1.憧れが薄れる瞬間

  私が一年生の頃、憧れを抱いた女の先輩がいる。所属する演劇研究部の先輩で、中世的な容姿が魅力の、宝塚みたいな演技をする格好良い先輩である。入部したての頃は非常に憧れていたが、その先輩と交流し仲良くなった今、尊敬は抱いているが、憧れていたあの頃の気持ちはどっかへ行ってしまった。決して「憧れ」が消滅するような幻滅するような出来事や、ショックを受けることも無かった。この気持ちはいつ薄れてしまったんだろうか?

  私が、小さい頃からずーっと憧れ続けているものが2つある。一つは、いつか魔法を使って変身してみたいということ。それに続けて、戦えるようになってみたいということ。前者は到底叶わない話である。いや、いつか私の元へ不思議な何かがやってきて、変身する力を与えてくれるかもしれない。そんな話は一度も聞いたことが無いが。アニメの世界での話だけどいつかなりたい…という気持ちが、私を役者という職業へ導いている気もする。戦えるようになることが案外できそうな話で、実は、空手や合気道、剣道など、なにか武術を身に付けて格好良いことしたい、という程度である。でも、バスケットボールを10年間やってきた身としては、私が思い描いているような激しい戦いは相当打ち込まないと難しい、ということを身をもって実感してきた。また、他にやりたいことやあって時間も無いしお金も無いとで、これはまだ見ぬ「いつか」やってみたいことだ。これらは、今の私にとってはほど遠いところにあることだ。

 一方で、今私は声優を目指している。専門学校に通う前は、自分が将来やりたいことを発見して、アフレコブースに入ることに憧れを抱いていた。通い始めてからは、これから色んなことを学べる期待感と高揚感でワクワクしていたが、1年間やってみて現実の大変さと覚悟を知った。ここに最早、上記の憧れは薄れてしまった。自分がその職業に近しくなって、気持ちが変わってしまったからだろうか。

 私にとっての「憧れ」は、遠くにあるからこそ、「憧れ」なのかもしれない。近くなってしまったら、それはもう「憧れ」では無いのかもしれない。先輩への憧れが薄れてしまったような気がしたのも、もしかしたら、仲良くなれた証拠かもしれない。

【憧れる】①理想とするものに強く心がひかれる →本文はこの意味での「憧れ」である
     ②(ある物に心がひかれて)ふらふらとさまよい出る
     ③気をもむ        (参考辞書:スーパー大辞林)