意 見 書 防波堤に係留中の船舶に対する公有水面埋立権者の妨害排除請求権について 神戸地方裁判所姫路支部 御中 防波堤に係留中の船舶に対する公有水面埋立権者の妨害排除請求権について、以下のとおり意見書を提出します。       1999年4月24日         東京大学工学博士        熊本一規(明治学院大学教授)        次の問題に関する私の意見は下記の通りである。    船舶(プレジャーボート)が許可を要することなく防波堤に係留されている海面において、公有水面埋立法により埋立免許を受けた者は、その埋立工事をするため、この船舶を埋立施行区域から排除する私法上の請求権を有するか。   結 論  設問は否定される。   要 旨 もしも埋立権が一定水域における他の水面使用を排除できるとするならば、海面のままで特定人による排他的支配が許されることになり、「海面の公共用は埋立免許によっては廃止されない」とした大審院民事部昭和一五年二月七日判決にも、また「海は、公共用水面であって、特定人による排他的支配の許されないもの」とした田原湾最高裁判決にも反する。 相生港における債務者の海面使用は、特定人による継続的使用であるから、公共用物の「自由使用」にはあたらず、「慣習に基づく特別使用」にあたる。のみならず、相生港の慣習に基づけば、それは「慣習に基づく公共用物使用権」(慣習法上の権利)にあたる。 埋立権は、公共用物を滅失させるものであるから公物管理権には含まれず、特許に基づく「水域の占用権」ではない。それは、国が公共の福祉増進(土地造成)の目的で付与する特許により創設される権利である。同様に国の特許により創設される鉱業権の場合、物権とみなされ、妨害排除請求権を認められている。そして、鉱業の実施が土地所有権等の他の権利と衝突する場合、その調整は当事者間の協議(契約)によることを原則とするが、その協議が整わない場合、土地の使用及び収用その他の調整規定が設けられている。それに対して、埋立権は公権であって私権ではなく、鉱業権のように物権とはみなされておらず、妨害排除請求権を有していない。そして、埋立の実施が他の水面権と衝突する場合には、当事者間の協議に基づくのは当然であるが、協議が整わない場合の調整規定は、公有水面埋立法八条の「知事による補償金額の裁定」以外、何ら設けられていない。法三一条の「知事による物件の除却命令」も協議が整わない場合の調整規定ではない。それは、公有水面埋立法においては、鉱業法の場合ほど、調整規定を設けて簡易迅速に実施させようとはしていないことを意味する。にもかかわらず、「調整規定がないから妨害排除請求権を認めよ」とするのは暴論である。 理 由 引用語句・文献略語 山口・住田『埋立法』=山口真弘・住田正二『公有水面埋立法』(日本港湾協会、一九五 四年) 原『公物営造物法』=原龍之介『公物営造物法[新版]』(有斐閣、一九七二年) 浜本『漁業法』=浜本幸生『[最新]早わかり「漁業法」全解説』(水産社、一九九七年) 我妻・豊島『鉱業法』=我妻栄・豊島陞『鉱業法』(有斐閣、一九五八年) 阿部意見書=阿部泰隆神戸大学教授より相生市土地開発公社理事長宛て提出された 一九九九年一月二一日付け意見書 公水法=公有水面埋立法 当事者の略称 X=相生市土地開発公社、埋立権者 Yら=係留船(プレジャーボート)所有者 Z=兵庫県知事(港湾管理者の長、埋立免許権者) 一、前提事実と本件の論点   X(相生市土地開発公社)は、公有地拡大法(公有地の拡大の推進に関する法律)に基づき相生市が全額出資して設立した法人で、Z(兵庫県知事)から平成九年(一九九七年)九月三○日相生港内の埋立免許を得た埋立権者である(同公社はこの事業について相生市から委託を受けている)。Yらはその船舶(プレジャーボート)を、この港湾内の埋立予定水域の中にある防波堤に係留することによって、この水域を占用している。この船舶は港湾法三七条一項の水域占用の許可(許可権者はZ)を得ていない。 相生市はYらと交渉して、その船舶を相生港内の仮設係留所(平成一〇年一月二四日完成した仮桟橋その他)に移動するよう要請した。しかし、仮設係留所は潮の流れが激しく風当たりも強くて危険であるなどの理由で、四隻の所有者Yらは、これに応じていない。 XはZに、公有水面埋立法三一条に基づく「物件の除却命令」をYらに対して出すよう要請したが、Zはこれに応じない。また、埋立工事の着手については、港則法三一条により「港内工事作業許可」が必要であるが、現況では防波堤に係留された船舶の航行に支障をきたすという理由から許可を得られていない。 そこで、Xは、埋立免許に基づく埋立工事を行うため、Yらの船舶を民事訴訟により排除したいと考えている。 ここで、Xは、Yらの船舶をこの港湾の埋立施行区域から排除する私法上の請求権を有するかが論点になる。 二、埋立権は他の水面使用を排除できない 阿部意見書は、埋立免許に基づく埋立権が他の水面使用を排除できるとする。