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2008年度エッセイ

白金通信「カウンセリング」およびポートヘボンお知らせより

「学生相談センター」で相談する

その大半が青年期に属する大学生の言動は、時として、自分自身を確かなものにしようと懸命に生きている姿の現れなのかもしれません。懸命に生きることへの手がかりを、人に頼らず自分の力で解決することと捉え、実践するのは間違いではないでしょう。未知のカウンセラーに相談する気になどなれない、というのも素直な反応だと思います。独力で困難を乗り越えたという実感は、その人を内側から支えるものの一つとなります。人に相談すると想像しただけで身悶えするようなことを、敢えて人に相談するとき、いくぶん身を捨てるようなところがあります。これには、有益な面も、有害な面もありますが、その中で自分をカウンセラーとともに見つめなおすという体験が、等身大の自分を実感する機会になることがあるようです。
相談するほどの悩みではないと相談をためらう学生も多いようです。相談内容の深刻さ、重大さは本来的に比較不可能なものです。家族や友人など、近しい人に相談し、危機を乗り越える学生も多いのでしょう。その一方で、聴き手が未知のカウンセラーであったことが、相談するのに有益であったと語る学生も多いのは、それぞれ置かれた状況が異なるからなのでしょう。
カウンセリングの定義はいろいろあります。相談する人の自己理解がすすみ、自分の抱えている困難にどう対処していくかを自分で判断し、実践していくのを手伝うこと、というのが共通する部分かもしれません。自分のことは自分が一番よくわかっている、と自負しているならばしめたものです。汝を知れ、という言葉の重みを実感するのは時間の問題だからです。
つらい時、寂しい時、乗り越えがたい困難を抱えている時、人が自分を支えようとする方法は、独り月夜を見上げることから、好きな音楽を聴いたり、動物と戯れたり、他にもいろいろあるでしょう。自分の中にひたすら抱え込むよりは、壁に向かって話すほうがまだマシで、壁に向かって話すよりは人に話す方がよいのかもしれません。独り頭の中で考えているよりも、他人に話すほうが考えはまとまりやすく、自分自身への気づきを得られることが多いようです。自分への理解が深まるということは、自分がどんな勝性分の人間なのかわかるということでもあります。カウンセリングがそこそこ役に立った場合、結果として、力が抜けて伸びやかさが増した雰囲気になることが多いようです。自分の性分にそれほどさからわずに日々を送るようになるとも言えますが、それがなかなか難しいのが我々、人なのでしょう。
両校舎の学生相談センターに男女数人の臨床心理士が勤務しています。保証人、ご家族からの学生に関する相談も可能です。お越しの際はお電話をください。
(白金通信2008年4月号「カウンセリング」より転載)


五月病

今年は見事に咲いた桜の花も今やまぶしいほどの若葉へと変化し、初夏を感じさせるような季節となりました。入学式の頃からすでに一ヶ月経ちましたね。新入生の皆さん、新学年へと進んだ皆さんは今この季節の変化をどのように感じて過ごしていらっしゃるのでしょうか。
新入生の皆さんにとっては、大学という未知の世界に飛び込み、期待半分不安半分、ドキドキハラハラの1ヶ月だったでしょうか。そろそろ慣れてきたと感じる人も、反対に自分はなにか乗り遅れてしまったのではないかと感じている人もいることでしょう。自分が期待していた大学生活とはどこか違うと感じたり、思ったほど充実していないように思っている人もいるのではないでしょうか。友達作り、サークル、アルバイトなど、楽しい大学生活を夢見ていたはずが、まだまだそうでもない。周りを見てみると、自分よりも忙しく充実しているように見えて、焦り始めたりしていませんか。
2年生、3年生は就職活動を意識し始める時期でもありますね。4年生になるといよいよ最後の学生生活、卒業や就職に向けて、より現実的な方向性を問われる時期といえそうです。大学で友人に会う機会はますます減り、他の友達は何をしているのだろうかなどと、不安に感じることはありませんか。
この時期「五月病」という言葉もあるとおり、4月には期待を膨らまして新しくスタートを切ったものの、なかなか思い通りに事が進まなかったり、乗り遅れたように感じたり、そろそろ疲れを感じ始めるなど、さまざまな不調を感じやすい時期でもあります。どことなく元気がないように感じたり、眠れなかったり、食事が進まなかったり、いつもより孤独を感じたり、なにかの不安が頭から離れなかったり…人によってさまざまですが、心配なことがあれば、一度話に来てみてはいかがでしょうか。
学生相談センターは、月曜から金曜まで毎日、白金は10時から20時、横浜は10時から17時まで開室しています。各校舎には1日2人から3人のカウンセラー(臨床心理士)が勤務しています。基本的には予約制ですが、直接いらした場合でも可能な限り対応させていただきます。ご相談の内容については、秘密を厳守いたします。どのようなご相談でもかまいませんので、どうぞお気軽にご利用ください。お待ちしています。
(ポートヘボン「お知らせ」(5月)より転載)


