11.電車

「千と千尋の神隠し」の後半に、千尋がカオナシと海原電鉄に乗って銭婆のところへ向かうシーンがある。私はこのシーンが一番好きであった。

それから電車に興味が出てきた。別に鉄道オタクではない。ただ、電車に乗って移動することに興味があった。満員電車は嫌いである。あれは電車が電車ではなくなり、移動するただの箱になってしまうように思う。貨物列車と一緒だ。人間をぎゅうぎゅうに詰めて移動し、駅に止まるごとに吐き出し、また詰め込んでいく。みんな無表情でそこに人間の思索はない。私の言うところの電車はそれではない。

たとえば昼下がりの電車。人は少ししか乗っておらず、外の風景もよく見える。私はそういう電車が好きである。あるときはいつまでも乗っていたい、と思ってしまう。

なぜこの空間が好きなのか。私は実家に住んでいる。一人部屋はなく、いつも誰かが近くにいる環境である。安心できるが、これだと一人になる時間がない。唯一一人になる時間、それが電車に乗る時間だ。温かい家族がいるのに、一人になりたいなんて贅沢なことかもしれない。しかし、ただぼんやりと何をすることもなく座っている時間が私にとっては贅沢に感じられる。カフェや図書館、その他の場所でも一人にはなれるかもしれない。しかし、その場所にいるためには目的がなくてはならない。カフェなら食べる、図書館なら本を読む。食べ終わってしまえば出ていかなければならないし、本を読まないならいる意味もない。電車であれば、なにもせずただぼんやりとしていても誰にも文句を言われない。景色が通り過ぎていくため、ずっと同じところを見ていてもおかしくない。

そのため、私は電車が好きだ。「千と千尋の神隠し」の電車のシーンが好きなのはずっとしゃべり続けていた主人公がふいに無言になり、ただ座っている姿が主人公ではない、ただの女の子に見えたからかもしれない。電車は一番自分が飾らないでいられる場所であるように思う。ちなみに私はいつも使っている東海道線よりも、小田急線のほうが好きである。理由はわからない。その理由も解明してみたい。