6.イバラード イバラードとは、井上直久という画家がつくった言葉であり彼の描く架空の世界の総称だ。この世界と出会ったのは中学1年生の頃。月刊「MOE」という雑誌に載っていたものを見たのが最初である。その雑誌はハリーポッターの映画の特集をやっており、ハリーポッターシリーズにはまっていた私はそれ目当てで購入していた。そのページを見つけたのは雑誌の購入から3カ月以上たった頃、久々にその雑誌を読み返している時であった。そのページを開いた時、陳腐な表現だが私は身体に電流が走ったような衝撃を受けた。それはある画家が描き下ろしで連載している絵のコーナーであった。「イバラード幻想」。どこに惹かれたのか、と聞かれてもうまく言葉では言い表せない。眩しい色使いに心を奪われたように思う。後にも先にもこれほど一枚の絵を見て衝撃を受けた事は一度もない。後になってイバラードの絵がジブリ映画の「耳をすませば」で雫とバロンが空想の世界を飛んでいる場面の背景として使われていることに気付いた。私はもう何年も前からこの世界に出会っていた。運命を感じずにはいられない。 イバラードの魅力的なところは街並みが細かく描かれているところにある。架空の世界であるはずなのに、街並みをみるとどこか懐かしい風景のように感じる。そのため、日常の世界とイバラードの世界がどこかでつながっているのではないか、狭い路地を抜けるとそこにイバラードがあるのではないか、そんな気分にさせられる。 イバラードの画集の最後はいつも田舎の路地など、実際にありそうな懐かしい風景で終わる。イバラードを旅して、日も暮れた事だしそろそろ帰ろうか、という感じで少しずつ絵が現実味を帯びてくる。その風景は小学生の頃、18時の鐘の音を聞いて友達と別れ、一人で帰る夕方の帰り道を彷彿とさせる。いつか私も行けるかもしれない。そんな気持ちにさせるどこか懐かしさのあるイバラードの風景は今もなお私を魅了してやまない。 |