1997年10月17日(金)

 バークレイはサンフランシスコから湾を挟んだ向かいにあるんだけど、この辺りは年間でいちばん平均気温が高いのは9月、次が10月である。といっても摂氏21度と20度で、7月、8月はそれより寒い。現地の人に言わせると、今年は異常に暑い夏だったということだけど、私は寒くて、暖房がほしくてたまらん日もけっこうあった(大家さんにもとのスイッチを切られていたので、ヒーターはつけられなかったのだ)。
 それでも8月下旬頃から、木々はだんだんと秋らしく色めいてくるのが不思議だ。今はもう、アパートの周りは紅葉と呼べる状態になっている。年間の寒暖差がないせいか、日本のように美しくはないけど、それでも秋のムードは感じられる。ここは、「カリフォルニアの青い空」(青いバカ、という曲もあったな)というイメージとはだいぶ違います。

 いつも金曜日はオフ状態で、今日も昼過ぎからSFのジャパンセンターにある紀伊国屋書店に雑誌を立ち読みに行ったので、それ以外の読書はなし(「読書日記」なのに、いきなり、二日めで)。とは言っても、夕飯を食って帰宅後は、Eve Kosofsky Sedgwick, Epistemology of the Closet (California University Press) を読んでいる。疲れたので、途中でこの日記を書いているのです。
 セジウィックは、前著 Between Men (California University Press) で、性愛の原理としてのホモセクシュアリティと、社会結合の原理としてのホモソーシャリティを区別し(というよりも、後者の概念を発明し)、ホモセクシュアリティの排除としてのホモフォビア(同性愛嫌悪)が他方で女性の排除としてのホモソーシャリティを支えている、という事態を、英文学史に題材をとりながら明らかにして、ジェンダー/セクシュアリティ研究の新時代を切り開いた人として有名。それにしても、『クローゼット』の英語はなかなか難しく、なかなか読み進まない。ついついBGMとして流してある、ピンク・フロイド『おせっかい』『原子心母』に聴き入ってしまう。
 私は、彼らの作品では何といっても『原子心母』の(LPでいえば)B面が好きです。デイブ・ギルモアが、ボックス・セットにこのアルバムを入れなかったのは許せんな。ジャケットは『あなたがここにいてほしい』がいいな。いつ見ても、せつねーなあ、ねえちゃん、と呟いてしまいます。発表から30年近く経って聴くと、実は彼ら(というより、ロジャー・ウォーターズ)の世界にはひとかけらのギミックもこけおどしもなく(むしろ当人たちは満載したつもりだったのかもしれないけど)、とにかく仕方なくああなってしまったのだ、ということがよくわかる。だから古びないだな。ウォーターズ脱退後の新生ピンク・フロイドに、古くさいこけおどししかないのとはえらい違いだ(それでもギルモアのギターは好きですけど)。