9.変身願望 普段メガネをかけている人が急にコンタクトにしてきたり、髪の長い子がショートカットにしてきたり、何か少し変わるだけで、その人の印象ががらりと変わることがある。私は校則のきびしい高校時代をおくった。私も含め、ほとんどの同級生は、卒業すると髪を染めメイクをし、同窓会で久しぶりに会うときには別人となって現われる。自分の見た目を変えること、つまりイメージチェンジは、周囲に対して自分の印象を変えることになる。イメチェンで人は新しい自分をどんどん発見していくことができる。 私の好きな映画『プラダを着た悪魔』(2006年)(画像1)では、おしゃれに全く興味のない主人公が、一流ファッション誌のカリスマ編集長のアシスタントとなり数々の厳しい仕事をこなしていく。そんな彼女は、編集長に認められるために数々のブランド品に身をつつみ外的な変化を果たす。彼女のぼさぼさだった髪はきれいにカットされ、髪をなびかせてオフィスに登場する。ハイヒールを履き、メイクをし、別人になった彼女に周りの人たちも驚きを隠せない様子である。そして彼女の変化は変化だけでなく内面にまで及ぶ。いままで全く興味のなかったファッションの世界に魅了されはじめる。しかし、それと同時に恋人や友人との仲が悪い方向へと転じていく。最初はヒールを履いてオフィスを歩く編集部の女性たちをバカにしていた彼女は、イメチェンを果たし編集部の女性たちと同じ存在に変わっていく。 外見の変化は内面の変化をともなう。おしゃれをしてかわいくなれば、自分に自身がもてるし、気分も明るくなってくる。制服を着ているときと私服を着ているときとの心理状態はちがう。平凡な男の子や女の子が変身してヒーローとなる物語も、ある意味イメージチェンジに似ていると私は思う。たとえばセーラームーンでは、ドジで泣き虫な女の子が普段の状態からセーラー服に身を包み美少女戦士に変身する。そして世界を悪の脅威から守るのである。変身することがこの物語の大事なポイントであり、その過程によって彼女たちは今までとは違った存在になるのだ。変身すると、彼女たちは強い精神力を持ち、地球を守る使命感に満たされる。普段の状態からそのような緊張感を持っている人はいないであろう。また、ヒーローに変身した彼女に人々は助けを求める。変身は外見や内面だけでなく、周囲や世間に対する印象が変わるからである。 このように、ヒーローに変身しないまでも、イメチェンをしただけでも、周囲からの態度は変わったりするのではないだろうか。周りから見れば、ささいな変化でさえその人が今までと違った人になったように感じられることもある。変身物のアニメはたくさん存在するし、イメチェンや変身企画の番組もたくさん存在する。多くの人たちが、つねに違う自分になることを夢見ているように思える。 (画像1) DVD『プラダを着た悪魔』20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン ![]() |