フランス語のススメ

 なぜフランス語を勉強するんだろう?

 これからフランス語の勉強に取り掛かろうとしている人はもちろんのこと、第一外国語としてすでに学び始めているフランス文学科のみなさんのなかにも、いまだにこのような疑問を抱いている人がいるかもしれません。フランス語に長年携わってきた私たちであれば、フランス語をやるのはそれが楽しいからだ、と簡単に答えるところですが、やはりそれでは説明になりませんよね。そこでこれから、フランス語の魅力を以下の順序で具体的に紹介していきましょう。

 1.フランス語は使える!
  ― フランスの言語、フランス語圏の言語、国際機関の言語

 2.フランス語は楽しい!
  ― 芸術、ファッション、食文化、etc.

 3.フランス語は難しい?
  ― 差異の体験としての外国語学習



 1.フランス語は使える!
  ― フランスの言語、フランス語圏の言語、国際機関の言語


la tour eiffel  外国語を学ぼうとするときにまず頭に浮かぶのは、やはり、その言語が実際に利用できるものであるかどうかという問いではないかと思います。フランス語はいったい、どのような場面で役に立つのでしょうか。

 フランスで使う
 言うまでもなくフランス語はフランス共和国において国語として用いられている言語であり、したがってフランスに行ったときに役に立ちます。エッフェル塔、シャンゼリゼ、ルーヴル美術館といった数々の観光名所を持つ首都パリをはじめ、モン・サン・ミシェル、ニース、シャモニーなど、一度は訪れてみたい場所がフランスには目白押しです。そんなフランスに憧れている人も少なくないでしょうし、そんな人はおそらく、迷わずフランス語の勉強に取り掛かることでしょう。

 フランス語圏で使う
 そしてまた、フランス語は、フランス以外のさまざまな国々においても公用語や準公用語として使用されています。ベルギーやスイスなどヨーロッパの他の国々、さらにはカナダのケベック地方やとりわけアフリカの一部の国々に興味を持っている人にとって、フランス語はやはり学んでおきたい言語です。もちろん、こうしたいわゆる「フランス語圏」の地理的広がりには、英語やスペイン語などの場合と同様、政治や経済においてのみならず言語においても弱小国を支配しようとした植民地主義ないし帝国主義という歴史的背景があるということを忘れてはなりませんが。

 国際舞台で使う
 これに加えて、フランス語は、ヨーロッパにおける外交語として通用していたという歴史を持ち、現在でも国際連合などの国際機関の公用語の一つとなっているということを指摘しておかなければなりません。みなさんにも馴染みの深い例を挙げるなら、オリンピック競技大会。近代オリンピックを創設したのはフランスのクーベルタン男爵であり、オリンピック大会でのアナウンスがまずフランス語から始まることをご存じの方も多いでしょう。将来、国際的な舞台での活躍を目指す人にとって、フランス語を極めることは一つの戦略として有効であろうと思います。

 このようにフランス語は、古くからいろんな場所で使われてきたし、今もなお使われています。フランスでフランス語を使う。フランス語圏でフランス語を使う。国際舞台でフランス語を使う。要するに、フランス語は実際に「使える」言語なのです!

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 2.フランス語は楽しい!
  ― 芸術、ファッション、食文化、etc.


paris  でもここで、次のような疑問が浮かぶかもしれません。確かにフランス語はコミュニケーションの道具として役に立ちそうだけれど、もしそれだけだとしたら、とりあえずは英語だけでよいのではないのか、と。グローバル化が進む現在、もう一つ別の言語を学ぶ時間があったら英語力を磨くべきだ、といった種類の議論が、実際、いろんなところでなされています。

 でも、思い出してください。最初に述べたとおり、フランス語に長年携わっている私たち自身が、何よりもまず、フランス語を楽しんでいるということを!道具として利用可能であるかどうかということ以前に、フランス語は学んで楽しい言語です。その理由を数え上げるときりがありませんが、ここではとくに、フランス語が、芸術、ファッション、食文化など、私たちに喜びを与えてくれるさまざまな文化的事象に強く結びついているという点について述べたいと思います。

 文学
 まず、言語芸術としての文学について。ボードレールの『悪の華』、メリメの『カルメン』、ユゴーの『レ・ミゼラブル』など、フランス語で書かれた詩、戯曲、小説を、みなさんもたくさんご存じではないかと思います。翻訳ではなく原書で読むことができたら、フランス文学の世界にいっそう引き込まれること請け合いです。

 絵画
 次に絵画については、とくに20世紀初頭、「芸術の都」パリが、ピカソやシャガール、モディリアーニなど、数多くの画家たちを呼び寄せたことを指摘しておきます。モンマルトルやモンパルナスのカフェやバーにおいて、熱い芸術論議がかわされたことでしょう。

 映画
 それから映画についてもひとこと。19世紀の末に映画を発明したのがフランスのリュミエール兄弟であるということはご存じですよね。そして1950年代末にやはりフランスに起こった「ヌーヴェル・ヴァーグ」は、映画史上の大きな転換点をしるしづけることになる大きな運動でした。

