97年6月

6月14日

 藤目ゆき『性の歴史学 公娼制度・堕胎罪体制から売春防止法・優生保護法体制へ』(不二出版)、これは掛け値なしにすごい! もし内容が目次の通りなら、近年まれにみる画期的な業績である。つまり、まだきちんと読んでいないのだが、それでも最後の方の1章を読んだだけでぶっ飛んでしまった。「赤線従業員組合と売春防止法」! 日本にはほとんど不在と思っていたセックス・ワーカーの運動があったのだ! これについて私が知らなかったということが単に私個人の不覚ではないとしたら、一体それは何を意味するのだろうか? 戦後社会がそれを忘れ、隠蔽してきたとは、一体どういうことなのか? この1章だけでも私にはとても大きな衝撃であった。もちろん本書ではこれのみならず、戦前の娼婦たちの運動も丹念にフォローされているし、産児制限運動も対象とされている。そしてそれらが女性解放運動から抑圧的な社会統制運動へと変質していく様が描かれていく。「積ん読」の荻野美穂『生殖の政治学 フェミニズムとバース・コントロール』(山川出版社)と読み比べてみようと思う。

 加瀬和俊『集団就職の時代 高度成長のにない手たち』(青木書店)、渋いテーマだ。昭和30年代、それは「後進国から先進国への変化が凝縮されていた10年間」、「中学校新卒者が労働市場の中で枢要な位置を占めていた時期」であり、そして更にその中卒者たち、「金の卵」の中軸をなす農山漁村の子弟が大都市圏へと大量に流入して、中小零細企業群、すなわち日本経済の二重構造を支えた時代である。すなわちそれは集団就職の時代であった。同時代の実態調査は結構あったはずだが、歴史研究の視点からのまとまった作業としてはおそらく初めてだろう。

 中島義道『人生を〈半分〉降りる 哲学的生き方のすすめ』(ナカニシヤ出版)。飛ばしてます。昨年『うるさい日本の私』(洋泉社)で大ブレイクした中島先生絶好調……という言い方はしかしこの方に対しては失礼、不謹慎というものだろう。大体、「隠遁のすすめ」なんて本を意図的に出版するなんてこと自体が矛盾している。うかつに本を出したりしてちゃ隠遁になんないだろ! そして中島氏はこの矛盾を十二分に自覚している。というか、このことが矛盾しているということ自体、私はこの本で教わったようなものだ。とても面白おかしく、そしてとても苦しい本だ。これを読んで心が多少とも痛まない奴とはお付き合いしたくない。第三者的には、この本で中島氏がとるスタンスを、小泉義之氏や永井均氏のそれと比較してみると面白いだろうと思うが。

6月7日

 取りあえず買って読み始めてる本。浜下武志『朝貢システムと近代アジア』(岩波書店)。世界システム論的(ウォーラーステイン的と言ってしまうと語弊あり)観点からの中国近代史研究として定評のある論文の再録と本書のための書き下ろしからなる。この著者のものを読むのは初めてだが、こちとらほとんど無知な領域ということもあってただただ勉強になる。中華帝国の世界秩序とはどのようなものであったのか、安易な図式化を排しつつわかりやすく論じていく。


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