には、早めにクーリングオフ等の対策を取る必要があります。大学では学生部や学生相談センターが窓口になって対応しています。「自分だけは大丈夫」と思っていても、いざ巻き込まれると考えるゆとりをなくしてしまいがちです。お一人で抱え込まずどうぞご相談ください。 
(白金通信2004年3月号「紙上カウンセリング」より転載)



表現による癒し

Q.テレビ番組のカウンセリングの場面で、砂箱にミニチュアのおもちゃで作られた作品を見かけたことがあります。あれは何でしょうか。カウンセリングに使われているのでしょうか。実は今、あることで悩んでいて相談に行きたいと思っているのですけれど、人に話すのが苦手なのでうまくカウンセラーの方に話せるかどうか不安になっています。私のような口下手なものでもカウンセリングを受けることができるのでしょうか。もし受けられるとすれば、どんな方法があるのか教えてください。
A.あなたのおっしゃっているのは箱庭だと思います。そういえば、最近、よくテレビなどで箱庭を見かけることがありますね。それだけ箱庭療法が普及しているということでしょうか。もちろん、学生相談センターにも置いていますので、あなたも作ってみることができるのですよ。
今、あなたは悩みごとを抱えていらっしゃるのですね。どんな悩みなのでしょうか。でも、うまく話せるかどうか不安でカウンセリングを受けにいく勇気が出ないのですね。大丈夫です。相談室はどんな方でも安心して自分を表現できる、温かくて安全な場所なのです。カウンセラーはあなたの気持ちに寄り添うようにひとつひとつの言葉を大事にして耳を傾けます。ですから、話せた、分かってもらえたと思えた時には、こころがスーッと軽くなって、新しいエネルギーが沸いてくるでしょう。そして、さらに深いこころの問題に取り組むかもしれませんね。
ところで、カウンセリングは言葉だけでなされるものではありません。悩みや苦しみを言葉でどう表現したらよいのかわからないという人には、あなたも注目している箱庭療法などの言葉を使わない方法もあるのです。絵やコラージュもそうですが、これらは言葉では表現しにくいこころの内面を表す手がかりになります。自分の気持ちにぴったりの作品ができた時には、とても満足のいくものです。このような体験を繰り返し続けることが、癒しに繋がり、心理的な問題の解決に繋がるのですね。
そうは言っても、カウンセラーの前で作品を作るというのも、緊張して嫌だと思われるかもしれませんね。その点、箱庭はすでに揃っているいろいろな種類の人や動物、建物や乗り物などのおもちゃを使うので、絵のように上手下手を気にしなくてすみ、とても取り組みやすい方法です。
ところで、箱庭と同じように、こころの内面を表わすものに夢があります。たいていは朝起きると忘れてしまうのですが、何か解決しなければならない問題を抱えている時などには、気にかかる夢や印象的な夢をよく見るものです。目覚めた時にちょっと振り返っておくと覚えていられますので、箱庭と平行して、このような夢を話題にすることもよい助けになります。
少し勇気を出して相談にいらっしゃいませんか。
(白金通信2004年2月号「紙上カウンセリング」より転載)



心の声は聴こえていますか?

