10.横顔

 横顔は、神秘に満ちている。私は常々そう考えてきた。
 正面から見るとなんともないのに、横から見るとものすごくドキッとする顔をする人がいる。横顔だけを撮った写真集が出ればいいのに、と密かに想い続けてもう5年は経ったように思う。
 始まりは、横顔に一目ぼれをした時だった。中学三年生のときに、私はある男の子の横顔に恋をした。バスに乗って真っ直ぐ前を見据える男の子の横顔に。その時から、私は横顔のもつ不思議さに魅了されている。

 横顔は、こっちを向いてないからいいのだ。
 なぜなら、その瞳の中に自分ではない何かが映っていると考える時、そこには自分とは交わることのない想いが詰まっていることをしる。

 仕事を見つめて、真剣な顔をしているとき。
 恋をして、片思いの相手を見つめているとき。
 好きな音楽を視聴していて、思わず笑顔になってしまった瞬間。
 全部を切り取っていきたい!と思う。つまり、横顔にはその人個人が良く現れているのだ。正面で見るよりも正直に、横顔をふと見るとそこには油断した顔がある。その瞬間はなんて素敵なのだろうか。

 しかし、これは相手が自分に向き合っていない状況が好きというので断じてない。考えていたり、何かを見つめている時の一途さや、ふっと気を抜いた時のゆるんだ顔にときめきを覚えているのだ。そこにはその人の意外な一面や、普段見ることの出来ない顔を垣間見てしまった時の高揚感があるのだ。

 普段笑っていなかった人が、ふと見ると笑みを浮かべていたらどうだろうか。または、普段お茶らけている人が真剣に本を読んでいる姿を見たらどうだろうか。少女漫画では王道なシチュエーションだが、結構「見ちゃった感」がでて嬉しくなってこないだろうか。
 横顔には、そんな可能性が秘められているように思う。そして、こっちを向いて欲しいという願望も同時に出てくるのだ。それはチラリズムと少し似ているかもしれない。普段見ることの出来ない顔を見られるチャンスが横顔にはあるのだ。