しかし、この見解は、「埋立免許によっては水面の公共用は廃止されない」とした、次のような大審院民事部昭和一五年二月七日判決に反する。(1) 「公共用水面埋立ノ免許ハ一ノ行政処分ニシテ之ヲ受ケタル者ニ其ノ埋立ヲ条件トシテ埋立地ノ所有権ヲ取得セシムルコトヲ終局ノ目的トスルモノナレトモ免許自体ニ因リ直ニ該水面ノ公共用ヲ廃止スル効力ヲ生スルモノニ非ス只其ノ埋立ニ必要ニシテ水面ノ公共用ト相容レサル施設乃至埋立自体ニ因リテ其ノ公共用廃止ノ効力ヲ生スルモノト解スルヲ妥当トス故ニ右埋立免許後其ノ水面ニ付第三者カ漁業ノ免許ヲ得タル場合ト雖其ノ免許ハ無効ノモノニ非スシテ如上ノ施設乃至埋立ノ実行ニ因リテ漁業権ハ漸次減縮シ或ハ全ク消滅スルニ至ルモノト解スルヲ相当トス」。 また、阿部意見書は、埋立権が「埋立海域を支配して、そこにおける妨害物を排除できる」とするが、もしもそうであれば、海面が海面のままで特定人による排他的支配が許されることになり、「海は、公共用水面であって、特定人による排他的支配の許されないもの」とした、次のような田原湾最高裁判決(昭和六一年一二月一六日)に反する。 「海は、古来より自然状態のままで一般公衆の共同使用に供されてきたところのいわゆる公共用物であって、国の直接の公法的支配管理に服し、特定人による排他的支配の許されないものであるから、そのままの状態においては、所有権の客体たる土地に当たらないというべきである」。 以上の二つの判例に基づくだけでも、埋立権が「他の水面使用を排除できる」「埋立海域を支配できる」とする阿部意見書の見解が誤りであることは明らかである。 しかし、念のために、以下、排除を求められているYらの権利と排除を請求するXの埋立権の両方の法的性質を分析検討すること、及び公水法と共通の性質を持つ鉱業法の規定を参照することをつうじて、阿部意見書の誤りを詳細に指摘することとする。 三、Yらの権利の検討 1.Yらの水面使用は自由使用ではなくて特別使用 阿部意見書は、Yらを「港湾を自由使用しているにすぎない」とする。しかし、自由使用とは、道路の通行、公園の散歩、海水浴のような「一般公衆の自由な使用」をいい、Yらの水面使用は、「一般公衆の自由な使用」ではなく、船舶(プレジャーボート)所有者という「特定人の使用」にあたるから、自由使用ではない。また、公共用物本来の機能を妨げない程度の「一時的な使用」ではなく、公共用物本来の用法をこえた特定人による「特別の継続的使用」にあたるから、許可使用ではなく特別使用にあたる。(2) 2.Yらの権利は慣習法上の権利である 特許又は慣習によって特別使用を認められた者は、それぞれ、特許の内容及び特許に付された条件又は慣習にしたがい、「公共用物使用権」を取得する。公共用物使用権の性質については、公権説、私権説及び折衷説があり、公法学者は公権説を、私法学者及び大審院の判例は私権説をとっている。しかし、公共用物使用権が財産権的性質を有すること(私権説によれば、財産権であること)、また、第三者が公共用物使用権を侵害した場合には、民事上の妨害排除や損害賠償の請求をすることができる物権的権利であること(私権説によれば物権であること)については、いずれの説も等しくこれを認めている。(3) Yらは特許(占用の許可)を受けていないから、Yらの使用は「特許に基づく公共用物使用権」にはあたらない。しかし、少なくとも「慣習に基づく公共用物の使用」にはあたり、さらに「慣習に基づく公共用物使用権」(私法上からみれば「慣習法上の権利」)にあたる可能性もある。それにあたるか否かは、Yらの船舶係留が「慣習に基づく公共用物使用権」の成立要件、すなわち「その利用が多年の慣習により、特定人、特定の住民又は団体など、ある限られた範囲の人々の間に、特別な利益として成立し、かつ、その利用が長期にわたって継続して、平穏かつ公然と行なわれ、一般に正当な使用として社会的に承認されるに至ったもの」(4)を満たすか否かによって判断される。 Yらの船舶係留の発生及び経緯の概要は、次のとおりである。 Yらの船舶係留は、ほぼ三○年にわたっている。係留を始めるにあたり、当該場所に係留していた他の船舶を買い取った。船舶を取得するのが目的ではなく、実際には既に使用に耐えなかったその船舶を処分し、新たに自分の船を係留した。当時、このような方法での係留権売買を斡旋する者がいた。港に係留していたほかの人々も、同様の方法で権利を取得し、周囲から承認されていた場合が多い。港の起源は定かではないが、港内には、天保一四年作の灯籠があるので、遅くともこの頃からは、同様の方法によって係留の慣習が続いてきた、と思われる。 相生地域では、Yらの係留がこのような経緯をもつことは知られており、正当な使用として社会的に承認されている。 以上の経緯に照らせば、Yらの船舶係留は「慣習に基づく公共用物使用権」の成立要件を満たしている、といえる。三○年前に係留権を斡旋者から購入したという発生事由も、船舶係留が、同様の発生を繰り返して、当時すでに権利にまで成熟していたことを物語るものである。 