Q.21才の女子大生です。年末年始に食べ過ぎたせいか、最近よくお腹をこわします。下痢が続いたと思うと便秘にもなるのですが、特に下痢になると怖くて外出もできなくなってきました。暴飲暴食が原因だと思っていましたが、友達には何かストレスがあるのではと言われました。思い当たることはないのですが、どうしたら良くなりますか。
A.確かにストレスで下痢や便秘になることがあります。一過性なら食事などを見直すだけで改善することもありますが、両方を長期に繰り返すようなら過敏性腸症候群かもしれません。
これは心身症の一つで、読んで字の如く心と身体の病気です。腸症候群という名称から単純に腸の病気と勘違いされやすいようですが、心と身体とはそもそも深い無意識の領域で関わりをもち、互いに影響を与えあっています。誰でも不安や葛藤が生じることはありますが、それらを心で受けとめられないと、かわりに身体が受けとめてしまいます。辛いとか悲しいなどの心の声を聴き取れなくなったとき、身体がかわって悲鳴をあげるのです。そしてそれは、特にその人の体質的に弱い部分に表れやすく、貴女の場合はそれがお腹だったのでしょう。
ですから逆に、心が元気になると身体も健康になっていきます。例えば、夫婦間の問題で心身に様々な症状を呈し苦しんでいたある女性は、カウンセリングで心の整理がつくたびに健康体になっていくのでびっくりしていました。視力が上がり、髪が早く伸びるようになり、爪が割れなくなり、冷え性も治り…。むろんそうなるまでには、時間や彼女自身の努力も必要でしたが、それこそ頭の先から爪の先まで変わったのだから驚くのも無理はありませんよね。その後彼女は、「心と身体の声」が聴こえるようになったら、自分がどうしたいのか、どうすればいいのかが分かるようになったと語ってくれました。
貴女も何か心配事や悩み事はありませんか。親子関係や恋愛、就職など気がかりは多々あるかもしれません。ただ実は、自分ではたいした悩みではないと思っている事柄の中に、意外と大きな落とし穴が隠れていたりするのも心身症の特徴です。「たいしたことではない」と思うことこそが、心で受け止めきれないがための、そしてそれ以上傷つかないための心の守り方になっていることがあるのです。
心はいろんな形でSOSを発するものです。まず、そういうこともあるのだと認識してみてください。そして、本当にたいしたことではないのかどうか、自問自答してみましょう。気づかなかった心の傷が見えてくるかもしれません。
健康だろうがなかろうが心は常に何かを感じています。・・どう・・・考えた・かよりも・・どう・・・感じた・かを大切にし、それらを素直に受け取れるようになれば、自ずと対処の仕方も見つかるでしょう。
なお、一人ではどうにもならないとき、お薬やカウンセリングが助けになることもあります。ぜひ専門家に相談してみてください
(白金通信2004年1月号「紙上カウンセリング」より転載)



家族への想い、モヤモヤしていませんか?

Q.今年もクリスマス、お正月と、本来なら楽しいはずの行事が続く季節が近づいてきましたが、去年のこの時期には憂うつな気分が続いたので、ちょっと気がかりになり投稿してみました。日常生活は順調です。大学生活は楽しいし、友達にも恵まれています。アパートは狭くて、バイト代での生活に余裕はないけれど、ひとり暮らしは憧れだったので、今はそれなりにやっているつもりです。
ただ、去年は一月いっぱい頃まで気分がすっきりせず、授業もしばらく休みがちでした。実はお盆の後もそんな感じがしばらく続きました。今年は彼氏を作って乗り切ろうかと思っていましたが、なかなか思うようにいきません。来年からは就職活動もあるので、今のうちに何とかしておきたいと思っています。アドバイスがあればお願いします。

A.大学生活そのものは楽しく前向きに送っていらっしゃいますが、どうも盆暮れ前後に帰省してから心のバランスを崩しやすいということのようです。
この方の場合、普段は家から離れて大学生活を充実させることで、家族との付き合い方や家の抱える問題から距離を置くことができているのではないでしょうか。帰省は、ひとりでがんばってきた緊張がほぐれてほっとする感覚と同時に、高校時代までの親子、家族の問題にもう一度向き合う体験にもなっているようです。それで、家族の元に戻った折に憂うつな気分が出てきているように思われます。このような相談は、実は毎年寄せられているのです。
日ごろ皆さんのお話を伺っていると、自宅通学の学生であっても、大学の4年間に家族との関わり方が相当変わってくるように思います。友達関係やサークル、バイト、その他のあらゆる体験を積むうちに、今まで自分を育んできてくれた環境を振り返り、さまざまな特徴が見えてきます。
その中には、感謝だけではなく、場合によってはそれらと同時に、束縛や不自由さ、家族が何世代にも渡って抱えてきた問題など、マイナスの面も多々見えてきます。二十代にはそれらを整理して、新しい次元から向き合うことで、家族ともちょっと大人の付き合い方ができるようになることが望まれます。
この方の場合も、ちょうどそのような課題に向き合うのに期が熟してきているのではないでしょうか。憂うつな気分が出てくるというのも、もしかしたらそのような心の課題に取り組むのにエネルギーが費やされているためなのかもしれません。このような場合、友達や交際相手もよい支えになってくれるでしょうが、学生相談センターでも、心のバランスに注意しながら一緒に考えていくことができます。ここで一度、自分の育ってきた世界と向き合っておくことで、これからのよりよい職業選択や異性との出会いの準備ができたら・・・と思います。
(白金通信2003年12月号「紙上カウンセリング」より転載)



