3.パンとパン職人の魅力 私はパンが好きである。パンの魅力とは一体なんなのだろう。もちろんその味やにおい、手軽さ、様々な食事のシーンに合うこと、などたくさんある。駅を利用する際には、おいしそうに積まれたパンについつい寄って行ってしまうし、ご飯ほど重くなく食べられるので、朝食にもぴったりだと思う。おやつにもなれば、小腹がすいたときの軽食にもなる。パンは食の一部、生活の一部として、私たちの毎日に入り込んでいる。 また、私は2012年の『しあわせのパン』という映画を見て、パンの魅力とは味やにおい以外に、見た目や音にもあるということを強く感じた。映画の中でうつされるのは、こんがり焼けたパンや、それを割ったときの「しゃくっ」という音である。なんと気持ちのいい音がするのだろうと思った。映画で観るとうそっぽく見えてしまうその音も、考えてみれば私は日常的に聞いている、食欲をそそる音である。 私は就職活動で、パン屋さんを受けている。合同説明会で偶然その会社の説明を聞いたときに「未経験でも、今から世界を目指せるパン職人になれます」と言われ、ビビビビッと魅力を感じたのである。なぜパン屋なのかと言われれば、うまく答えることができない。もちろんパンは好きだ。でもそれよりも、小さい頃からの職人に対する憧れのようなものがあるのではないかと思う。私の家は、祖父母が豆腐屋、父も兄もエンジニア、母は洋裁学校を出ているというように、それぞれ手に職を持っている人ばかりである。皆手先が器用なので、私は自分だけ不器用だと思っており、そんな家族に憧れを抱いてもいた。今も手に職を持つ人に憧れている。だからこそ、私は「今から世界を目指せるパン職人になれる」という言葉に飛びつくように、その会社にエントリーしたのかも知れない。ただ、これまで専門的に何か手に職をつけようとしてこなかったことにも理由がある。それは、何かを選ぶということに伴う、何かを捨てるという勇気がなかったからである。選択の幅が狭まってしまうことがこわく、様々なことをバランスよくやろうとしてしまうのである。けれども最近になって、そのように何かひとつ自分が絶対的に自信があるものを持っていないということが、自分の自信のなさに繋がってしまっているのを感じている。私にも、何かの道一筋でやっていけることができるのか、試してみたいと思う気持ちがある。そういったこともあり、もともと食べることが大好きな私にとって、好きなものを作ることができるというパン職人の道はとても魅力的だったのだ。 |