四、公有水面埋立権の検討 1.海面は国の所有に属さない 阿部意見書は、海面が「国の所有」であり、それゆえに、「その水面を支配し管理することは国家の権能に属し、国はこの権能に基づき、特定の者に埋立をすることを認めるのである」とする。 しかし、海面は、国の私的所有には属さない。そのことは、田原湾最高裁判決からも明らかである。(5)したがって、国が埋立権を設定できる根拠は、「海面が国の所有だから」ではない。 2.埋立権は「水域の占用権」ではない 阿部意見書は、埋立権は、特許に基づく「水域の占用権」、すなわち、特許に基づく「公共用物使用権」とする。その根拠は、港湾法三七条一項但書きで、埋立免許取得者が埋立施行区域において「水域の占用」等の行為をする場合に港湾管理者の長の許可を要しない旨規定されていることにある。そして、「水域の占用権」であるから、妨害排除請求権を有し、水域を排他的に占有できるとしている。 しかし、そもそも、海面という公共用物を滅失させる埋立権が国の公物管理権にもとづいて設定されることはあり得ない。公物管理権は、公共の用に供するという目的を達成せしめるために、公共用物の形体を整え、これを良好な状態に維持管理する等の作用(既存の公共用物の効用・機能を増大させるための改築・改良の工事や公共用物の機能を保全するための維持・修繕など)や公共の用に供するという目的に対する障害を防止又は除去する作用から成っているからである。(6) 公物管理権の性質からすれば、国は、逆に、埋立という海面の公共用目的に対する障害を防止・除去しなければならないのである。 また、阿部意見書の「『水域の占用権』であるから、水域を排他的に占有できる」という見解は、「水域の占用」の概念を全く誤解したものである。「公共用物の特別使用」は、公共用物の公共用に反しないような、限定された使用でなければならない。そのことは、「公共用物は、一般公衆の共同使用に供せられ、公共の福祉に奉仕すべき使命を有し、特定人がこれにつき完全に排他的独占的な使用権を有することは、公共用物としての性質に反する。したがって、公共用物使用権の及ぶ範囲は、その使用目的達成のため必要な限度にとどまる」との長野地裁昭和三二年五月二八日判決にも、また、流水使用権についての、「流水使用権の範囲は、使用目的をみたすに必要な限度に止まることを要し、他人の権利を害しない程度においてこれを使用し得る」あるいは「何人も排他的・独占的な使用権を有するものでなく、他の所有者と互譲して使用する権利を有するに止まる」旨の多くの判例にも示されている。(7) 港湾法三七条一項にいう「水域の占用」もまた、「公共用物の特別使用」にあたるから、公共用物を公共用物のまま継続的に、他の使用者と互譲しながら使用することを前提としており、排他的独占的に占有して公共用に反するような使用は許されない。したがって、埋立は「水域の占用」にあたらない。 港湾法三七条一項但書きは、埋立権者が、例えば、埋立に関連して船舶を港に係留するなど、公共用に反しないような限定された「水域の占用」を行なう場合に許可を要しない、という意味であって、埋立権自体が水域を排他的独占的に占有できることを意味するわけでは決してない。 3.埋立権は「公共の福祉の増進」を目的として国の公権力により設定される 国が埋立権を設定できる根拠は、土地造成という「公共の福祉の増進」にある。国は、「公共の福祉の増進」の見地から、国の公権力によって埋立権を設定するのである。津地裁昭和四四年九月一八日判決は、それを次のように述べる。 「法が当該公有水面の管理者の長をしてかかる権利の創設、授与を許容したのは、公有水面の埋立は、元来国土の狭少な我国において土地を造成するのであるから、これが公共の福祉に寄与するものであること勿論であるけれども、反面当該水面に権利を有する者(法第五条)や施設を有する者(法一○条)に対して少なからず被害を与え、更には対象が自然の公物であるだけに地元住民などその他の利害関係人に及ぼす影響も少なくないために、激しい利害の対立を招き、もし工事施行者においてそのすベての利害関係者の同意承認を得なけれぱ工事に着手できないとするならば、事実上この種工事は実施不可能となるところから、法は公共の福祉増進の見地から国の公権力をもって一定の要件と手続きのもとに多数の権利者の意思如何に拘らず埋立に関する法律関係を一律に形成させ、その形成された法律関係を実現する埋立工事自体に対してはなんぴとも直接これを阻止し得ないものとし、もって当該水面の埋立工事の遂行を容易ならしめようとしたものと解される」。 「公共の福祉の増進」を目的として国の公権力によって創設されるという点で、埋立権は鉱業権と全く同様である。鉱業法は、その目的を「この法律は、鉱物資源を合理的に開発することによって公共の福祉の増進に寄与するため、鉱業に関する基本的制度を定めることを目的とする」(一条)とうたうとともに、「国は、まだ掘採されない鉱物について、これを掘採し及び取得する権利を賦与する権能を有する」(二条)と規定し、鉱業権が「鉱物資源の合理的開発」という「公共の福祉の増進」を目的として国によって創設されることを明らかにしている。