 バレエ
 そして最後にもちろん、バレエを忘れてはいけません。「太陽王」ルイ14世がバレエの愛好家であったという事実に象徴されるとおり、バレエはもっぱらフランスで発達した芸術であり、その振付用語のほとんどがフランス語です。その他、音楽や演劇など、さまざまな顔を持つフランス芸術の虜となってフランス語を始め、現地に留学して勉強を続ける人も少なくありません。

 ファッション
 フランス語は、芸術の言語であると同時に、ファッションや食文化など、私たちの日常にとってより身近なものにかかわる言語でもあります。世界的規模の「パリ・コレクション」が示すとおり、フランスはモードの重要な発信地。実際、私たちの身の回りに目をやってみると、ディオールやエルメスなどフランスの高級ブランド店、さらにはフランス語の名を持つ日本のブティックでいっぱいです。

 食文化
 食文化に関しても、いろんなことが思い浮かぶのではないかと思います。星の数によってレストランを格付けするミシュラン社のガイドブックや、解禁日がお祭りとなるボジョレー・ヌーヴォー。そしてマカロンやショコラ、タルトなどのお菓子!おいしく食べることの探究に情熱を燃やしつつ、料理やお菓子づくりを学ぶためフランスに旅立つ人も数多くいます。

 もちろん、芸術やファッションや食文化を楽しむために、フランス語がぜひとも必要であるというわけではありません。フランス語を知らなくたって、マグリットやゴダールを鑑賞したり、シャネルを身につけたり、ピエール・エルメを味わったりすることはできます。でも、たとえば、もし絵画のタイトルや映画のなかの言葉遊びを少しでも理解できたとしたら、もし香水やマカロン一つ一つに授けられた名前の意味がわかったとしたら、そのときにはきっと、より大きな楽しさ、プラスアルファの喜びを手に入れることができるに違いありません。そうした喜びや楽しさを贅沢と呼ぶとすれば、フランス語"de luxe"に由来する言葉を使って、いかにもフランス語を学ぶことは「デラックス」な体験なのだ、と言うことができるでしょう。

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 3.フランス語は難しい?
  ― 差異の体験としての外国語学習


la tour eiffel  それでもやっぱり、と言われるかもしれません。なるほど、役にも立ちそうだし楽しそうでもあるけれど、でも、フランス語って難しいんでしょ、と。

 確かにこれはよく言われることであり、フランス語は大変だぞと脅かされたことのある人もい少なからずいるかと思います。でも、本当にフランス語って難しいのでしょうか。というよりもむしろ、もし私たちがフランス語を難しいと感じるとしたら、それはいったいなぜなのでしょうか。

 「難しい」理由
 フランス語が難しい理由としてしばしば挙げられるのが、発音が独特であること、動詞の活用が複雑であること、さらには数の数え方が面倒であることなどです。でも、これは、フランス語それ自体が難解な言語であるということでしょうか。むしろ、私たちにとって未知のものがそこにたくさんあるからこそ、つまり私たちの知る言語とは大きく異なる要素がそこにたくさん含まれているからこそ、フランス語は私たちにとって難しいと感じられるのではないでしょうか。それゆえ逆に、たとえばスペイン語については発音が日本語に似ていて簡単だ、中国語については漢字を知っているから楽だ、などということも言われるわけです。母語との隔たりの大小によって、ある外国語が難しく感じられ、別の外国語が容易に感じられるということ。そしてもしこれが本当だとすれば、次のように言わなければなりません。だからこそ、みなさんにはフランス語を学んでほしいのだ、と。

 私たちが外国語を学ぶとき、もちろん、それが実際に利用可能であるかどうかということは重要です。また、それが楽しみを与えてくれるかどうかということも。しかしそれに加えて頭にとめておいてほしいのは次のことです。すなわち、外国語の学習は、何よりもまず、差異の体験とでも呼びうるようなものを可能にしてくれる貴重な機会である、ということです。

 差異の体験
 きわめておおざっぱな言い方をするなら、私たちがものを見たり考えたりするやり方は、私たちの使う言語によって大きく方向づけられています。他の言語を学ぶことは、したがって、自分がそれまで知らなかった外の世界に直面し、自分自身のそれまでの見方や考え方が無数の可能性のうちの一つにすぎないことに気づくための、貴重な機会です。そしてその外国語が、自分の言語と大きく異なるものであればあるほど、新たな視線、新たな思考への扉がそれだけいっそう大きく開かれることにもなるでしょう。逆にそうした扉に背を向けて自分の慣れ親しんだ場所に安住し続けるとき、思考は、自分にとって未知なるもの、外なるものを、異常なもの、劣ったものとしてしかとらえることができなくなり、憐むべき貧困へと陥ってしまうことにもなるわけです。フランス語の"r"を発音するために初めて喉を震わせるときの身体の驚き。文法や綴り字の厳密な規則性を前にしたときの精神の感動。こうした知性的かつ感性的な差異の体験を、ぜひみなさんにも味わってほしいのです。

 いろんな場所でたくさんの人々によって使用されているフランス語。芸術、ファッション、食文化など、さまざまな文化的事象と密接に結びついているフランス語。新たなやり方でものを考え世界を見る可能性を与えてくれるフランス語。使える言語、楽しめる言語、外への扉を開く言語としてのフランス語を、私たちと一緒に学んでいきましょう!

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(2008.12.24掲載)