三ヶ月目の憂鬱

よく3日、3ヶ月、3年といいます。免許を取ってから交通事故を起こしやすい時期とも、恋人がわかれの危機を迎える時期とも聞きます。新しいことを始めたとか初めての環境の節目にあたり、物事に慣れてきて気の緩む時期でもあるし、壁に突き当たり辞めようか続けようか迷う時期とも言えるでしょう。
振り返れば明学生も新学期が始まって早3ヶ月。新入生のみならず、横浜校舎から白金校舎に移ってきた3年生、就職活動が山場にさしかかっている4年生、それぞれ新しい環境に慣れてきた頃でしょうか。一方で疲れが出やすい時期です。折りしも季節柄、体調を崩しやすかったり、曇り空や雨模様のお天気に左右され気分が落ち込む人も出てきます。大地にとっては恵みの雨も人によっては憂鬱にしか感じられず、何となく眠かったり、学校に行くのが億劫になってきたり、ということもあるかもしれません。特に最初から頑張らねばと飛ばしすぎた人は要注意です。早いうちに単位を取ってしまおうと履修を詰め込みすぎた人、初めての一人暮らしなのに勉強だけでなくなれない自炊や家事を全て完璧にこなさねばと思っている人、バイトも学校もサークルも両立させたいと寝る間も惜しんでいる人、そろそろばててはいませんか。
ところで、疲れたならゆっくり休めばいいのですが、それが簡単にはできない人を見かけます。物理的にというより休むことに罪悪感を感じてしまう人の場合など、問題は深刻になりやすいようです。オーバーワークを続け、心身ともにまいって動けなくなるまで休めないということが起きてしまうこともあるからです。
また、子どもの頃からいろんな塾や習い事に通いハードスケジュールできた人の中には、多趣味ではあるけれど休み方を知らない人がいるように思います。空白のあるスケジュール表を見ると落ち着かないという話を時々聞きますが、ちゃんと休めない人の特徴かもしれません。遊ぶことと休むことは必ずしも重ならないのです。
心当たりのあるあなた。何もない時間と空間の中でどんなふうにいられますか?スケジュール表でもおなかでも、何でも一杯にしないと満足できないということはありませんか。憂鬱の背景には満たされなさが潜んでいるということもあったりします。
そういえば、空という字は空白の他にも空腹、空虚などマイナスイメージで使われたりもしますが、よく考えれば空白の中に創造性や芸術が潜む可能性もあるし、空腹に耐えられる力も空虚の意味を知ることも、より自分らしく生きるためには必要なものがあるように思います。
空(くう)は空(そら)とも読みますね。疲れたら一息入れて、大空を見上げ、空気を感じ、思い切り深呼吸でもしてみましょう。それでも憂鬱な気分が拭えなかったら、休み方について相談センターで一緒に考えてみませんか。
(ポートヘボン「お知らせ」(6月)より転載)


やる気が出ない-理由と対処

Q. 春学期も終盤に入ったというのにやる気がおきず、授業もさぼりがちです。どうしたらよいでしょう。(架空相談)
A. 一口に「やる気が出ない」といっても原因、理由はさまざまです。いくつか例を挙げてみましょう。①不本意入学のため、大学になじめない、授業に興味がもてない。②家族関係や経済的状況等で問題を抱えており、生活事態が落ち着かない。③授業に限らず、何事も完璧にこなそうとして、息切れしてしまったり、うまくいかないと投げやりになってしまう。④友人や教員らとの関係がうまくいかず、大学で顔を合わせたくない。あるいは大学の中で孤立しており、居場所がない。⑤元来、人との交流が少なく、現実逃避的で、自分の世界にひきこもりがちである。⑥意欲低下の他に、気分の落ち込み、不眠、倦怠感等、うつ状態の症状がある。
いかがでしょう。心当たりはありますか。さて対処法です。①は希望の大学に入り直せば解決になるのかもしれません。それも当然ありです。しかしげんじつには難しい場合もある多いでしょう。②の場合、現実状況を変えることはより困難に思えます。となると、自分の考えや気持ちの方を何とかすることが必要になってきます。
たとえば、①では、「志望校に入学しさえすれば、すばらしい学校生活が送れたのに」という思い込みに、②では、家庭の現実状況に、それぞれあなたが絡め取られてしまって、自分自身を見失っていないか、よく吟味してみることが役に立つでしょう。なぜならそのような作業は自分のこころのスペース(ゆとり)を回復することにつながるからです。また③でも、完璧主義的こだわりと距離を取ること、加えてやるべきことに優先順位をつける等、マネジメントを行うことも有効でしょう。