(8) ただし、鉱業権は、鉱区における登録鉱物に対する独占的排他的支配を内容とする権利であることから、物権とみなされ、第三者が鉱区において鉱業を妨害するときは、鉱業権者は、その第三者に対して、鉱業権の物権的効力として妨害排除請求権及び妨害予防請求権を有する。(9)それに対し、埋立権は、知事の許可を受けたうえでの譲渡や相続など一定の私権的性質を有するものの、公権であり、妨害排除請求権を有しない。 五、他の権利者との調整は協議が原則 1.鉱業法における鉱業権と各種権益との調整 鉱業権は通常他人の土地に重複して設定されるものであり、その上、鉱物資源賦存の関 係上その稼行の場所が地域的に限定されるため、鉱業の実施は、農業、林業その他の産業と衝突し、あるいは建物その他公共の施設に影響を及ぼし、また、場合によっては他の鉱業に妨害を与え、その結果公共の福祉に反する虞がある。したがって、鉱業の実施に際しては、土地に関する権利、他の鉱業権、その他農業、林業、文化財、公園等に関する各種権益との調整を図らなければならない。(10) 各種権益との調整は、当事者間の協議によることを原則とする。そして、当事者間協議が整わないときの調整の仕組みは、裁決である。 鉱業法及び関連法は、多くの裁決の制度を設けている。土地の使用及び収用(鉱業法第五章)、鉱業権相互間で協議が整わない場合の「通産局長の決定」(鉱業法六六条四項、鉱業法施行規則一二条二項、附則一○条一項)、鉱業権と採石業又は砂利採取業との協議が整わない場合の「通産局長の決定」(採石法三四条、砂利採取法一○条)などである。(11) 協議又は裁決をつうじても調整できない場合には、調整は裁判によるほかはない。判例は、鉱業の実施を妨げる鉱区内における一切の施設について、鉱業権に基づく妨害排除請求権があるかの感を与える判示をしているが、我妻・豊島『鉱業法』は、鉱業権の効力を絶対的なものと見ることは許されず、「当該土地使用者の有する権限及び使用の目的等とその土地使用によって鉱業の実施が蒙る妨害及び鉱業実施の社会的価値等を比較考量して両者の限界を定むべき」としている。(12) 2.公水法における埋立権と各種水面使用との調整 海面は公共用水面であるから、通常、さまざまな人によりさまざまに使用されている。そのなかには権利として認められているもの、あるいは権利にまで成熟しているものも少なくない。埋立は、水面を陸地に変えるから、それら水面に存在する権利(以下、水面権という)を侵害することになる。したがって、埋立権と水面権との調整が必要になる。 (1)埋立権と漁業権との調整 代表的な水面権のひとつは、漁業権である。漁業権は、いうまでもなく財産権であり、また漁業法により物権とみなされている(漁業法二三条)。公水法は五条で漁業権者を水面権者として規定している。 阿部意見書は、「漁業権者がいる場合には、通常は先にこれに補償して、漁業権を消滅させてから埋立免許を申請することになっている」と、埋立免許後には漁業権が存在しないかのような説明を述べている。 しかし、この見解は、埋立と漁業権との関係を全く理解していないものである。公水法が漁業権者に求めているのは漁業権の存続を前提としての埋立同意(四条)や着工同意(八条)であって、漁業権放棄ではない。現実には、埋立免許がなされる前に「漁業権の放棄」がなされる事例もあるが、これは、法的には何ら必要のない行為であるばかりか、「漁業権者に補償するか、知事の裁定した補償金額を供託するか又は漁業権者の着工同意を得ないかぎり、埋立工事に着手することはできない」(八条)との漁業権者に対する保護規定を空文化する点で、公水法の脱法行為とさえいえるのである。(13)このような漁業権放棄を前提として公水法を解釈することは、誤りというほかはない。 また、漁業補償は漁業権の売買ではなくて「事前の損害賠償」であり、漁業補償によって漁業権が消滅することはない。「漁業権は埋立により水面が陸地になるに伴って滅失する」ことは、前掲の大審院民事部昭和一五年二月七日判決や水産庁通達などがいずれも認めるところであり、漁業補償は埋立着工前には必ずなされるから、この点からも「これに補償して、漁業権を消滅させ」るという理解が誤りであることは明らかである。 漁業補償は、当事者間の補償契約にもとづいて支払われる。補償契約は、埋立事業者が補償を支払い、その代わりに漁業権者が埋立を認める旨の双務契約として結ばれる。この補償契約をつうじて、漁業権が海面に存在したまま、埋立が行なわれ得るのである。(14) 以上のように、埋立権と漁業権との調整は、当事者間の協議(埋立同意、補償契約、着工同意)を原則とする。そして、協議が整わないときの調整法として、公水法は「知事による補償金額の裁定」(八条)という裁決の制度を設けている。