1997年10月31日(金)

 なかなかキツイ一日だった。朝から忘れ物をして、家とキャンパスを自転車で2往復した後、11:00から14:00はバトラー先生のUndergraduate向けゼミ(今日はHenry James, The Beast in the JungleOscar Wilde, De Profundis、そして前者にかんするSedgwickの分析について)、いったん家に帰っていろいろ片付け、またも自転車をとばしてキャンパスに戻り、16:00から17:30は毎週木曜に設定されている社会学部主催の講演会(今日は私のスポンサーであるTroy Duster氏による、遺伝学と社会の関係についての話)、それが終わると直ちに週2回のVisiting Scholar向け英語コースに駆けつけ、18:30まで、そのあと一息ついて、キャンバス内で19:00から行なわれるはずのB・B・キングのフリー・コンサートを見に行った。かなりの人が集まっていたのだが、BBの姿はどこにもない。まあ、アメリカだからな、とポジティヴに考え、しかし40分経ってもただ広場に人々がたむろしてるだけという状況なので、とりあえずメシを食いに行く。30分して戻ってみたら、すでに人混みは解散していた。いったいなんだったんだろう。いつもキャンパスの入り口で一日中ドラムを叩いているストリート・ミュージシャンの兄ちゃん(今日はベースと一緒)だけが、BBを待って暇つぶしの人たちからけっこう受けていて、ただひとり得してた(おれも今日は珍しくコインを缶からに入れて差し上げた)。しかし、やっぱり夜のキャンパスはいいな。

 その後、すぐ家に帰るのも忍びないので、よく行く二つの本屋を流す。フィクションの棚では、ベストセラーを驀進していたThomas Pinchyon, Mason & Dicson(←つづり自信なし)の勢力がさすがに弱まって、いまは例のSeven Years in Tibetの原作を書いた人の新作がいちばん目立っている。しかし、それと同等かそれ以上に目立っているのが、Haruki Murakami, Wind-Up Bird Chronicle。もちろん『ねじまき鳥クロニクル』の英訳である。『村上朝日堂』のホームページで、10月24日に出版されたことは知っていたので、ちょっとチェックしてみようと思ったのだが、探すまでもなかった。表紙も凝っているし、批評も好意的だし、かなり売れると思う。村上さんの作品は、『羊をめぐる冒険』の英訳なんかもうペンギン・ブックスに入ってるもんな。やっぱり、なんのかんの言う前に、とにかく外国語にも訳されるような作品を書くことだよ。ほんとうは、それが物書きの最低ラインだと思うんだけど、それだと合格してる人はほとんどいなくなってしまう。でも、少なくともぼくは、一歩外に出たら大きな声では言えないようなことや、単なるパクリであることがばれて恥ずかしい思いをするようなものを書きながら、残りの人生を過ごすのはやだよ。

 ところでぼくは村上春樹の小説はかなり好きで、『ノルウェイの森』までは全作品を真剣に読んだ。ただ、そこでなんとなく「もういいや」という気がしてしまって、『ダンス・ダンス・ダンス』から後は読んでいない(まあ、いずれ読もうとは思っているけど)。エッセイは読んでるけど、あんまり面白くない(まあ村上龍のエッセイに比べたら2億倍いいけどね)。なんにせよ、フェミニスト批評にはまったく耐えられない作品ばかりだし、別に高度な話でなくても、女の子がどうこうというところはだいたいくだらないことしか書けない人なんだけどね。くだらない女としかつきあったことがないんだろうか。しかし、私がこういうことを言うのは語弊があるかもしれないけれど、そういうことを全部含めても、いくつかの作品はいまでもものすごく好きだし、しょっちゅう読み返しています。なかでも偏愛しているのは、『回転木馬のデッドヒート』。短編はだいたい好きで、『中国行きのスローボート』なんかもよかった。
 というわけで、どうも作品名を並べて好きだと言っているだけで、何の中身もない日記になってしまいましたが(いつもないだと?)、実は明日(いや、もう今日だ)から日本に10日間ほど出張するので、その準備が忙しくて、 落ち着いて書けないからなのです。すみません。そういうことなので、次の更新は11月11日以降になります。m(_ _)m (午前0時59分)