⑥演劇

 私が演劇に興味を持ったのは、声優の養成所に通い始めてからである。声優も役者であり、声だけでその人物を表現するため、まずは演劇の稽古をするのだ。そこで初めてまともに演劇というものを体験し、その楽しさを、身をもって知ることとなった。

 舞台の上で、役者は自分ではない別の誰かになる。役者は役を演じるものであるが、実際は演じているのではなく、文字通りその役になっているのだと私は思う。それを私は、一度目の小さな劇の時に体験した、と思う。言い方が曖昧なのは、客観的に見て、私はその役になることが出来たのかどうか、不安であるためだ。しかし、主観に限って言えば私はその役そのものであったと言える。感情や動き、そして台詞も、とても自然に溢れ出てきたのだ。その時私は、役を演じているという私自身の感覚を保ちながらも、その役そのものであった。この両立によって、台本通りの台詞、練習通りの動きをしながらも、役その人として感情を動かすことが出来るのだろう。台詞を間違えることなく、元々予定していた動きから大きく外れることもなく、それでいて感情は実にリアルに動かされるのである。

 この感覚のもとに演劇が出来た時、達成感のような、気持ちよさのような、そんな気持ちが私の中に生まれた。あぁ、演劇とは楽しいものなのだ、と私はその時実感したのである。こうして演劇の面白さを知ったことで、私の演劇に対する興味はよりいっそう深いものとなった。

 しかし、そういった体験をしたと言っても、私はまだまだ技術的にも身体的にも未熟である。自分の体験したものをそのまま観客にも表現することは、現段階ではかなわないであろう。自分の劇の映像を見て、私はそれを思い知った。だからこそ、小さな練習を積み重ねることで役者としての自分を少しずつ高めていくのである。 来年度もその養成所には通うことを決めた。声優の養成所ではあるが、その過程で演劇をすることを最大限に楽しもうと思う。