(15) (2)埋立権と許可漁業・自由漁業との調整 漁業には、漁業権に基づく漁業(共同漁業、定置漁業、区画漁業)のほか、漁業権に基づかない、いわゆる「許可漁業」及び「自由漁業」がある。(16)許可漁業・自由漁業の権利もまた、埋立免許によっては消滅しない。埋立免許によっても公有水面が公共用水面であることには何ら変わりなく、従前と同じように許可漁業・自由漁業を営めるからである。許可漁業・自由漁業の権利もまた、埋立によって水面が陸地になるに伴い、徐々に滅失していく。しかし、許可漁業・自由漁業の権利は公水法五条には掲げられておらず、公水法は、埋立権と許可漁業・自由漁業の権利との調整について何ら規定していない。 阿部意見書は、五条に掲げられた権利者以外は、「埋立免許の際には無視してよい」、「利害関係者として意見を述べるほかは、争う方法もない」、「その意思如何にかかわらず、免許を受けた埋立工事を受忍しなければならない」とし、埋立権との間で何らの調整も必要ないかのように述べている。(17) しかし、この見解もまた誤りである。公水法が無視しているからといって、実際にもそれらの権利を無視することは、現行憲法下においては、憲法二九条及び三一条違反になる。すなわち、財産権である許可漁業・自由漁業の権利を侵害するには、補償(任意交渉に伴う損害賠償又は強制収用に伴う損失補償)が必要であり(憲法二九条)、また権利者に告知聴聞の機会を与えなければならない(憲法三一条)。(18) 昭和四八年の公水法改正においても、環境保全に関する規定を設けることに力点が置かれ、水面権者の保護に関する改正は、「利害関係者の意見書提出」のみしか行われなかった。ただし、水面権者の保護について国会では論じられ、政府は、「具体的な実害がある場合には当然民法の不法行為責任によりまして損害賠償をしなければならない」、「運用上そうした方々を無視してはならないと思っております」と答弁している。(19) 公水法を所管する建設省・運輸省は、実際には、許可漁業・自由漁業など公水法五条に掲げられていない権利に対しても、協議を行ない、協議(契約)に基づいて損害賠償を行なうよう指導している。そのため、公水法が違憲であることが問題とされていないのである。水産庁で長年、漁業法の解釈を担当してきた浜本幸生も「公有水面埋立法は、現行憲法のもとでは違憲の疑いもあるくらいです。そのため、運輸省などの埋め立ての事業主体は、漁業権者である漁協の同意を取るだけでなく、実際には、許可漁業や自由漁業をやっている漁業者の同意も漁協を通じて手に入れてから、埋め立て事業に入ってます。その手順をふんでいるため違憲かどうかが問題になっていないのです」と述べている。(20) 以上のように、許可漁業・自由漁業の権利と埋立権との調整は必要であり、実際には、公水法の運用上、当事者間の協議(契約)をつうじて行なわれている。しかし、協議が整わないときの裁決の制度は、公水法が許可漁業・自由漁業の権利自体を無視しているため、何も規定されていない。 (3)「知事による物件の除却命令」は調整規定ではない 阿部意見書は、「知事による物件の除却命令」(公水法三一条)に関し、「ZはXに対して埋立免許を付与しているのであるから、Xがその埋立権を実際にも行使できるように、可能な範囲で配慮する義務を負うはずである」、「ZはYらの船舶を除却して、Xが埋立工事をすることができるようにする法的な義務を負うはずである」とする。前述のように、埋立権や鉱業権と他の権利との調整は、当事者間の協議によるのを原則とし、協議が整わない場合には裁決によることになるが、阿部意見書の見解は、「知事による物件の除却命令」が裁決に当たるとの理解のもとに、「話合いを徹底しても、最後の数雙だけがこれに応じない場合には、もはや裁量はなくな」り、除却命令を出すべき、としている。 しかし、この見解もまた、公水法三一条の解釈を誤ったものである。三一条は、当事者間協議が整わない場合の裁決の規定ではなく、協議又は裁決による調整を終えてもなお物件が除却されない場合についての規定である。そのことは、三一条が、除却命令を出し得る場合を「第八条第一項ノ規定ニ依リ埋立ニ関スル工事ニ着手スルコトヲ得ル場合」、すなわち調整を終えて着工し得る場合に限っていることからも明らかである。(21) また、除却命令は全面的に埋立権に軍配を上げることを意味するが、もしも協議が整わない場合に知事がそのような除却命令を出し得るものならば、除却命令を背景として埋立権者が協議において強権的な姿勢をとることは必然であり、当事者間の協議の円満な成立など期待できなくなる。調整が協議を原則とするからには、法が除却命令を裁決の規定として設けるはずがないのである。 したがって、「協議が整わないから、除却命令を出すべき」とするのは、公水法三一条の条文及び協議・裁決の趣旨を全く理解しない見解である。 以上のように、鉱業法は、協議が整わない場合の裁決の規定を種々設けているのに対し、公水法が設けている裁決の規定は「知事による補償金額の裁定」だけである。