ひきこもりへの上手な対応

紙上カウンセリング第一回目の今回は、現実というものに否応なく直面させられる休み明けのこの時期に問題化してくる「ひきこもり」について取り上げます。
尚、今回の相談は架空のケースです。

Q.現在1年生の息子がゴールデンウィーク頃から大学に行かなくなってしまいました。夏休みが明けて新学期が始まる10月は新にスタートを切るよい機会と思っているのですが、きちんと通ってくれるか心配です。
家の中ではわりと元気に過ごしているのですが、最近は大学に限らず、外出すること自体があまりなくなりました。この夏休みも部屋にこもりがちで、インターネットばかりやっているようでした。サークルに入っていないせいか、大学内には親しい友人がいないようです。

A.新学期が始まって「これからどうなるのか」とイライラと落ち着かない気持ちは、たとえ一見そうは見えなくても、おそらく息子さん自身がこころのどこかで感じている気持ちそのものであるといえるでしょう。
このときご両親にはそうしたつらい気持ちを何とかもちこたえるだけのゆとりを回復していただきたいと思うのです。そのためには夫婦の支え合いも必要でしょうし、専門家へ相談することも力になると思います。そうやってご両親自身がご自分の気持ちをケアすることができるようになることが、息子さんにもよい影響を与えると思います。
逆に、家から早く出そうとして、焦ってアルバイトを強く勧めたりすることは避けた方がよいのです。まず大切なことは、家庭の中でのコミュニケーションを回復し、本人の身の置き所を家の中に作ってあげることなのです。そのためには大学や将来のことを突きつけるのではなく、趣味や時事問題など当り障りのない話題から始めるのがよいと言われています。本質的な話題を話し合える雰囲気が醸成されるまでには十分な時間が必要なのです。 (白金通信2003年10月号「紙上カウンセリング」より転載)



お気軽に学生相談センターへ

新入生の皆様、入学おめでとうございます。
新しい大学生活をどんな気持ちで過ごしていらっしゃいますか。
例えば、入学式の日、さまざまな雰囲気を漂わせた学生たちの中にひとりぽつんと放り出されていることに、ふと不安や違和を感じたかもしれません。
サークルに新入生を歓迎する人いきれの中、次から次に催されるオリエンテーションなどの行事のために学内のあちこちを移動し、履修制度など、大学のシステムについての情報をいきなり大量に浴びせられて困ったかもしれません。単位の取り方についての自分の理解は本当に正しいのだろうか? 行事予定表にあるこの行事に自分は出席しなくていいのだろうか?。
食堂であたりを見回すと、すでにあちこちのテーブルで、話をはずませ、友達になり始めているかに見える数人組を見かけて、ふと焦りを感じたりしませんでしたか?
大学生活は、日々をどのように過ごしていくかについて、皆さんの自主性と主体性に任されている部分が非常に大きいと思います。
高校までのように、毎日多くの時間をクラスメートと過ごす決まった教室もないので、友達を作るきっかけが見つけにくいとか、人間関係がすごく淡いと感じられるかもしれません。
大学としても、皆さんのためにいろいろなメニューを準備していますが、それをどう活かすかは皆さん一人ひとり次第ということになります。そして、その「自由」は、不安や孤独、よるべなさと隣り合わせのものだと思います。
また、大学に入ったものの、それまでに解決できなかったさまざまな悩みや問題を引きずっていると感じている方もあるでしょう。
学生相談センターは、そういう皆さんのために開かれた「よろず相談窓口」です。こんなことでわざわざ人に相談するのはどうかと思われるような事柄こそ、お気軽に相談していただければと思います。
相談内容によっては、大学の他の部署がふさわしいケースもあるかもしれませんが、そうした場合には、適切な相談場所を改めてご紹介しますので、迷ったらまずは相談センターへ、というおつもりで構いません。11名の専門スタッフが応対いたします。
恐らく答えはひとつではないでしょう。皆さん一人ひとりにとって納得のいく対策をご一緒に考えていければと思っています。
まずはお電話でも結構ですし、ご家族からの相談も受け付けています。ご希望があれば、日時を決めて継続的にご相談に応じることもできます。相談内容についての秘密は厳守しますので、ご安心ください。
白金通信2003年4月号「カウンセリングRoom」より転載)



