コラム「キャンパスCLINIC」

それでも救急車は走る

白金通信2003年11月号

皆さんは救急車の音を聞いてどんな気持ちになりますか?
「あ、救急車だ!」までは私と同じでしょう。でも私はその後に嫌な重たい気持ちが続きます。
というのも私は週に一回程度某病院で内科の当直をしているからです。
私は当直の度に救急車のサイレンが近づいて来るのを聞き、「あのサイレンがこの病院の前で消えなきゃいいんだが。」と思っているのです。
私の病院の前でサイレンが消えればそれはその病院に搬送されてきた患者さんで、私が診ることになるからです。
もちろん救急病院は私の当直している病院だけではないので、そのままサイレンがドップラー効果を示しながら(ドップラー効果は知ってますよね?(笑)ピーポーピーポーという音が近づくにつれて音程が高くなり、目の前を通り過ぎるのを境に急に音程が下がる現象です)向こうの方までいってしまえば、他の病院に向かっているということです。
夜中の病院はかなり変な患者さんも多いです。夜特有の患者に酔っ払いがいます。泥酔状態の方を一緒に飲んでいた友人が連れてくる、道端で倒れていた方を通りがかりの人が通報して警察経由で救急隊を経て連れてくる、などいろいろです。
先日も大学の対抗戦の後、居酒屋で飲みすぎた大学生を上級生が連れてきました。
問題は、大学の1 - 2年生は未成年のことが多いということです。
私たちが警察に通報すれば未成年の飲酒は立派に罰せられます。私たちも普段そういう未成年の飲酒では警察を呼ぶことはまれですが、お灸を据える意味で夜中だろうと実家に連絡して両親に注意をすることはしばしばあります。
その対抗戦で飲酒した学生は部長にも監督責任があり、夜中に部長に連絡をしました。別に本人達は飲酒したなんて大したことをした意識はないと思いますが、大人の社会では出るところに出れば、子供の甘えでは許されません。必ず責任を取らされる人が出てきます。
それにしても救急車を呼ぶ患者さんを皆さんがみたら「どうしてこんな人が救急車を呼ぶの?」といった人がかなりいます。熱が39度あるからと救急車を呼ぶ元気な25歳の男性。下痢が止まらないと救急車を呼ぶ60歳の女性。
ある70歳の女性は動悸がするといって救急隊が連れてきました。
そこだけを読んだら問題ないと思うかもしれませんが、今回の動悸は3日前からあるのです。しかもアパートの4階の住人で、救急車が来るのを階下で待っているのです。
救急隊が到着すると、大手を振って救急車に寄っていって後ろの戸をコンコンたたいて「早く開けて」というのです。そしてその上その患者さんは今年に入って既に同じ症状で100回以上の出動を要請しています。
その患者さんは循環器の検査をしても異常がないので、心療内科で診ていました。
今回も実はその女性は今日3回目の救急車要請なのです。彼女のカルテを読んでいると「もう、こんな人がいるから救急車が忙しくなって、助かるはずの人が助からなくなるんだ」と怒りたくなりました。
でもその患者さんとお話をしばらくすると別の側面が見えてきます。
彼女は1年前にご主人を亡くし、息子と2人暮らしでした。息子はあちこちで「頻回の救急隊の要請をなんとかしてくれ。」といわれるため、その母親である女性をきつく叱るそうです。
その女性はその息子が怖くて、息子がいる間は救急隊を呼びません。息子が仕事で出掛けると動悸が始まったと救急隊を呼ぶそうです。そう、病名は不安神経症です。その息子はいつもただ怒るだけだそうです。
この女性は救急車を呼ぶしかないのではないでしょうか?この家庭はどうしたらいいのでしょう?そんな疑問を抱えながら行く先はいつも病院の救急外来。今日も救急車は走ります。

校医  朝比奈 崇介