11.ポップコーンの役割

 映画館のコンセッションという部署でバイトをしていたことがある。主にポップコーンを売ったり飲み物を売ったりしているところだ。ほとんどの映画館には、チケットを販売する店、映画に関するグッズを販売する店、映画を見ながら食べる飲食物を販売するお店の主に3つの販売店が存在する。その中でもコンセは、一番売り上げを伸ばすのに貢献しうるお店なのである。グッズを販売するストアはそこまで混雑することはない。レジに立っている店員は、ほとんど1人が2人ぐらいである。チケットは上演する映画によって売り上げはことなる。そして、来るお客さんの人数以上に売れることはない。1人あたりが出す料金というものは決まっている。映画は長い時間拘束されるので、コンセでは空腹を満たすために、ポップコーン以外にもホットドッグなどの軽食が売られている。アイスを売っている映画館もある。メニューが豊富であれば、コンセに来るお客さんは増えていく。

 ポップコーンを買いに来る人は大変多い。人気の映画だと上演10分から15分前に、一気にお客さんがコンセに列をつくる。カップルや家族連れ、子どもたち、映画館ではビールも売っているので、年配の方も買いにこられる。上演開始後もまだ並んでいる人もいるのだ。映画を見ながらポップコーンを食べるという光景は当たり前のようである

 しかし、映画を観ている最中にポップコーンを食べるなんて、気が散るしうるさいという人もいるだろう。みんな真剣に画面に注目し、静かに映画を楽しんでいる。それが上映中のマナーである。私がイギリスの映画館に行ったときは、物語の終盤になってくると、映画に飽きた子どもたちが室内を駆け出したり、ふざけてポップコーンをスクリーンめがけて投げたりしている大人がいた。日本では観られない光景なので、やはり驚いたし、そんなことやっても大丈夫なのか不安になった。しかし、どちらかというとその時のイギリスの映画館のような雰囲気が、映画をより楽しく観られるのではないかと感じた。映画のストーリーが分からなくなるほどうるさくなるのは当然嫌である。しかし暗くなった部屋で大勢の人が集まり、食べたり飲んだりしながら映画を観るというシチュエーションはドキドキわくわくするものである。お祭りのような感覚で、日常とは違う空間に来た気持ちになる。人々は、お腹が空いているからという理由でポップコーンを買っていくのかもしれないが、少しでも映画のわくわくするムードを作り出す要因となるためにポップコーンを買っていってほしいと思いながら私は売っていたのだ。