No.45 スペイン出張報告 〜国際ワイン法学会(AIDV)に参加して〜

 

蛯原健介 記 

 2006年5月18日から20日まで、スペインのマドリッドで国際ワイン法学会(Association Internationale des Juristes pour le Droit de la Vigne et du Vin)が開催された。在外研究でフランスに滞在していた昨年度は、オーストラリアでの開催であったため、参加を断念せざるを得なかったが、今回は、幸運にも学会に参加する機会に恵まれたので、その様子を書くことにしたい。
  国際ワイン法学会は、1985年に設立された学会であり、すでに20回以上開催されてきた。フランス、スペイン、アメリカ、オーストラリアといったワイン生産国だけでなく、北欧など生産国以外のメンバーも少なくない。日本は、ワインやブランデーの主要消費国であると同時に、ワイン生産国でもあるが、在外便りにも書いたように、今のところ私が唯一の日本人会員である。多くの会員から、近い将来、日本でこの学会を開催してもらえないか、という声が寄せられたが、残念ながら一人で企画するのは無理である。他の研究者や弁護士の先生方、輸入業者や生産者の法務担当のみなさんの協力がどうしても必要である。

* * *

 今回の学会のテーマは、「ワインの生産・販売に関する重大な障壁」というもの。アルゼンチン、ニュージーランド、オーストラリア、ベルギー、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、ポルトガル、スペイン、スイス、アメリカの会員から、各国の法的問題と解決策についてプレゼンテーションがあった。日本では、あまり店頭に並ぶことはないが、イギリス、ベルギー、スイスでもワインが生産されており、地球温暖化の影響もあって、生産が増えているところもあるとの話であった。もちろん、これらの国では、生産量が少ないため、むしろワインの流通・消費の段階における法的問題が中心となるが、たとえばスイスでは、1人あたりの年間消費量は30リットル台であり、スペインのそれを上回るといわれ、国民にとっては重要な問題となる。これに対して、フランスでは、相変わらず深刻な「ワイン危機」がつづいており、とりわけ南仏のワイン生産者は厳しい状況に追い込まれている。ブルゴーニュやボルドーの一部の高級ワイン、シャンパーニュなどは比較的好調であるが、これは例外にすぎない。
  会員の間で激論となったのは、やはり地理的表示の問題である。従来、アメリカでは、「シャブリ」や「シャンパーニュ(シャンパン)」などが一般名称に近い地域名称、つまり、「セミ・ジェネリック」として扱われており、EU側が規制を求めてきた。昨年9月に17名称の使用規制で両者が合意したが、「カリフォルニア・シャンパン」などすでに存在する名称は、米国市場に限って一定期間の使用が認められることとなった。EUのめざす原産地呼称のブランド化に対するアメリカの反発は強く、この合意にいたるまで20年の歳月を要したという(朝日新聞2005年9月18日朝刊参照)。日本でも、以前は偽物「シャンパン」が溢れていた。ワインではないが、スーパーに行けばカマンベール産ではない「カマンベール」チーズが今でも堂々と売ってある。最近、日本における消費者法の研究や教育の進展は顕著であるけれども(JCがその典型例!)、解決すべき問題はまだ山積している。

* * *

 学会参加者が楽しみにしているのは、もちろん料理と美酒である。毎回、開催地の名物料理と地元のワインが振る舞われることになっている。初日は、市内の5つ星ホテルで、歓迎夕食会。スペインワイン連盟(FEV)が開催責任者であり、食前酒から食後酒にいたるまで、ワインのレベルは非常に高い。前菜のアスパラガスとフォアグラのパイ仕立てにはValdesil Godello(白・2003年)、テンダーロインとハムを使った主菜にはReserva Superior Valsardo(赤・2001年)。ミュールのソルベにはOsborneの食後酒が出された。食卓は主催者によって事前に指定され、幸い仏語圏のテーブルに案内されたので、苦手な英語を強いられることはなく、ゆっくり食事とワインを楽しむことができた。
  2日目は、会場となった農業水産食品省の近くのレストランで3時間半の昼食。シェスタの習慣は廃れつつあるが、さすが昼休みの長いスペインならではといえよう。昼食時には、学会のスポンサー各社のワインが自由に試飲できるようになっていた。そして、最終日のプログラムは、貸切バスで、マドリッド近郊のワイナリー訪問とトレド観光。夫婦で参加するメンバーが多いのも納得できる充実した内容である。
  アメリカとヨーロッパ諸国との間で、なお対立が存在するとはいえ、美酒と美食を愛する精神はすべての会員が共有するところであり、非常にサンパティック学会であると感じた。会長のVincent O'Brien氏(アメリカ)をはじめ、多くのメンバーがはじめての日本人会員として歓迎してくれたし、とくに仏語圏の会員たちが私の参加を喜んでくれた。次回の学会は、今年10月にポルトガルのポルトで開催されることが決定している。日本にはワイン法の研究仲間がいないので、今後も、できるだけ参加し、各国のワイン法研究者や実務家と交流をはかっていきたい。

【写真1】今回は農業水産食品省が会場となった

【写真1】今回は農業水産食品省が会場となった

【写真2】フェニックス・ホテルでのディナーから

【写真2】フェニックス・ホテルでのディナーから

【写真3】スポンサー各社の試飲会

【写真3】スポンサー各社の試飲会

【写真4】最終日のワイナリー見学

【写真4】最終日のワイナリー見学

【追記】前回の在外便りで、日本ワイナリー協会・ワイン酒造組合の自主基準に言及しましたが、最近、表示に関する基準が改正され、外国産のワインやブドウ果汁を使って国内で生産したワインについては「国産ぶどう使用」の表示は認められなくなりました(WANDS2006年3月号参照)。

(2006年6月)

ページトップへ戻る