海の守り人 1.埋立事業者は「漁業権放棄」で喜んでいいのか? ・共同漁業権がなくなると、「共同漁業を妨害するな」と言える者がいなくなる ・共同漁業は、免許が無くとも営める ・漁業権放棄された海域では、誰もが自由に共同漁業を営める ・埋立事業は、それまでの海の権利者から埋立同意を得たうえで、行わなければならない。 埋立免許が出ても同じこと 例:東京湾 ・「漁業権放棄」がなされると、誰もが自由に共同漁業を営めることになり。埋立事業者は新たに共同漁業を始めた者からも埋立同意を取り、また補償しなければならなくなる。 ・埋立側にとっては、「漁業権放棄」はやってはならないこと 2.公有水面埋立法が求めているのは、「埋立同意」であって「漁業権放棄」ではない ・埋立法が求めているのは「埋立同意」 海の権利者から「埋立同意」をとらなければ、埋立免許を出すことはできない 海の権利者に補償しなければ、埋立工事に着工できない 3.「埋立同意」は漁協が与えるのか? 海の権利者の一つに漁業権者、では、共同漁業権の漁業権者とは誰か? 漁協は、免許は受けるが、自ら共同漁業を営まない。営むのは、漁民。 ・漁業権者は漁協か? 漁協が漁業権者なら、漁協の総会決議で「埋立同意」ができる。しかし、その場合には次のようなおかしなことがおこってしまう。 @合併漁協において、埋立される海域の関係地区の漁民の生活が脅かされるのに、他の関係地区の漁民まで総会決議に参加する。 例:風成 A沿岸漁業を営む漁民の生活が脅かされるのに、沖合漁業・遠洋漁業を営む(埋立で何の被害も受けない)漁民も総会決議に参加する。 例:唐津 B准組合員の生活が脅かされる場合でも、准組合員には議決権が無い。 C員外者(関係地区に住所を有し、共同漁業を営みながら、組合員でないもの)の生活が脅かされる場合でも、員外者は漁協総会にすら出席できない。 ・漁業権者は関係漁民(関係地区に住所を有し、沿岸漁業を営む漁民)集団とすると 上記@の「他の関係地区の漁民」は含まれない 上記Aの「沖合漁業・遠洋漁業を営む漁民」は含まれない 上記Bの「准組合員」も含まれる 上記Cの「員外者」も含まれる ・関係漁民集団は、補償契約→補償金一括受領→補償金配分→個々の漁民の受領という一連の手続を通じて埋立同意を与えてきた。 総会決議は関係なし、権利の無いもの(あるいはただの名義人)が勝手に声を上げただけ。 漁協が必ず総会決議をあげるようになったのは、松山空港判決以降。それまでは、補償契約のみが多い。「総会決議が必要」が「総会決議で十分」になった。 4.埋立同意、補償金の受領・配分には関係漁民全員の同意が必要 ・入会権、共同漁業権、水利権は同じ性質。基本的に慣習に従う。慣習に基づけば、入会地の消滅、売買などには、入会集団全員の同意が必要。 ただし、漁業権の場合には慣習に加えて漁業法がある。慣習は、法律で変更を加えられない限り、法律と同等の効力を持つ。 ・入会権の場合、土地の登記は入会集団の名前でできないので、それに近い法人の名前、町の名前、有力者個人の名前などで、あるいはその時の構成員全員の共有で登記した。 ・共同漁業権の場合には、漁業権の免許を入会集団(関係漁民集団)に出すことはできないので、それに近い法人である漁協に出すことにした(専用漁業権時代は漁業組合)。 ・したがって、入会地の土地の所有者、あるいは共同漁業権の免許を受ける漁協は、単なる名義人。 ・漁業法8条に、漁業権行使規則の制定・変更・廃止にあたっては、関係漁民の三分の二以上の書面同意をとるように、との規定。これは、慣習では関係漁民全員の同意が必要な入会行使のルールの制定・変更・廃止に多数決原理を持ち込んだ規定。 風成裁判では埋立にあたり「8条の書面同意が必要」という判決。これも、以降「書面同意が必要」が「書面同意で十分」に変わった。埋立を阻止できた判決が、その後、むしろ悪用された。 ・漁業法には、埋立同意についての規定は全く無い。つまり、全員の同意の慣習は、漁業法で何ら変更を加えられていない。 したがって、埋立同意については、慣習に基づき、関係漁民全員の同意が必要。 補償も、その受領、配分については、関係漁民全員の同意が必要。また、関係漁民全員が同意した配分基準にもとづいて各配分額を全員が受領しなければ、補償したことにはならない。 例:トクサ湾