近代日本法思想史 高橋 文彦 2010年度秋学期

【講義概要】天賦人権説から国家主義に転向した加藤弘之、戦前の国家観の基礎を形成した明治憲法と教育勅語、「民法出でて忠孝亡ぶ」と論じた穂積八束、天皇機関説を唱えた美濃部達吉、天皇主権説の立場から美濃部を批判した上杉慎吉などのテキストを受講生と一緒に音読しながら、日本独自の法思想が果たして可能か、日本の歴史的文脈の中で法思想はどこまで普遍性を追求すべきなのかという問題を考える予定である。ただし、講義の進行状況に応じて、講義内容を一部変更する可能性があることを、あらかじめお断りしておく。

【学修目標】明治時代に欧米から継受された法制度と日本人の法意識との間に大きな「ずれ」があることは、法社会学者や比較法学者によって指摘されてきた。この講義では、「日本の法律家が欧米から継受された近代法思想とどのように格闘したか」という問題を法思想史の観点から検討することを、学修の目標とする。

【授業計画】
【第1回】オリエンテーション、授業計画の説明
【第2回】加藤弘之の法思想(1)
【第3回】加藤弘之の法思想(2)
【第4回】明治憲法
【第5回】教育勅語
【第6回】民法典論争
【第7回】穂積八束の法思想(1)
【第8回】穂積八束の法思想(2)
【第9回】上杉慎吉の法思想(1)
【第10回】美濃部達吉の法思想(1)
【第11回】上杉慎吉の法思想(2)
【第12回】美濃部達吉の法思想(2)
【第13回】天皇機関説事件
【第14回】ノモス主権論争
【第15回】定期試験の予定(試験日は未定)

【準備・アドバイス】予備知識は要求しないが、まじめな出席が単位取得の必須要件である。なお、時代背景を知るための読み物としては、立花隆『天皇と東大(上・下)』(文藝春秋)、松本清張『昭和史発掘』(文春文庫)、関川夏央/谷口ジロー『「坊ちゃん」の時代』(双葉文庫)などが面白い。

【教科書】講義中に資料(明治・大正期の文献のコピーを含む)を配付する。ビデオ教材も利用する予定である。なお、講義において直接参照はしないが、村上淳一『〈法〉の歴史』(東京大学出版会)の第1章と第2章は必読である。

【参考書】井田輝敏『上杉慎吉』(三嶺書房、1989年)、芹沢一也『〈法〉から解放される権力』(新曜社、2001年)、瀧井一博『文明史のなかの明治憲法』(2003年、講談社)、嘉戸一将『西田幾多郎と国家への問い』(以文社、2007年)など。他の文献は、授業中に紹介する。

【成績評価の基準】平常点10%(授業への出席、授業への積極的参加の程度、授業中に提出してもらうコメント票、等)と定期試験90%による。

【オフィスアワー】水曜日1時限。事前に連絡すること。