これは、公水法においては、鉱業法の場合ほど、種々の裁決規定を設けて簡易迅速に実施させようとはしていないこと、いいかえれば、当事者間の協議に基づくべきとしていることを意味する。 結 論 本件は、埋立権と水面権との調整のケースに該当する。 Yらの権利は、慣習法上の権利であり、公水法五条に掲げられてはいないが、財産権であり、かつ物権である(公権説によれば、財産権的性質を有し、かつ物権的性質を有している)。したがって、埋立権者は、許可漁業・自由漁業の場合と同様、Yらの権利と調整をはかることが必要である。 調整は、協議によることを原則とするが、Yらの権利との協議が整わない場合の裁決の制度は、公水法には規定されておらず、したがって、協議が整わない場合の調整は裁判によるほかない。裁判では、「当該水面使用者の有する権限及び使用の目的等とその水面使用によって埋立の実施が蒙る妨害及び埋立実施の社会的価値等を比較考量して両者の限界を定める」(22)ことになる。その場合、埋立権の設定根拠である「土地造成という公共の福祉の増進」が、公水法制定後八十年余を経た今日では、その意義を失い、むしろ逆に、自然海岸や自然環境・生活環境の保全こそが「公共の福祉の増進」を意味するようになった時代状況の変化もまた、考慮に入れられるべきである。 しかるに、埋立権が妨害排除請求権を持つとしてYらの権利を排除しようとするのは、埋立権やYらの権利及び公水法を誤って解釈しているばかりか、およそ「他の権利者との調整」の規定や「調整は協議を原則とする」ことの趣旨を理解しない暴論というほかない。協議が難航するからといって、Zに除却命令を要請したり、妨害排除を主張したりするXの強権的な姿勢こそが、協議の成立を妨げている最大の要因にほかならない。 注 (1) 山口・住田『埋立法』も、また、阿部意見書に引用されている三善政二『公有水面埋立法』、 函館地裁昭和五四年三月二三日判決のいずれもこれを認めている。これに対する異論は皆無 といってよい。阿部意見書が、それらを引用して「公用廃止は竣功認可による」としていな がら、同時に「埋立権は水面支配権」としているのは、理解に苦しむところである。 (2) 原『公物営造物法』253、263、270頁は、公共用物の使用を次のように整理している。 1.自由使用 道路・河川・海岸等の公共用物は、本来、一般公衆の使用に供することを目的とする公共 施設であるから、何人も他人の共同使用を妨げない限度で、その用法にしたがい、許可その 他何らの行為を要せず、自由にこれを使用することができる。これを公共用物の自由使用又 は一般使用という。たとえば、道路の通行、公園の散歩、海水浴のための海浜の使用、河川 における水泳・洗濯のごときはそれである。 2.許可使用 公共用物の使用が自由使用の範囲をこえ、他人の共同使用を妨げ、もしくは、社会公共の 秩序に障害を及ぼすおそれがある場合に、これを未然に防止し、又はその使用関係を調整す るために、一般にはその自由な使用を制限し、特定の場合に、一定の出願に基づき、右の制 限を解除し、適法にその使用を許容することがある。これを公共用物の許可使用という。 公共用物使用の許可は、公共用物本来の機能を妨げない程度の一時的な使用を適法に行な わしめようとするものである。 3.特別使用 公共用物は、本来、一般公共の用に供するための施設であるから、原則として、一般公衆 の自由な使用を認めるのが、公共用物本来の用法に従った普通の使用形態であるが、時とし て、公共用物本来の用法をこえ、特定人に特別の使用の権利を設定することがある。これを 公共用物の特別使用又は特許使用と呼んでいる。許可使用が単に一般的な禁止を解除し、一 般的に公共用物本来の機能を害しない一時的な使用を許容するものにすぎないのに対し、特 別使用は、公物管理権により、公共用物に一定の施設を設けて継続的にこれを使用する権利 を設定するものである点に、その特色を有する。 道路法・河川法などの各公物法は、この意味での特別使用を、たとえば道路の占用、流水 の占用等、公共用物の占用と呼んでいる。公共用物の占用関係は、特許(占用の許可)という 行政行為によって成立するのが普通であるが、特許の形式によらず、慣習法上の権利として 成立する場合も少なくない。 (3) 原『公物営造物法』290−295頁。 (4) 原『公物営造物法』282、283頁。 (5) 明治八年、政府は「海面はすべて官有である、今後漁業をしようとする者は、新たに政府 に対して海面の借用を出願しなければならない」旨の太政官布告(いわゆる「海面官有宣言」) を発したものの、翌九年に太政官達を出し、事実上、海面官有宣言を取り消した。海面官有 宣言を取り消すに至った理由は、漁業紛争の激化のほか、政府内部で、海面は官有であるか 否かについての論争があり、それに決着がついたからである。海面官有宣言は、当時の内務 省主導で出されたもので、内務省の考えは「海面は官有、すなわち、国の所有に属する。