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INSTITUTE FOR INTERNATIONAL STUDIES
MEIJI GAKUIN UNIVERSITY

 

4年間の公開セミナーを終えて

 原 武史


2008年度
2009年度
2010年度
2011年度
openseminar2008
openseminar2009
openseminar2010
openseminar2011
 重責を無事果たし終えたという安堵感が半分、もうあの会場を埋めつくす聴衆の熱気を浴びることは二度とないのかという寂しさが半分といったところだろうか。

 このほど、2012年3月をもって、国際学部付属研究所長の職を退くことが決まった。思えば4年前、投票により研究所長に選ばれたときには、大変なことになったと思い、前途に暗雲が立ち込めたものである。だが選ばれた以上は、公開セミナーを一部の教員や研究者だけが集まるような閉じた空間にするのではなく、広く市民に開かれた文字通りの公開セミナーにしたいという思いがあった。また本学部では一年生向けに基礎文献ゼミというのを行っており、そうしたゼミで読まれる本の著者に来ていただければ、学生にとってもプラスになるだろうという思いもあった。

 幸いにも、私の意図は戸谷浩主任をはじめ、運営委員となった教員に理解され、また研究所スタッフや学生アルバイトなどの協力に支えられ、2008年10月より公開セミナーが始まった。この試みをたまたま当時、付き合いのあった河出書房新社の藤崎寛之さんに話したところ、直ちに興味を示され、書籍化の準備が進められたのも幸いであった。高橋源一郎教授、竹尾茂樹教授、大川玲子准教授にも、校務に負担にならない範囲での協力をお願いした。

 それにしても、無謀な試みであった。私が4年間にお呼びしたゲストの多くは、一度か二度しか会ったことのないような、全く親しくない方々であった。駄目元である方には長文の手紙を書き、ある方にはご都合に合わせて指定された場所に会いに行き、ある方には親しい編集者を通して働きかけた。そうしたところ、これも幸いなことに、お願いしたすべての方々から快諾を得た。

 いざ始めてみると、学生よりも一般市民の参加のほうがはるかに多いのにはびっくりした。はじめは基本的に9号館(300名教室)で行い、人数が多そうなときに限って7号館(500名教室)で行うという態勢で臨んだが、参加者の数が段々と増えてきたため、2009年度の途中から毎回7号館で行うようにした。付属研究所所長の任期は2年だったが、再任されたのに伴い、2010年度と11年度も公開セミナーを続けることにした。特に今年度は、図書館の全面的な協力を得たせいか、従来よりも学生の参加が増えた。宮部みゆきさんを呼んだ11月15日には、聴衆の数が初めて700人を超えた。

 ここで一つ、反省をしたい。

 実は研究所長になるまで、私は国際学部も明学の他学部同様、白金に拠点を移すべきだと考えていた。他大学のライバル学部が次々に都心に拠点を置いたり、都心に戻ってきたりする情勢を踏まえ、このまま郊外にとどまっていては、学生の質の低下を招くと思ったからである。しかしいまでは、この考え方がいかに料簡の狭いものであったかがわかる。郊外の住宅地に囲まれたキャンパスの特徴を逆に活用し、「市民大学」として独自の道を進むという手があるではないか。それは偏差値という数字に還元されない大学を目指すということでもある。

 私の専門は日本政治思想史である。これまで、天皇や天皇制を中心とした研究を行ってきたが、最近では戦後の思想史にも手を伸ばしている。その一環として、1960〜70年代の中央線沿線、とりわけ東京都北多摩郡国立町(67年より国立市)で展開された住民運動に関心を持つようになった。

 国立は堤康次郎が開発した学園都市であり、一橋大学と住宅地が一体となっていて、大学と住民の距離が非常に近い。ここで地域の核としての役割を果たしたのが公民館であり、託児所を整備して既婚女性を対象とする教室が開かれたり、市民大学セミナーが開かれたりした。60〜70年代の国立では、一橋大学のみならず、他大学の教授、評論家、作家など、第一線で活躍するさまざまな人々が頻繁に来訪し、各種の講座が開かれ、多くの市民が積極的に参加していた。一橋の大学闘争がピークを迎えた69年5月には、主婦の会が大学構内の兼松講堂で当時、カリスマ的な人気があった羽仁五郎を講師として招き、約1300人の市民と学生が参加している。

 公開セミナーを進めるなかで、しだいに私の眼前に立ち現れてきたのは、この国立の歴史であった。大げさにいえば、戸塚をかつての国立のような「学園都市」にすることが、私のひそかな夢であった。しかし振り返ってみれば、こうした夢は、時を経るごとに、国際学部が目指している方向との乖離を拡大させる結果をもたらしてきたこともまた、偽らざる事実だったように思う。

 この点もまた率直に反省しなければならない。

 最後に、公開セミナーに来ていただいたゲストの方々はもちろん、セミナーに熱心に参加してくださった方々にも、深甚なる感謝の言葉を捧げたい。所長在任中の4年間で学んだ「成果」を、今後は著作活動のなかで生かしてゆけるよう、努力する所存である。本当にありがとうございました。


(2011年12月15日擱筆)