1999年6月15日

 そう、冬樹蛉さんが指摘されているように、「仮面ライダースナック」は決してまずくなかった(多くの人はなんのことかおわかりにならないかもしれませんが、その場合は冬樹さんの上にリンクした日記、さらにそこから稲葉振一郎さんのリンク集に飛んで、私・加藤についての悪意に満ちた解説をざっとお読みになってから、戻ってきてください。)だいたいおれは、当時「ライダー・スナックをカード目当てに買って、お菓子本体の方は食べずに捨てる子供たち」が社会問題化しているなどということは知らなかったよ。おれんちは、子供がちょっとマイブーム的に欲しがるお菓子を、一切の教育的配慮というかそもそもそういう概念自体をもたない母親がどんどん買ってきてしまい、「ライダー・スナック」やら「かなぼうくん」(CMが大ヒットして、みんなでマネしてたよね)やら「もこもこアイス」やらが常時20個ぐらい(誇張ではありません、念のため)はその辺にごろごろしているという変な家庭だったので、おれは子供心に内心「あちゃ〜」と思いながらも、「せっかく子供のためと思って買ってきてくれた母親に対する配慮」半分、そして冬樹さんもお書きになっているように「食べ物を粗末にすると目がつぶれるという超自我の命令」半分の圧力に負けて、仕方なくせっせとすべて食いきっていただけなのだ。

 話を戻しましょう。稲葉さんは「仮面ライダー・スナック」を「爆発的にまずかった」と書いているが、冬樹さんと同様、おれはそんなにまずいと思ったことはなかった。たしかに、後に出た「バロムワン・スナック」の方がアーモンド味でより美味かったとは思うが、まあ「ライダー・スナック」より不味いお菓子なんて昭和40年代にはまだたくさんあったので、そのなかではむしろマシな方ではなかったか。
 たぶん、稲葉さんは、ふだんもっと美味しい高級なお菓子を食べていたのだろう。稲葉さんのサイトの経歴一覧にあるように、某お嬢様お坊ちゃま系私立中・高に通われた上流階級出身の稲葉様にとっては、「ライダー・スナック」など下賤の食い物に感じられたのだろうな。実は僕は、現在、その当の学園前を通過するバスをよく使っているのだが、「○○学園前」のそのバス停でぞろぞろ乗り込んでくるお子さまたちのお上品さ&賢そうさにはいつもため息をつかざるをえない。実際、なんか制服がパリッとしてるし、なんかいつも賢そうな会話しているし。僕にも小学生の姪や甥たちが合計5人いるが、いつも殴り合ったり蹴りあったりしているやつらとその落ち着いた佇まいのお嬢様お坊ちゃまたちを頭のなかで比べるにつけ、カール・マルクスやピエール・ブルデューやポール・ウィリスの偉さを噛みしめるのである。

 最近買ってみたCDについて、感じたことなど。『バンド・オブ・ジプシーズ・ライヴ・アット・ザ・フィルモア・イースト』〜いわずとしれたジミ・ヘンドリックスの発掘モノ。これは文句なしに素晴らしい。ヘンドリックスがどこへ行こうとしていたかをはっきりと感じさせ、それだけに切なくもあるのだが、そんな感傷も吹き飛ばす圧倒的なグルーブだ。『BBCセッションズ』も最高だったけど、これも負けていない。しかし、これだけ立て続けに発掘音源を聴いても、全然マンネリ感がないというのは、いったいどういうことなのだろうか。ケン・イシイ『スリーピング・マッドネス』〜「サウンド・アンド・レコーディング・マガジン」や「キーボード・マガジン」で大々的に紹介していたので聴いてみたが、僕にはあんまりピンとこなかった。キレイ過ぎる感じかな。BGM的に流している。『ザ・ベスト・オブ・ハードフロア』〜もはやテクノの大御所の97年に出たベスト盤。これはいい。音もビートもとっても単純なんだけど、腹に食い込んでくる。AIR『LIBERAL/ROOTS』〜新しいシングル。どちらの曲も、ちょうど前のアルバムとその前のアルバムの合成みたいな印象の、高次元で完成された曲。でもちょっとワンパターンな雰囲気が漂ってきちゃったかな? すっごくいいシングルなんだけどね。ザ・イエロー・モンキー『ソー・アライヴ』〜これは選曲、録音ともに実にライヴ盤らしい、清潔感のあるライヴ盤だねえ。ファンは納得でしょう。ザ・ハイロウズ『バームクーヘン』〜ほんとうは「バウムクーヘン」だと思うんだけど。それはともかく、これはハイロウズ初の名作だ。今までのかれらは、正直僕にとってはブルーハーツの呪縛をネガティヴなかたちで感じさせたんだけど、このアルバムは真正面から『スティック・アウト』を超えたと思う。鍵は甲本ヒロトの圧倒的なハイテンション。ヒロト君が行けてるときは、真島君もつられて突き抜けるからね。最後を飾る甲本ヒロト作「バームクーヘン」の歌詞には、ひさびさにぶっ飛んだ。彼は「思い」だの「感情」だのを超越して、ただ「真理」を歌う瞬間がある。この曲はその究極のかたち。それが、ロックンロール・ソングとして存在することの奇跡よ。少し前の作品だけど、CHARA『ストレンジ・フルーツ』〜これも素晴らしい。全作ほどキャッチーじゃないけど、歌詞、曲、音の煮詰め型はただものではない。このあいだカラオケで「ミルク」をつい歌ってしまったのだが、学生さんたちは引いていたような気も……。他には、ステレオフォニックスとかハリケーン#1の新譜がまあ良かったともいえるし、いまいちともいえる、というところ。ブルース・スプリングスティーン『18 Tracks』は、僕の場合、採点の対象にはならんのです。ただ死ぬまで聞き続けるのみ。アナトール・ウゴルスキとピエール・ブーレーズ、シカゴ交響楽団によるスクリャービンのピアノ協奏曲も繰り返し聴いている。ブーレーズはこのところ、精力的にいい録音を残してますね。97年にクリーヴランド管弦楽団とやったベルリオーズの『幻想交響曲』も良かったし。12世紀のダ・ビンチ的天才女性ヒルデガルド・フォン・ビンゲン(最近、研究書の邦訳も出たそうな)の音楽は、わが魂の師・長岡鉄男大先生の推薦盤だったので買ってみたのだが、まさにその空間に引き込まれるような音楽だと思った。村治佳織さんの『パストラル』は、水しぶきが迸って陽光にきらめくような演奏。若さという特権をいわずには決して語れないような音楽なのだが、同時に、これからの遙かな道のりが奥行きとして見えるような、感動的な音楽であった。いやびっくりしました。素晴らしいです。NHKの番組で見た、ホアキン・ロドリーゴに会いに行く彼女は、率直な人柄のように見えました。他にはチャイコフスキーを集中的に聴いたり、アバドの振ったノーノの音楽に揺さぶられたりしましたが、疲れたので、今日はこの辺で。