④では、今起きている人間関係の問題が過去の自分の対人パターンの繰り返しになっていないかどうか、振り返ってみることが解決のヒントになると思います。⑤では、自分一人の問題に向き合い、抜け出すことが難しい場合が多いので、まず家族や友人に現状を打ち明けて、他者に問題を認識してもらうこと自体が解決への第一歩として必要でしょう。⑥では、服薬によって症状を緩和することで、やる気がでない→授業を欠席→さらにやる気がなくなる、という悪循環を断ち切ることができる場合があります。
いずれの場合も誰かに相談しながら考えるという作業を有効であることをお忘れなく。
(白金通信2008年7月号「カウンセリング」より転載)


大人になるまで、あと何歩?

夏たけなわ。連日暑いですね。春学期試験を乗り越えて夏休みに入り、ちょっと一息。気がついたらお盆での帰省も終わり、夏休みの後半に入るところです。この“ちょっと一息”の時期に、自分の友達関係や親子関係のあり方に関心を抱き始め、自分の心を眺めてみる方が結構いらっしゃるのです。皆さんはいかがでしょうか?
そう、大学時代は、心の面で二歩も三歩も大人になる時期ですね。昔なら元服が一つの区切りでしたね。現在は18歳成人説を耳にすることもありますが、18歳になるから、20歳になるから、または成人式を迎えたから、就職したから、いつの間にか心や対人関係の持ち方も大人になるわけではないですよね。私たちは、様々な経験の中から“大人な在り方”のヒント、いわば心の能力を得ていくのでしょう。大人になるためにはどんな心の力が必要なのでしょうか。時には孤独に耐えられること、そして必要な時には人に甘えたり頼れること。状況によっては他人と競えること、また時には人に負けることができること。欲求不満に耐えること。悩みを悩みとして悩むことも、時には必要な心の力ではないでしょうか。そして誰かを愛すること。また自分も大切にできること。
……これらは意外にも難しく、またそれぞれ少しずつ違う、心の力を必要としているようです。さまざまな日常生活の経験を通して、往きつ戻りつしながらも、一歩ずつ大人の心を身につけていく。気づくと以前の自分よりも少し生きやすくなっている。そんなものでしょうか。そして私たちはこのようなことを一生続けていくのかもしれませんね。
1年生は未知なる大学生活、一人暮らしやアルバイト、2年生になるとサークル活動での人間関係や恋愛などを通して、今までは見えていなかった自分を見出し、戸惑ったり、悩んだり、ちょっと自信をつけたり、そんな時期でしょうか。3年生は就活に備えてそろそろ自分に向き合う時期ですね。4年生は就職、卒業に向けて再度自分を整理していく頃でしょうか。そんな、大人に向かう自分の心の諸相を、一度相談センターで一緒に振り返ってみませんか?
(ポートヘボン「お知らせ」(8月)より転載)


夏休みを終えて

暑さもピークを過ぎ、少しずつ涼しさを感じるようになってきました。9月に入り、夏休みも終わりを迎え、新学期が始まります。みなさんは夏休みをどう過ごされましたか?
新入生のみなさんにとっては初めての夏休みでしたね。春学期が終わって一段落という方もいれば、慣れないなという方もいらっしゃるかもしれないですね。2年生は2回目の夏休みということもあり、1年目よりは慣れた感じだったでしょうか?3年生はそろそろ就職や進路のことが気になってくる頃でしょうか。4年生にとっては大学最後の夏休みということもあって、いろんな思いがあったかもしれないですね。
みなさんの中には、せっかくの長い夏休みだから有意義に過ごしたいと思った方もいらっしゃったかもしれません。それが実際夏休みが過ぎてみると、あっという間に過ぎてしまったな、思ったほど充実してなかったんじゃないかなと感じることもあるかもしれません。そういう気持ちから、なんだか虚しく感じたり、まわりの人は充実してて、自分だけ取り残されたんじゃないかと考えて、焦りが強くなったり、孤独な気持ちを感じたりはしていないでしょうか。
季節的にも涼しくなってくると、人は寂しさやもの悲しさを感じやすいようです。気分が落ち込んでやる気が出ない、何をしても虚しく感じるということはないでしょうか。体調的にも食欲がなくなったり、ぐっすり眠れないというようなことが続いたりしていないでしょうか。もしそういった不調が続いていたり、憂鬱な気持ちが晴れないときは、一度相談センターで話してみませんか。
(ポートヘボン「お知らせ」(9月)より転載)

