No.17 『ホイッスルブローアー=内部告発者 ― 我が心に恥じるものなし』(串岡弘昭著)を読んで

宮地基 記


  「ホイッスルブローアー」とは、直訳すれば警笛を鳴らす人、所属する組織の不正を社会に警告する内部通報者あるいは内部告発者を意味する。組織や団体による不正行為は、外からでは見破ることがむずかしい。といって、国民が知らないままでいれば、どんな不正も正すことはできない。内部から不正を告発する人の存在は、民主主義社会を健全に運営していく上で、極めて重要な役割を果たす。最近話題になった、食品会社による不正行為、原子力発電所による隠蔽工作も、内部告発によってはじめて一般の国民がその事実を知ることができたのである。

 しかし組織の不正を内部告発する人は、ともすれば裏切り者として組織から厳しい制裁を受ける。本書の著者、串岡弘昭さんは、勤務した運輸会社が違法なヤミカルテルを結んでいることに気づき、何度も上司に忠告したが聞き入れられず、ついに新聞と公正取引委員会に事態を告発した。これに対して会社側は、あらゆる手段で串岡さんに圧力を加え、ついには僻地にある研修所への転勤を命じ、以来26年間、ほとんど仕事を与えず、昇給もさせなかった。本書は、これまで耐え続けてきた串岡さんが、ついに会社を提訴するに至るまでの記録である。

 串岡さんの正義感と、不正を見抜いた法律知識は、新聞奨学生として働きながら学んだ本学法学部での経験から養われた。不正を告発した勇気と、会社の陰湿な圧力に屈しない精神力は、感動的ですらある。自分に立場を置き換えて考えてほしい。自分の属する組織が重大な不正行為をしていたとして、どれくらいの人がそれに気づくことができるだろうか。またどれくらいの人が、社会に向かってそれを告発する勇気を持てるだろうか。しかし考えてみると、串岡さんほどの人でなければ内部告発ができないという方がおかしい。誰でも普通の正義感と常識さえあれば内部告発ができ、それによって差別待遇を受けないような社会でなければいけない。すでにアメリカ、イギリス、オーストラリアなどで「ホイッスルブローアー」を保護する法律が作られている。日本でも、ようやく組織や企業が内部告発者を差別することを禁止する法律を作ることが検討され始めた。正しいことをした人がひどい目にあわない。串岡さんの裁判は、日本がそんな当たり前のことが通る社会に近づくための一歩になるだろう。