し たがって、漁業のために海面を使用するには、出願して海面を借用しなければならない」と いうものであった。それに対して、大蔵省は、「海面は公共用水面であり、国の所有には属さ ない。そして、漁業権は、従来、藩主の免許という行政処分で設定されていたけれども、そ の性質は私権である」と主張した。この論争に対し、太政官は、大蔵省側に軍配をあげた。「海 面は公共用水面」であることは、このとき確立されたのである。 しかし、内務省は、海面官有説をすべて引っ込めたわけではない。明治二三年「官有地取 扱規則」では、「官に属する公有水面」の使用は許可制とし、水面使用料を徴収することと している。また、現在でも、内務省の流れをひく建設省は「領海内は建設省所管の国有財産 である」との見解を持っており、全国の都道府県を指導して、港湾区域や漁港区域になって いない一般海面について、海面の埋立、占用、工作物設置等について許可制にし、海面使用 料を徴収する「海面管理条例」ないし「海面管理規則」を作らせている。公水法一条の「国 ノ所有ニ属スルモノ」もまた、内務省が海面官有説にもとづいて盛り込んだ規定であろう。 海面官有宣言の経緯については、浜本『漁業法』が、また内務省と大蔵省との論争につい ては、大城朝申『漁業及び漁業権制度』(昭和八年)が詳しい。 (6) 原『公物営造物法』220頁。 障害の防止・除去の措置として、例えば河川法は、河川の構造に損害を及ぼし又は河川管 理上支障を及ぼす恐れがある場合にそれを防止するため、河川区域内における土石等の採取・ 工作物の新築・改築・除却及び土地の掘さく等の許可、河川における竹木の流送又は舟・い かだの通航その他の行為の禁止・制限又は許可、許可工作物の使用制限、許可工作物の除却・ 原状回復命令、河川保全区域の指定とその区域内における公用制限等を定めている。 (7) 原『公物営造物法』300−304頁 (8) 旧鉱業法は「未タ掘採セサル鉱物ハ国ノ所有トス」(三条)と規定していた。ここにいう「国 の所有」とは、自由に使用収益処分をすることを内容とする民法上の所有権の意味ではなく、 鉱物に対する支配権能を土地所有権から除外して国家に帰属させ、国家が独占的に与える鉱 業権によってのみ採掘し得る制度すなわち特許制度をとる前提とする趣旨である。ところが、 この意味を、民法上の所有と同視する解釈を生じ、判例もまたこの見解をとり、無用の波紋 を生じたため、現行鉱業法二条では、鉱業権が国の特許行為によって創設されるものである ことを明らかにした。詳しくは、我妻・豊島『鉱業法』64-66頁。 公水法一条の「国ノ所有ニ属スルモノ」も、旧鉱業法の「国ノ所有」と同様の規定と考え られるが、公水法一条の表現は、変更を加えられないまま今日に至っている。 (9) 我妻・豊島『鉱業法』17-18頁。 (10)我妻・豊島『鉱業法』244頁。 (11)我妻・豊島『鉱業法』244−247頁。 (12)我妻・豊島『鉱業法』248頁 (13)脱法行為であるばかりか、漁業権放棄がなされれば、その水面は誰もが自由に漁業を行な える水面となり、埋立事業者にとって、かえって厄介な事態を招くことにさえなる。 (14)埋立と漁業権に関する以上の諸点については、いずれも浜本『漁業法』が詳しい。特に、 同書66−67、154−157頁参照。 ちなみに、阿部意見書が「通常は、漁業権者に先に補償して、漁業権を消滅させてから埋 立免許を申請することになっている」と述べたのは、埋立免許後も漁業権が存続することを 認めてしまうと、物権とみなされている漁業権のほうが埋立権よりも強力なために、阿部意 見書の論理構成に従えば、「埋立に対して漁業権に基づく妨害排除が成立する」との結論が導 かれてしまうからであろう。 (15)公水法五条に掲げられている他の水面権の場合も、埋立権との調整は、漁業権の場合と全 く同様である。 (16)海を漁業のために利用することは、「公共用水面である海」の使用として、国民の誰もが基 本的には自由になし得る。しかし、漁業のなかには、漁業調整のために一般的には禁止され るとともに、知事等の許可をつうじて特定の者に禁止を解除してその漁業を営む自由を回復 させるような漁業(底引網、まき網等)がある。それらの漁業を一般に「許可漁業」という。 他方、農林水産大臣又は都道府県知事の許可を必要とせず、誰もが自由にその漁業を営める ような漁業(一本釣り、はえ縄等)を一般に「自由漁業」という。許可漁業や自由漁業もまた 権利である。「権利」とは、「生活上の利益」や「生活に密着した利益」を指すからである。 (17)阿部意見書のこの見解は、阿部泰隆「公有水面埋立免許と救済手続」(ジュリスト1971年11 月1日号)の次の部分と矛盾する。 「(3)利害関係人保護手続 (ア) まず、埋立法でいう権利者の範囲は法五条に列挙されている ように狭く、埋立ないし埋立地利用により生活環境を害される地元住民や自由漁場を汚染さ れる漁民については直接保護規定を置いておらず、ただ、地元市町村議会ヘの諮問のみを定 めている(三条)。