このプロジェクトは、2008年に予備調査をし、2009年度「健康についての意識と行動に関するインタビュー調査」として、そして2010年度は明治学院大学社会学部付属研究所から研究費の助成を受けて「健康とは何かー地域における『病いの語り』から」として実施しています。 →報告書第一弾はこちら
代表 | 柘植あづみ |
(明治学院大学・社会学部・教員)** |
熱田敬子 |
(早稲田大学大学院・ジェンダー研究所・招聘研究員) | |
飯田さと子 |
(財)地域社会振興財団 地域社会健康科学研究所・研究員)* | |
柄本夏紀 |
(稲田助産院・助産師) | |
高畠有理子 |
(東京有明医療大学・看護学部・教員)* | |
永山聡子 | (一橋大学大学院・博士後期課程、日本学術振興会・特別研究員) |
**は明治学院大学社会学部付属研究所プロジェクト研究代表者、
*は明治学院大学社会学部付属研究所プロジェクト研究分担者、他は研究協力者
成果の一部を下記に発表しました。
柘植、熱田、飯田、柄本、高畠、永山 2012 「健康とは何か――地域におけるインタビュー調査から」、『研究所年報』、42号、明治学院大学社会学部付属研究所
テレビや新聞、雑誌では「健康」についての情報がとりあげられることがとても多くなっている。また「健康増進法」という法律もでき、効果は未知だが、生活習慣病予防のための禁煙やメタボリックシンドロームへの対策も講じられるようになっている。そこで、私たちは「健康の経験と意識」についてのインタビュー調査を計画している。
この調査の目的は、人びとは健康についてどんな経験をもっていて、それが意識や行動にどう影響しているかを把握し、そこから現在の日本における「健康」や「身体」についての意味を知ることである。たとえば、どんな状態が健康だと思っているのか、なぜ健康が大事だと思われるのか、それらの意識は背景にある社会・文化といかに相互にかかわるのかを検討していく。
「健康」についての調査は保健医療・看護・健康科学の分野ではいくつかある。ただし、それは、WHOの健康の定義に基づいて、健康を疾患がない状態であるという前提での調査であり、個人にとっても社会にとっても健康であることが良い状態、健康でないことが良くない状態とされた上で、健康を維持するための方策を探る研究が多い。本研究の特色としては、個人が健康をいかに認識し、それがその人々の生き方や人生の意味づけにいかにかかわっているのかを探るところである。たとえば、過去に柘植が行った病院の入院者へのインタビュー調査(柘植あづみ、『病棟のエスノグラフィー:入院者の病気認識とその形成過程を中心に』文部省科学研究費平成8-9年度補助金報告書 1999年3月)からは、がんや糖尿病などの慢性疾患にかかっている人も自分のことを「健康である」とか、「病人ではない」と述べることを報告した。
近年、ナラティブ・アプローチや回想法などが医療・看護や心理・福祉臨床において応用されるようになった。このような社会的な関心の変化は、患者・病者の病気や健康に対する主観的認識についての関心を高めてきた。しかしながら、そこには、「医学的に」正しい知識や予防・治療行動の啓発という意識が基にある。
ここで、私たちが調査研究したいのは、「医学的に」正しい知識や予防・治療行動の啓発ではない。病いを経験した人、抱えた人が、病いの経験をいかに意味付け、いかに生活しているかについて知ることである。そこから、日本における、医療や治療、健康、身体、老いなどを、分析し、これまで着目されていなかったことを描きだしていきたいと考える。
研究代表者の柘植は、生活の場における「病いの語り」が病院に入院中の病いの語りといかに違うかとその理由を検討する。。研究分担者の飯田は地域医療に関心があり、生活の場と医療とのつながりのあり方を検討する。インタビューは共同で実施することも、個人で実施することもあるが、基本的な質問項目は共通のものを用いる。
研究代表者と研究分担者は、2008年に首都圏を中心に知人を頼って、また、2009年に山形県の中山間地において、予備調査を2泊3日で実施した。調査者とのラ・ポールが形成されれば、がんや糖尿病、循環器疾患などの深刻な病気をかかえる人たちが、その経験と生活について話していただけることがわかった。そこで、2010年度には、20名ほどの方へのインタビューと比較対象として、首都圏で数名の方へのインタビューを予定している。とくに、科研費研究との関係から、病気を抱えて生きることと、ジェンダーとの関係を分析していく。また医療の場ではなく生活の場に戻ったときに、医療および医療技術利用が生活・ジェンダーといかに関連しているかを検討する。