99年11月

11月30日

 はっきり言って勉強する暇などない。子守りの合間に今月も細かい原稿を二つ書き上げました。来月活字になります。(『論座』に書評1本、ロッキング・オン社の『SIGHT』に1本。)あと1本やはり細かいものを引き受けて年明け。『思想』の続編はどうなる。このままでは市野川君を笑えない……。はっ、その前にエヴァンゲリオン論は? 
 ボケはさておいて。とにかく未消化でも読んでなくてもいいから節操なく紹介するという本旨を忘れてともすれば読んだ本について書こうとするようになった今日この頃、やはりここは初心に返らねば。

 遅ればせだが原 純輔・盛山和夫『社会階層 豊かさの中の不平等』(東京大学出版会)は紹介しておかねばなるまい。1995年は10年に一度の「社会階層と社会移動」全国調査(SSM (Social Stratification and Social Mobility) 調査)、日本社会学界最大規模の一大調査プロジェクトの年であった。科研費報告書は既に出て、公刊用の報告書も来年くらいから出てくるはずだが、その予告編というべきか、リーダー格二人の共著になる本書は5回にわたる調査の結果を踏まえて戦後日本における社会階層と社会移動の歴史とその意味について、入門的な概説を行っている。しかしあっさり読み捨てていい本ではない。教育社会学方面では今や支配的パラダイムとなったブルデュー流の再生産理論への(少なくとも日本への適用への)重大な異議申し立てや、あるいは経済学では常識化している二重労働市場論の批判など、個別の実証的な論点レベルでも重大な問題提起があるし、また現在日本の階層・移動研究において、計量的実証は着実に進んでいるものの、現象を説明する理論的枠組みが破綻している(マルクス主義的階級理論はもちろん、「産業化と共に社会移動は増える」といった近代化理論も含めて、有効な説明理論がない)ことの率直な表明など、刺激的な記述が多い。

 武川正吾『社会政策のなかの現代 福祉国家と福祉社会』(東京大学出版会)は、春先に出た藤村正之『福祉国家の再編成 「分権化」と「民営化」をめぐる日本的動態』(東京大学出版会)と合わせて、今日の日本社会学における福祉国家研究の水準を示す著作と言える。

 開発経済関連では、バングラデシュのグラミーン銀行など、途上国におけるスモールビジネス支援、それを通じての貧困者(特に女性)の自立支援のツールとして近年脚光を浴びているマイクロ信用の入門的解説書、岡本真理子/粟野啓子/吉田秀実編著『マイクロファイナンス読本 途上国の貧困緩和と小規模金融』、またインドの統計を手がかりに児童労働の要因についての計量的実証分析を行った藤野敦子『発展途上国の児童労働 子だくさんは結果なのか原因なのか』(ともに明石書店)、またルイス、ハーシュマン、センという一見開発経済学の大御所という以外に共通点が見あたらない3人を「アフリカ」という現場の目からつなげてみせるユニークな概説書、峯陽一『現代アフリカと開発経済学』(日本評論社)が面白そうだ。


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