完璧主義のメリット・デメリット

Q. 人から完璧主義と言われることが多いです。確かに、物事をきっちり片付けるほうですが、自分ではそうするのが当たり前のことだと思っています。今までこうやってきて良かったところもあるので、この性格を変えるつもりはありません。ただ春学期の試験の結果が思ったほど良くなかったことや、友人から融通がきかないと言われたことがけっこう気になったりしています。完璧主義ってよくないのでしょうか?(架空相談)
A. ある課題を達成しようとするときに、高い水準を設定し、それに向けて努力することは、けして悪いことではなく、むしろ高く評価させることだと思います。また高い目標を掲げることで、それが自分を駆り立てる力になるとすれば課題達成への動機付けを高めるという動きも提供してくれることになります。高水準の課題に現実的に取り組む態度という意味で、完璧主義は長所を持っていると思います。これまで自分のやりかたで成果を出してきたということですし、良いところは確かにあるのでしょう。
ただ、物事すべて右肩上がりに成長していくとは限りません。高校までの教科学習であれば、自分の努力次第で結果をコントロールすることは可能だったかもしれません。しかし、大学での学習内容や課題の性質は、ゼミ形式の授業やレポートのように、複雑さが一層ましています。なかなか自分のコントロールが及びません。
それに、どういうことをすれば「良い」のかについて、勉強の仕方の点で、また、結果の評価という点でも、基準があいまいではっきりしないと思うのではないでしょうか。完璧主義といわれる人のなかには、あいまいで漠然とした領域を居心地悪く感じる人も多いようです。
とりわけ人間関係という領域は白黒はっきり片がつくというより、不条理が幅をきかせがちなところです。サークルや友人関係で「筋を通したい」というあまり「融通が利かない」と言われてしまうのかもしれません。
その場の状況に応じて適宜やり方を変えていく、そんなところも人間にはあります。このような態度は完璧主義からみれば適当きわまりない機会主義ということになるでしょうか。完璧主義の短所の一つは方向転換が難しいことでしょう。今回の相談からは何となく困っているけれども、かといって自分を変えたくないというジレンマがうかがえます。性格を変えるという大げさなことではなく、自分のやり方についてこの機会に時間をかけて検討したり、今までのやり方の微調整から着手してみたらいかがでしょう。
(白金通信2008年10月号「カウンセリング」より転載)


もう一回、自分を見つめてみませんか

つい先日秋学期がスタートしたと思っていたら早11月。先週は白金祭がありました。皆さんは行ってごらんになりました?普段と違う大学の雰囲気や学祭の熱気を体験してどんあ気分を味わったでしょうか?皆さんの中には、所属している団体が白金祭に参加したので、その準備や作業に追われて「走り回って終わった」人もいらしたでしょう。
そしてまた、つかの間の休日を利用して、大学以外の自分の時間を過ごした人もいらしたでしょう。学期中に自由な時間があるのも実はなかなか貴重なひと時かと思います。
学祭に行ったも良し、行かなかったも良し、大学生なんだし自分の言動に責任が持てる範囲で自由に過ごしてもらえたらヨカッタと思います。
でも祭事も終わり。。。いつもと変わらない大学生活に戻ったとたん、なんだかモヤモヤした気分になって落ち込んでいたり。。。中には、今まで以上に「~まあ、色々あるけど明学生でよかった」と思えなかったり、「大学生やっている意味を見つけられない」と感じていたりしませんか。3年生の皆さんは、就職活動を考えると気持ちばかり焦ってやることが手につかなくなってという人もいませんか。
この時期、元気が出ないというのは、実は割りとある話なのです。思い当たる原因が分かる人もいれば、原因が分からない人もいます。でもとにかく元気がでない、何だか寒いし。。。
秋が一気に深まり寒さが本格的になってきた今日この時期、冬へと移り変わると同時に、まもなく2008年も12月を迎えます。
「こんなところで私は何をやっているんだろう・・・」と、思い悩んでいるあなた、悩むことはとても大事なことなのです。もし「今の時間を無意味に過ごしてしまっている」と感じていたとしたら、あなたの思いを一度カウンセラーと話してみませんか。
(ポートヘボン「お知らせ」(11月)より転載)

