No.52 EUにおける食品の品質確保 〜ゲストスピーカーによる特別講義〜

 

蛯原健介 記 

 今年度の「EU法」(木曜5限)では、農産物・食品の品質確保に関する欧州共同体の政策、EUのワイン改革やワイン生産・消費の動向などを学んできました。通常の講義では、履修者とともに、欧州委員会の英文資料などを輪読しながら、できるだけ具体的な解説を試みましたが、教員がなしうることには限界もあります。そこで、学外からのゲストスピーカーとして、12月11日に須藤海芳子先生(有限会社デパール、日本ソムリエ協会認定ワインアドバイザー、フランスチーズ鑑評騎士)、12月18日に荻野悦子先生(株式会社日野屋取締役、日本ソムリエ協会認定ワインアドバイザー)をお招きし、EUにおける食品の品質確保をテーマとする特別講義を企画しました。以下は、その特別講義の内容です。


 第1回「EUにおける食品の品質確保(1):フランスのワインとチーズについて」

 講師の須藤海芳子先生は、本学文学部の卒業生。今年度で退職される工藤進先生のゼミに所属されていたそうです。現在はワインとチーズを中心に、食生活に関するお仕事をされています(www.lasaveur.net)。
 
  須藤先生によれば、食の基本は、プライオリティとして、「安全・安心」、「栄養」、「美味しさ」の3つ。美食で知られるフランスは農業国であり、食の自給率は120%を超えるといわれています。フランスには、村が変わるとワインやチーズが変わるというほど、沢山の種類のワインやチーズがあります。

 フランスには、農業(作る側)を守るとともに、他方では消費者(食べる側)を守る法律があります。一般にAOC(アペラシオン・ドリジン・コントローレ)法と呼ばれている法律です。AOCといえばワインが有名ですが、チーズなどの食品や農産物もその対象に含まれます。たとえば、日本ではジェネリックな名称のように使われている「カマンベール・チーズ」もそうです。

 フランス語で「原産地呼称」を意味する「アペラシオン・ドリジン」を商品に表示するためには、法令で規定された厳格な基準(原料・生産地域・生産方法など)に適合していなければなりません。「カマンベール」も指定された地域で生産され、厳格な基準に適合したチーズだけに認められる呼称ですし、スパークリング・ワインの「シャンパーニュ」もフランスのシャンパーニュ地方で生産された発泡性ワインだけが使うことのできる呼称です。

  以前、このシャンパーニュをイメージしてつくられた香水がYves Saint-Laurentから出されました。瓶も、シャンパンのブション(コルク)をイメージした形で、とても良い香りです。しかし、シャンパーニュの地方委員会が、その呼称の使用を止めさせるために訴訟を起こし、Yves Saint-Laurentはこの香水を「シャンパーニュ」という名称では販売できないことになってしまいました(パリ控訴院1993年12月15日判決)。他の生産地のワインに対してだけでなく、まったく異なるカテゴリーの商品に対しても、「シャンパーニュ」の呼称は保護されているのだそうです。

 須藤先生のご講演では、法律にかかわるお話のほかに、ワインやチーズの種類、保存方法、選び方など実用的な情報も提供していただきました。なお、シャンパーニュについては、須藤先生が書かれた『シャンパン&スパークリングワイン』(主婦の友社、2008年)をご覧いただければ幸いです。

【写真1】 指定された地域で生産されたチーズだけがカマンベールを名乗ることができる

【写真2】 当初「シャンパーニュ」と名付けられていたイヴ・サン・ローラン社の香水


 第2回「EUにおける食品の品質確保(2):ドイツワインの魅力」

 荻野悦子先生は、本学法学部の卒業生で、学生時代は田上先生と真柄先生のゼミに所属されていたそうです。卒業後、公務員を経て、現在はワインの輸入業者、日野屋の取締役をされています(www.hinoya.com)。

 荻野先生によれば、ワインの歴史は古く、8000年にわたる「人類の友」といわれています。ワインの起源はコーカサス地方にあると考えられますが、その後、エジプトやギリシアを経て、ローマ帝国によって広められました。ローマ帝国時代に南ドイツでワインが生産されるようになり、中世の地球温暖化の時代には北ドイツでもぶどうが作られていました。現在のドイツのワイン生産地は、ほとんどが川の近くにあります。とくにライン川やモーゼル川が有名です。これは、川がない地域は気温が低く、ぶどうの栽培が困難であるためです。また、川沿いの急斜面にぶどう畑が広がっているところも少なくありません。

 ドイツのぶどう畑の面積は、10万〜11万ヘクタールであり、世界の主なワイン生産国のぶどう畑総面積のうち約1.3%程度を占めています。また、生産量は、850万〜1000万キロリットルを推移しており、ある統計によれば、主要ワイン生産国のなかで生産されるワインの3〜4%がドイツワインです。ドイツ国内で消費されるワインの30〜40%は外国からの輸入です。ドイツワインというと白ワインのイメージがありますが、現在では、およそ40%が赤ワインです。ドイツではシュペート・ブルグンダーと呼ばれているピノ・ノワール(ブルゴーニュの赤ワインに使用されるぶどう品種)が多く栽培されており、その生産量は、フランス、アメリカに次いで世界第3位であります。また、近年の地球温暖化は、ドイツの赤ワイン生産にとっては良い影響をもたらしています。

 ドイツのワイン法の歴史は古く、1892年には13か条からなるワイン法が制定されています。現在のワイン法は、1971年のワイン法がベースになっており、欧州共同体との調整を強く意識した内容になっています。今後、EUワイン改革の影響で、ドイツのワイン法も改正が予想されるとのことです。

 以上のようなご講演に続いて、記念館で7種類のワインのテイスティングが行われました。これまで典型的なドイツワインと思われてきたタイプに属する「リープフラウミルヒ」をはじめ、モーゼル地方のゼクト(発泡性ワイン)、食事とともに飲まれている辛口のリースリング、やや甘口のリースリング、比較参考として出された山梨県産甲州ワイン、ラインガウ地方のピノ・ノワール、そしてさらに、極甘口の貴腐ワインを試飲し、それぞれのワインの特徴を学びました。

【写真3】 荻野先生による特別講義の様子

【写真4】 今回の特別講義のために提供していただいたドイツワイン

 

 いずれの特別講義も、第一線で活躍される講師の先生方から、EU諸国における食品の品質確保に関する貴重なお話を拝聴する大変有意義な機会となりました。特別講義に出席された法学部や経済学部の先生方、履修者の学生からも多くの質問が出され、通常の講義とは違った形で、EU諸国の制度や法令を学ぶことができました。特別講義を快く引き受けていただいた須藤先生と荻野先生、また、この企画を支援していただいた渡辺充学部長に、改めて御礼申し上げる次第です。

(2009年1月)

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