「5月病」かな?と思ったら

新緑の美しい季節となりました。新学期から一ケ月、一年生の皆さんは大学に慣れましたか? 在校生の皆さんは、早くも忙しい日々を過ごしているのではないでしょうか。
そんななか、周りの元気一杯な雰囲気に圧倒された気分になっていませんか?また、やりたい勉強と違う、入りたいクラブも見つからない、あるいはそういう悩みを話せる友人もいない。「あー何やっているんだろう」とか、「こんなに苦しいのは私だけ」と感じている人はいないでしょうか?
5月は新学期の緊張が少し落ち着き、フッと気が抜けたり、疲れが出る頃だったりします。また気持ちを前向きにしようとしたものの、まだやりたいことや友人に出会えなくて落ち込む時期でもあります。こんな心境が続くと、俗にいう「5月病」にかかることもあります。
もしそんな落ち込みを感じていたらどうすれば良いのでしょう?・・・大学時代は自分で行動する経験によって自立心や生活力をつける時代です。でもその課程では悩みや落胆もあって辛かったりもします。重い落ち込みが余り長く続くと、もう何もする気力がなくなって心を閉ざしてしまうこともあります。そこまで落ちこまれてしまう前にぜひ次の三つを試してみて下さい。
まずは基本的なことですが、やはりきちんとした睡眠と食事です。睡眠と食事がとれて身体が少し回復すると、心も回復する場合があります。今からでも少しづつ12:00PM頃には就寝し7:00AM位に起きたり、ちゃんと食べるように心がけて下さい。生活リズムの改善で自己嫌悪感が回復することもあります。
次は適度な運動です。身体を動かすよい季節、駅から大学までを歩いたり、ストレッチ体操や水泳もいいでしょう。気分転換や頭が軽くなって幾らか回復したりします。 それでもだめな場合、やはり誰かに相談しましょう。話すことは、気持ちを楽にしたり、前向きに考える効果があります。
ところがそんな話ができる友人が見つからないと悩んでいる人、多いのではないでしょうか。自分の話を相手はどう思うだろうか、くだらないと思わないだろうか。馬鹿にしないだろうか。嫌われないだろうかなど、心配があると気を使って疲れてしまって、だんだん人に話すのがおっくうになったりします。でも実はそういうパターンはずっと長い間続いていて、同じことの繰り返しになっていないでしょうか。今年はそういうパターンを何とかしてみませんか。
人はつらい時ほど自分の気持ちを察してくれる人を求めます。でもそういう人は待っていてもやってきてはくれないものです。自分からまず一歩踏み出してみませんか? 5月病対策について書きましたが、長びかないうちに専門家(先生・医師・保健婦)に相談しましょう。学生相談センターでもご相談にのれますのでよろしければご連絡をお待ちしています。
(白金通信2003年5月号「カウンセリングROOM」より転載)