いじめられ体験を乗り越える

Q. 小学校の頃にいじめられた影響で、周囲の人かわ悪口を言われているのではといつも気になります。またつらい目に遭うのではと思うと人間関係をもつことが怖く、大学も休みがちです。(架空相談)
A. 学生相談センターに来談される皆さんの中で過去のいじめられ体験を引きずっているというケースはとても多いように思います。私はいじめられ体験を語る人には、その当時誰かに、特に親に、そのことを相談できたか、対処してもらえたかということを必ず尋ねるのですが、ほとんどの人から「ありません」という返事が返ってきます。いじめというつらい体験そのものに加えて、そのつらさを誰にも話すことも、理解してもらうことも、サポートしてもらうこともできなかったということがこの問題から立ち直ることを難しくしている、というよりも実はより深い傷つきをもたらしている場合がしばしばあるように感じます。
ところが話を聞いていると、いじめられ体験そのもののつらさがどうしても前面に出てきがちで、いじめられたときにまったく手当てしてもらえなかった、孤立無援であったというつらさはその影に隠れて、本人が気づいていないということもまた多いのです。このようなケースでは、この影に隠れた体験、情緒について気づき、理解していくことがカウンセリングにおける重要な作業となります。
さてあなたの場合はいかがでしょうか。いじめられ体験に起因する「人が怖い」という不安の背後に、誰にも頼れない、助けてもらえないという寄る辺なさ、寂しさがありはしないでしょうか。人間的、情緒的なつながりを希求する気持ちはないでしょうか。
「人が怖い」というところだけで考えているとどうしても人間関係を回避する方向へと向いがちです。これに対して、寄る辺なさや寂しさといった情緒に触れ、実はそうした情緒をやり取りできるつながりを求めているのだということに気づくことは、人との交流を回復する方向、傷つきを癒す方向へとあなたを後押しします。
ただしそのような気持ちに触れることが一人ではなかなか難しいということがあります。カウンセラーの役割の一つは来談者のそうした気持ちを察しつつ、来談者自身がそこにうまく触れていけるようサポートすることにあると私は考えています。
(白金通信2008年12月号「カウンセリング」より転載)

1年の始まりと1年のまとめ

2009年、新しい年が始まりました。最近は元旦に通常通り営業しているお店も多く、特別の日という趣も減りました。皆さんの中にも「年末年始はずっとバイト」という人もいたことでしょう。また、その日ばかりは実家に戻る人も、心静かに一人で過ごす人も、それぞれいらっしゃったかと思います。どのように年越しを過ごしても、「今年はどんな1年になるかな?」という期待を持ち「今年こそは~しよう!」と目標を考えることの多い時であることは変わらないのではないでしょうか。
さて、この1年は新しい年の始まりであると同時に、4月から始まった大学のカレンダーでは、いよいよ1年間のまとめの時期となります。課題提出や試験が待ち構えていますね。この試験期間さえ乗り越えてしまえば、また長い休みが待っています。その意味では頑張りがいがあるのですが、場合によっては課題や試験が高い厚い壁と感じることもあるかもしれません。4月から単位取得を先送りしてきたと感じている人や、レポートや試験に苦手意識を持っている人は、特にその壁が越えがたく手ごわいものに感じられるかもしれません。
期日までにやらなくてはいけないことが決まっている時、どれから手をつけていいかわからなくって、あせりばかりが空回りしてしまうことってありますよね。頑張るつもりの夜更かしで昼夜逆転してしまったり、課題に立ち向かえないで気分転換のつもりで他の事に時間を費やしてしまったり、食べ過ぎたり飲みすぎてしまったり…。こういう悪循環が続くと本当に苦しいものです。そんな時には、誰かに話す時間を作ってみることが解決の糸口を探すきっかけになるかもしれません。
授業期間に比べて、試験期間から新学期開始の4月まで、キャンパスは静かな時期となります。学生相談センターの相談業務は継続されていますので、この機会にゆっくりお話をしにいらしてみませんか?
新しい1年の始まりにあたり、そうして大学生活の1年のまとめにあたり、学生相談センターを利用して下さることで新しい何かが始められるきっかけがつかめることを願ってします。
(ポートヘボン「お知らせ」(1月)より転載)

