2004 性現象論プリント
1・B 「同性愛(ホモセクシュアリティ)」をめぐって
 
 1・5 同性愛とは何か 
1・5・1 「同性愛」と「異性愛」――さしあたりの定義
同性愛:セクシュアルな欲望が(主として)同性に向かうあり方。そうした性的指向の持ち主が「同性愛者」
異性愛:セクシュアルな欲望が(主として)異性に向かうあり方。そうした性的指向の持ち主が「異性愛者」
 øエリック・マーカス『Q&A 同性愛を知るための基礎知識』明石書店
1・5・2 同性愛の原因論――生理学的基盤について
øサイモン・ルベイ『クィア・サイエンス――同性愛をめぐる科学的言説の変遷』(邦訳勁草書房、原著1996年、p.261)
なぜ、人はゲイやストレートや両性愛になるのだろうか?(中略)現時点で最も広く受けいれられている意見は、数多くの因子が関与しているというものである。(中略)複数の因子が関与しているという、最もはっきりとした証拠は遺伝学の研究から得られる。そうした研究結果から、少なくとも男性の同性愛には遺伝子が影響し、一役買っているのが非常に強力に証拠立てられているが、同時に遺伝子ですべてを説明できないというのもはっきりしている。(中略)遺伝的因子以外の因子が何かはよくわからない。生後の性的指向に影響する胎児期の発達において、本質的に予測不能な過程があるかもしれない。(中略)また別の要因としては、非遺伝性の要因、いわゆる環境因子が考えられる。本書で胎内のストレス、養育に関する親の態度、幼少期の条件付けのパターン、幼少期の性的体験などすでにさまざまな環境要因に関する理論を網羅した。ほとんどすべての専門家たちは、(中略)これらの因子の少なくともいくつかは、なんらかの役割をはたしていると確信しているが、これを信じるに足る十分な理由があるかどうかわからないのは、遺伝的な差異や胎児期の偶然の過程によってすべての多様性はやすやすと作られうるからである。しかし同様に、現時点で生後の環境要因がなにも関与していないとはいえない。」
1・5・3 再び、「同性愛」とは何か――生理学的原因論から社会学的〈現実〉の分析へ
 
 1・6 近代における〈同性愛〉の発明 
1・6・1 病理としての〈同性愛〉
ø小田亮『性』より:
「英語の〈ホモセクシュアリティhomosexuality〉という語ができたのも、セクシュアリティという語ができた後でそう古いことではなく、一八九二年にドイツの性科学者であるクラフト=エビングの『性的精神病質』(原著は一八八六年刊)の英訳がなされた際に作られた。ドイツ語圏でも初めてその語が活字になったのは一八六九年である。」(14頁) 
〜1869年、ハンガリーの医師カルロイ・マリア・ベンカートKaroly Maria Benkert[ペンネームはカール・マリア・カートベニーKaroly Maria Kertbeny]による造語。øJeffrey Weeks, Coming Out, p.3.他
 
◆こうした「同性愛の病理化」に対する反対意見もあったが、その後の主流にはならなかった。
ø『性理論三篇』(中山元訳、ちくま学芸文庫、pp.44)
「精神分析の研究では、同性愛を特別な種類の人間として区別する試みをはっきりと否定する。(……)精神分析にとっては、対象選択が対象の性別とは無関係であること、男性でも女性でも、同じように自由に選択の対象とすることができることは、根本的なことと考えられるのであり、これは幼年期においても、未開民族や先史時台においてもみいだされる事実である。このような自由な選択のうちから、主体の条件に基づいて、正常な対象選択が行われたり、性対象倒錯的な対象選択が行われるようになるのである。このように精神分析の観点からは、男性の性的な関心が女性だけに向けられることの方が解明を要する事柄であり、化学的な牽引力によって引きつけられるというような自明な事柄ではない。
 
1・6・2 本質としての〈同性愛〉
øH・オースターホイス「ナチス以前の同性愛と男性結社」より:
「(男性)同性愛に関する今日の歴史的研究においては、ソドミーと同性愛との区別を指摘することは、ほとんど常識となっている。19世紀のかなり遅くまで、「ソドミー」とは、特定の性的行為、特に肛門性交を意味したのであり、それは原理的には誰にでも可能な行為とみなされていた。1870年以来普及するようになった「同性愛」homosexualityや「男性同性愛」uranismというコトバは、マイノリティーの性向を指し示すために用いられた。同性愛的な行為は、もはや単なる罪や犯罪、あるいは規範からの一時的な逸脱ではなく、本質的状態と見なされるようになった。」 (『imago 特集ゲイ・リベレーション』1995年11月号、青土社、p.132)
 
1・6・3 「同性愛」と〈同性愛〉の区別

  「同性愛」:同性間のエロティックな肉体接触という「行動」そのもの。超歴史的・普遍的。
  〈同性愛〉:病理や本質といった観念と密接に結びついた、近代社会に特有のカテゴリー(〈現実〉の
  骨組みをかたちづくる基本的な言葉)。特殊歴史的。アイデンティティ」と結合。「異性愛」と対立。
 
※自分の生きている世界を、歴史的に相対化して見るというセンスが決定的に重要。「歴史」とは「昔のこと」という意味ではない!
 
 1・7 〈同性愛〉ではない「同性愛」の三つの事例 
1・7・4 古代ギリシア社会の「少年愛」
 øD・ハルプリン『同性愛の百年間』他、による【→OHP】
1・7・5 ニューギニア部族社会の「儀礼的同性愛」
 øG・ハート『果実の守り手たち』による【→OHP】
1・7・6 日本・江戸期の「男色」文化
 ø氏家幹人『武士道とエロス』講談社現代新書、他による【→OHP】