議会制民主主義のもとではこれで地元住民の意見を反映し利益を守ること ができるはずであるが、現実には市町村の規模は広大であり、埋立により不利益を受けるの は当該市町村内の一部地域住民にすぎないため、埋立と直接関係のない多数の住民の意思で ことが決められてしまう。そこで、埋立により不利益を受ける少数派住民は必然的に住民運 動など議会制度外で抵抗せざるを得ない。しかし、全体と少数者の利害が対立する場合、全 体の意思のみで少数者の権利を一方的に剥奪するのは不合理であり、少数者集団の意思を尊 重すべきは条理の要求するところである(憲法九五条の定める地方自治特別法はその実定法的 表現である)から、右の少数派地域住民を保護すべき制度が必要である。ただ、住民の範囲 の画定は難しいし、その蒙る不利益が民事上の救済にのり得るほどの権利性の強度なもので ない限り、地域住民の同意を絶対の要件とする訳にはいくまい。しかし、少なくとも、公聴 会、意見書提出、資料の公開閲覧などは形式的のみならず実質的にも採用すべきである」。 (18)公水法五条に掲げられていない他の水面使用の場合も、それが権利にまで成熟し、財産権 的性質を有している場合には、埋立権との調整は、許可漁業・自由漁業の場合と全く同様で ある。 また、告知聴聞の機会を与えていない点は、公水法四条三項も同様である。同項は、漁業 権者の埋立同意がなくとも、「その埋立によって生ずる利益の程度が損害の程度を著しく超過 するとき(四条三項二号)」または「その埋立が法令により土地を収用または使用することを 得る事業のため必要なとき(四条三項三号)」は、知事等は免許を出せる、としているからで ある。これに憲法違反の疑いが強いことは、松山地裁昭和四三年七月二三日判決において、 次のように指摘されている。 「憲法三一条は行政手続についても適用されると解され、公有水面埋立法四条三号(現四条 三項三号)に基づく埋立免許は、その埋立施行区域に漁業権を有するものがいる場合には、 その者に告知、聴聞の機会を与えることが要請されるところ、その機会が与えられていない から本件埋立免許は憲法三一条に違反する疑いがある」(括弧内は引用者)。 (19)議事録原文は、次のようである。 「埋め立て人が……、申請を行なうにあたって完全な同意を得なければならない対象として 掲げているのは一号から四号まででございますが、そのほか埋め立ての利害関係、影響を受 ける方がその周辺に当然おられるわけでございます。そうした方々につきましては、具体的 な実害がある場合には当然民法の不法行為責任によりまして損害賠償をしなければならない ことになります。したがいまして事前に、そうした方々とは損害賠償を行なうなりあるいは 損害賠償の予約を行なうなりというような行為が当然必要になると思いますけれども、法律 上の義務づけとして同意を得て持ってこいというにしては、範囲の特定に技術的に困難さが あるわけでございます、そこでこういった条文の表現になっておりますが、運用上そうした 方々を無視してはならないと思っております」(第七一回国会衆議院建設委員会議録第二一号、 18頁)。 「漁業権の問題は、……埋め立ての免許が与えられる際にまず解決しておかなければならな い問題でございますが、そのほかに公有水面の埋め立てに伴って実際上の権利を侵害される 人がいろいろ出てくる場合がもちろん考えられるわけでございます。しかし、まず埋め立て 免許の前提として同意をとらなければならないという人の範囲は法律上まぎれのないもので なければなりませんので、埋め立て地先に関して直接権利を――まあ漁業権のほかに水面権 とかいろいろあるわけですが、そういう権利を持っている人は、まず埋め立て免許を与える 前に完全に同意をとるなり解決しておかなければならないものとして法律で規定しているわ けですが、実際に埋め立てが行なわれた場合に、さらに権利侵害等があるかもしれませんし、 また、そうした場合には、民法の一般原則によりまして不法行為の規定が発動されまして損 害賠償をしなければならない、それは範囲がもしも法律的に事実的に明確に決められるなら、 法律の条文として書かなければならないのでございますが、いまのところその範囲というも のが書かれていませんので、運用上、民法の条件等を背景といたしまして、ときには個別の 折衝等によりまして解決しながら埋め立てをやっていくというようなことでございます」(第 七一回国会参議院建設委員会会議録第二二号、10頁)。 (20)浜本『漁業法』179頁。 (21)山口・住田『埋立法』210頁も、除却命令を出し得る場合を「裁定により補償金を供託した 後にも工作物その他の物件の所有者が除却しない場合」及び「協議がととのっていても、工 事の着手までに除却しない場合」に限っている。 (22)我妻・豊島『鉱業法』248頁の前掲引用文を参照。当該文中の「土地」を「水面」に、「鉱 業」を「埋立」に置き換えただけである。 12