春休みは自分を振り返ってみるチャンス

睡眠時間を削って勉学に励んだテスト期間が終わり、今は長い春休みの真っただ中。皆さんいかがお過ごしですか。日頃できないまとまったことのできるチャンスですが、今年度を振り返って次年度へ繋げるこころの準備をするチャンスでもありますね。
1年生の皆さん、この1年の大学生活はいかがでしたか。高校までの長い親の保護から離れて大学という自由の場を得、大人への第一歩を踏み出したのですから感慨もひとしおでしょう。新しい友達との付き合いはもちろんのこと、一人暮らしもサークルもバイトもそれぞれに新鮮な体験をされたことと思います。不本意入学だった方も要は自分の主体性の問題だと気が付いて落ち着かれたのではないでしょうか。2年生の皆さんはなお一層自己責任のもと自分らしく大学生活を謳歌されたことと思います。3年生の皆さんは専門科目の充実と共に自分の適性を明確にし、今はそれぞれの進路に向けて努力していらっしゃることでしょう。今年は不況の影響で就職活動も厳しいことが懸念されますが頑張ってください。4年生の皆さんは卒論と学業と就職をクリアして、いよいよ社会人としての生活が始まりますね。期待と不安の入り混じるこの時期、自立した自分を確信して大きく羽ばたいてください。
さて、大学生の時期は発達上では青年期と言われていて、大人への過渡期に当たります。この時期の心理的な発達課題はアイデンティティ(自己同一性)の確立です。様々nことにチャレンジできる時間のゆとりが保障されているからこそ、大学は自分が何者であるかを模索していく最適の場ですね。自分らしい個性を伸ばしてそれを現実的な進路に生かせれば、心理的にも経済的にも立派に自立した社会人として出立でき、何よりの喜びでしょう。
しかし、自分が何に向いているのか、何をしたらよいのか、人とどう接してよいのか分からなくて、悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。その背景には様々な問題が隠れていて、なんらかの理由で自分自身を育ててこられなかったからだと思います。自分が何者なのか、自分探しの問題はそんなに簡単ではありません。時間をかけてじっくりカウンセラーと一緒に探っていきませんか。自己理解を深めて自信を持ち、より自分に相応しい進路に進むことができれば幸せだと思います。
(ポートヘボン「お知らせ」(2月)より転載)

学生相談ってどんなところ?

Q. 学生相談センターを利用しようか迷っています。どんな相談であればいいのでしょうか。(架空相談)
A. 基本的にどんな相談でも問題はありません。それは、相談センターがすべて対応できる、という意味ではありません。相談の内容によっては、他の部署を紹介したり、医療受診を薦めたりすることもあります。
学生が相談センターに訪れる内容は多岐に渡ります。とは言っても、大雑把に括れば、恋愛のこと、友人のこと、家族のこと、将来のこと、などが多いでしょうか。相談センターを訪れる前に、ご本人がいろいろ考え、解決しようとすでに試みている場合が多いので、カウンセラーが解決へと導くアイデアを出せることはほとんどないようです。多くの場合、あれやこれやと話し合っていくなかで、新たな気づきがあり、そこからヒントを得て、抱えている問題に取り組んでいき、うまくいってもいかなくても、それを話し合って、また取り組んでいく、というかなり地道な道程となります。
自分なりに十分考えてきたし、他人に話したところで何も変わらない、という考えもあると思います。頭の中で考えているのと、実際に誰かに話してみるのとは違いもあります。他の多くの実体験と同様に、それなしでは得られないものが含まれているのでしょう。
どんな相談内容にも、その人のそれまでの歴史が集約されているのだと思います。いろいろな事情の中で、その人の努力があり、我慢があり、意地があり、工夫があり、そして自負があります。それらは十分尊重されるべきだと思います。問題は、具体的にどうすれば、自分にとって、それらを尊重することになるのか、ということでしょう。
そこまで大げさに考えたくないと思われる方もいるかもしれません。大げさに考えないようにするという工夫があり、人生という視野から見てみるという工夫もあり、両者に優劣はないのでしょう。必死に考えることが必要な場合も、適当に考えることが糸口になる場合もあります。押しても駄目ならひいてみろ、とは言いますが、そこには扉がなかった、という場合もあります。難しいものです。
でも、人は変化するものですし、状況も変化するものなので、悲観的予測はあくまで予測であることを忘れないでくださいね。
(白金通信2009年3月号「カウンセリング」より転載)

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