国際学部竹内啓教授の最終講義が行われました。
御参加頂いた皆様、誠にありがとうございました。

 

テーマ  『21世紀世界の変革の可能性』

20世紀は「戦争と革命の時代」であった。
21世紀には「全面戦争」の可能性は少なくなったように思われるが、「テロリズム」をふくむ戦争の危険は去っていない。他方「革命」について語られることはほとんどなくなった。しかし21世紀の世界は依然として「変革」を必要とするのではなかろうか。20世紀の革命と戦争は事実上不可分であった。21世紀には「戦争なしの変革」はどのようにして可能であろうか。

          クリックするとA4サイズになります

              開 催 日 2006年1月12日(木)

              時   間 4時限 15時05分〜16時35分

              会   場 横浜校舎 9号館 912教室

              共   催 国際学部・国際学部付属研究所

              講   師 竹内啓先生(本学国際学部教授

    竹内教授ご挨拶

     私は1994年に東京大学経済学部を定年退官後、国際学部に参加させていただいた。この間12年になる。長いようでもあり短かったようにも感ぜられるが、大変気持ちよく有意義な年月を過ごさせていただいたことに対して、同僚の皆さんに心から感謝申し上げたい。
     実は、最初はこの学部に来ることに決まった時、「国際学」とはなんだろうかということについて戸惑いを感じた。私の本来の専門分野は統計学であるが、経済学部出身でずっと経済学部に在籍しており、経済学、とくにマルクス経済学が私のルーツの一つである。他方統計学という分野の学際性から、いろいろな専門分野の方々とお付き合いもあり、経済論や科学技術論にも関心があり、東大時代の最後の7年間は先端科学技術研究センターにも併任していたので、科学技術と現代社会の関係、あるいは地球環境問題などにもかかわっていた。しかし「国際学」というものについては、それまでほとんど無関係であったので、いったい「国際学部」で私は何ができるのかと不安にもなった。しかし国際学部の英語名がFaculty of International Studiesであるように、「国際学」という一つの学問分野があるわけではなく、いろいろな分野、いろいろな問題についての「国際学的」な研究があるだけだとすれば、私にもそれなりに「国際学的」な視野からの研究が可能ではないかと思ったのであった。そこでそのような観点からいくつかの論文を国際学部の機関誌である『国際学研究』に寄稿させていただいた。
     私の関心は大まかにいえば、現代世界がどのような歴史的性格を持ち、どのような方向に向かっているかということであり、それについてはいろいろな側面からの講義を毎年大学院で続けてきた。
     今年は学部一年生対象の「社会科学入門」の中で、近代になってヨーロッパで成立した「社会科学」というものは、一方では人間社会一般を対象にしながら、他方では常に西欧「近代社会」をモデルとして、それに関して経済学、政治学、社会学等の分野を発展させてきたことを述べてきた。そしてそのような「近代社会」は、西欧あるいは欧米で形成されたものであるが、他の社会も、日本を始めとして「近代化」の道を歩んできたことを説明した。
     21世紀の初頭になって、このような「近代化」はいわゆる欧米や日本などの「先進国」ではほぼ完成されたように見えるし、その他の国々も、中国のように急速に「近代」をすすめつつあり、「グローバル化」の中でその方向性については結論が出されているように見える。
     しかしそれでは21世紀の世界は、ただ現在の方向性をそのまま進めていけばよいのだろうか。それが最後の問題である。今日はそれについて私の考えを述べたい。
     以下は講義のレジュメであるが、その詳細は「国際学研究」に掲載される予定である。

    最終講義レジュメ

    21世紀世界の変革の可能性

    1. 20世紀世界史の総括
     ・ 西欧(アメリカを含む)帝国主義の没落
     ・ 全世界におよぶ近代化=西欧化   ―→ これは矛盾か?
     ・ 社会主義体制の崩壊――「歴史の終わり」か?

    2. 近代化の理念
     ・ 「個人」の確立――「自由」、「平等」、個人の権利としての「人権」、「人格権」
     ・ このような理念は近代西欧社会において確立されたが、それは全人類的普遍性を持つ

    3. 西欧帝国主義の矛盾
     ・ 「人間」の範囲の事実上の限定、排除
         ――奴隷、有色人種、女性、家事使用人、労働者、貧民、そして植民地の人々
     ・ 「文明国」の作る「国際社会」と「非文明国」の征服、支配

    4. 「近代」社会の枠組み
     ・ 社会秩序の維持――代議制民主政、官僚制
     ・ 経済の発展――社会的分業、経営組織、市場経済
     ・ 技術の発達――科学技術、専門家の発生
     ・ 精神文化――宗教、独立の学問・芸術
     ・ 公共性――国家
     ・ これらはすべて「近代化」――すべての個人が安全、安楽、精神的充実を獲得すること――のための手段

    5. 「近代社会」の矛盾
     ・ 手段の自己目的化――政治権力、企業利益、教会、専門家集団
     ・ 大衆社会――共同性の喪失、疎外、自己の手段化
     ・ 人間再生産の「私」化――出生と死の公的領域からの排除、人口問題(人口減少?)
     ・ 公共性の肥大化と国家による独占――民族、国家主義

    6. 「近代社会」を生み出した革命
     ・ 近代国家における「革命の伝統」――イギリス、アメリカ、フランス、日本――旧体制の打倒
     ・ 20世紀における「流産」(?)した革命――ロシア、中国、トルコ、メキシコ、旧植民地諸国
     ・ 「近代」に対する反動――ファシズム、ナチズム、権威主義、宗教原理主義

    7. 21世紀世界の課題
     ・ 全世界の「近代化」――旧体制、特権階級の打倒、貧困や無知の解消
     ・ 「先進国」の近代化の完成――女性やマイノリティの権利の確立
     ・ 「自然の制約」の処理――環境、資源
     ・ 全人類的共同性の確立

    8. 21世紀における「世界変革」の必要性
     ・ 「前近代」遺制の打破――既得権益、特権の打破、政教分離、「伝統」からの解放
     ・ 「近代社会の矛盾」の打破――政治、経済、科学技術等々の自己目的化の限定
     ・ 「人権の尊重」の徹底
     ・ 「国家」を越える「権威」の確立
     ・ 「変革」の必要性――体制変更の必要

    9. 「変革」の概念
     ・ 「革命」の失墜――政治至上主義の限界
     ・ 「変革」の主体と「抵抗勢力」
     ・ 「変革」の戦略

    10. 「変革」のための思想
     ・ 近代の理念の堅持
     ・ 共同性の再構成――民族、階級、共同体の限界
     ・ 「公」と「私」の再定義――「政府=共同性」、「民間=私的利益」の二分法の修正
     ・ 自然との関係――人間と自然との緊張関係の適切な認識