就職活動で見えてくること

新学期がはじまって、はや2ヶ月が過ぎました。皆さん新しい生活には慣れてきた頃でしょうか。今回は、とくに3 - 4年生の皆さんに向けて、就職活動について考えてみたいと思います。 先日とても久しぶりに、大学時代の友人と会いました。彼女は大学卒業後、大きな金融関係の会社に就職し、数年間働いたのち、会社を辞めて、ある雑誌社に就職しました。そこでの仕事は大変だったそうです。10年以上働きましたが、結局は会社での人間関係と、自分のやりたい事を通すために、彼女はフリーの編集者として独立しました。久しぶりに会った彼女は、見違えるように元気になっていました。卒業して以来、「仕事が忙しい」といって、どんどん疲れていく彼女の様子に、いつも心配していたものですが、独立した彼女は別人のように生き生きとして見えました。彼女によれば、仕事はとても順調で、以前の会社での仕事関係の友人から、依頼が絶えないそうです。会社にいた時のような人間関係のトラブルや、雑用にも煩わされず、仕事に集中できる環境にとても満足だということでした。思えばこうした状況にいたるまで、仕事についてから何年かかったことでしょう。
大学3年になり、就職活動ということばが視野に入る頃、突然私たちは社会というもの意識するようになります。それまで聞かれたこともなかった、「あなたはどんな人ですか」「何をしたいのですか」という問いを投げかけられ、考えれば考えるほど、分からなくなってくるばかり。それまでは、親や先生の言うことを聞いていて、周りに合わせていれば、「よいこ」だったのが、突然積極性やら自主性、はては個性といったものを求められ、生まれてこのかたしたこともなかった「自己アピール」とやらをさせられる。これは受験戦争とは全く違う、正解は分からないけれども、結果だけははっきりと表れる、これまで経験したことのないゲームのようです。
そんな就職活動をすることで、皆さん少しは自分の将来のビジョンが見えたでしょうか。でもそれは、さきの友人の例からも分かるように、本当に長い人生の初めの一歩に過ぎないのです。そこからがはじまりなのです。自分の思った通りの企業に就職できた人も、実際の職場に入ってみると、意外と幻滅することもあるでしょう。自分が周りの期待に添えないように感じたり、皆が自分より優れているように見えたりもするでしょう。そこからが、あなたのスタートです。思ったように就職活動が進まなかった人も、それがあなたのスタートです。自分のやりたかったことを改めて見つめ直し、なにが叶わなかったか、これからどうすればよいか、じっくり考えてみて下さい。何かが見えてくるはずです。時間はたっぷりあるのです。
そんな時に一人で悩み迷ったら、ぜひ一度学生相談センターにお寄り下さい。私たちと一緒に考えてみてはいかがですか。少しでもお役にたてればと思って、お待ちしております。
(白金通信2003年6月号「カウンセリングROOM」より転載)



15年前の夏休み

これまで毎回こころに関するさまざまなテーマを取り上げて、学生相談センターのスタッフがお話しするというスタイルで長い間続いてきたこのコラムですが、10月号からは内容を一新し、学生、保護者の皆様からご相談をお寄せいただき、それに対してカウンセラーがお答えする「紙上カウンセリング」を掲載する予定です。
そこで今回は、ひと区切りになるこれまでの「カウンセリングRoom」を振り返って、ちょっと感慨にふけってみたいと思います。
そもそも白金通信にこのコラムが掲載され始めたのは22年前の1981年のことでした。残念ながらその当時の原稿は学生相談センターには残っていないのですが、1988年以後のコラムがスクラップブックに綴じられていました。
今読み返してみると、学生相談室(学生相談センター」となる前の名称です)の紹介から始まって、人間関係、就職、学業等々の大学生特有の問題に触れながら、カウンセラーがそれぞれの想いやメッセージを徒然に書いているという印象を受けます。
たとえば1988年の夏休み前には細井八重子先生の次のようなコラムが載っていました。ちょっと長くなりますが、引用したいと思います。
大学に入ったら、大勢の友だちをつくって青春しよう!と意気込んで入学してきたのに、思いがけず友だちの中にいて浮いている。ネアカでなくちゃ…と気を取り直して努力して頑張ってみても、生きたことばが使えない。(略)もろいと言えばもろい。でもそれがもし自分というかけがえのない存在にとって事実なら、そこから出発するしかないではありませんか。まずはおいしいものを食べてグッスリ眠って、ふっくらと心が回復するのを待ちましょう。もうすぐ夏休みです。夏は気分が開放されてホッとするとき、魂のすばらしい瞬間が現れるかもしれません。
大きな期待とともに始まった大学生活が必ずしも思い通りにはならず、夏休みを前にしてちょっと疲れて、傷ついている1年生がこのコラムを読んで気持ちが少し癒されれば…そんな想いが込められた文章だと思いませんか。
今同じような気持ちでいる1年生や、就職活動が煮詰まってしまってこころのゆとりを失っている4年生の皆さんにも同じようなメッセージを送りたいところです。そういう意味では今も昔もこのコラムの本質は変わっていないのかもしれません。
その変化のなさにときどき「マンネリかな」と思うこともありますが、一方で、毎日代わり映えしない家事ではあっても、それを繰り返しながら家族を思いやり、抱き続けている「母親」のような意味がこのコラムにはあるのかもしれないなと思ったりもします。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
(白金通信2003年8月号「カウンセリングROOM」より転載)

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