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学科主任近況報告

座談会

座談会 ~消費情報環境法学科の将来像~


 

【福田】 最後に本学科の教育に対する考え方についてお聞きします。学科がこのような教育をするので、出口としてはこういう人間を世の中に送り出していきたいかという問題です。基盤としては法学部にある学科であり、それでいて、古典的な法律学だけを教えるところではない。そのときにどういうプラスアルファがあると、学生が行ってみようかという動機付けになりますか。

【河村】 わたしは、もともと面白い学科だし、わたしも実業のほうから入ってきているので、やっぱり実業のほうから少しアプローチしたほうが分かりやすいというか、興味を持って勉強できると思っているものですから。そういう意味ではこの学科自体はそれにまさに適していると思います。それと先ほど菅野先生言われたように、やはり文科系の大学へ来て、なかなか理系のことが勉強できないということがありますが、わたし自身も会社へ入って、ある大きな化学プラントのプロジェクトの関係で、ナフサからガソリンを精製する、あるいはポリエチレンなどを製造する過程で、亀の子、化学記号のつながりを勉強せざるを得なかったわけですが、そういうことに対して、きっかけが少しでも学生時代に出来るということは役に立ちます。もともと理系に行って専門的にやらないとできないことが、少しきっかけだけは学ぶことができるということで、非常にメリットがある学科だと思います。
それと法学部の中の学科でありながら、法学部の一部だというふうに認識されてない部分もありますので、逆にそれを利用して、こういう理系の学部のない大学として、それを取り込んだ新しいものがあるというのは1つの売りの部分だろうと思います。それをうまく宣伝していけば、この学科を目指して来られる人も増えると思いますし、逆に、先の話ですけれど、ロースクールができて、そのロ-スクールに入ってくる人たちも、伝統的な法律だけを勉強したという人ばかりではなくて、やはり現代的な法律問題、あるいは理系に少し興味を持った人たちが増えるということは、本来ロースクールが一番目指していた部分ですので、どちらかというと、消費情報環境法学科はロースクール用の学生の入り口でもあるのではないかという感じはしています。

【福田】 菅野先生はいかがでしょうか。将来像、将来の学科の姿としては、どんなものがよろしいでしょうか。

【菅野】 やはりせっかく新しい形で学科を開設したし、伝統的な法律の基礎は重要性が全く失われないわけですけれども、やっぱりいわば有事とまでは行かないとしても、すぐに解決しなければならない問題に対処していく姿勢を持った卒業生が出ていくというのが、新しい学科の目指すべき一つの点ではないかと思います。
それでそのためには、いろいろと現代的な知識を身に付けなければいけないと思います。それは1つには自然科学の知識でもあろうし、それから法律でも非常に先端的な部分があるわけですから、それが消費者法であり環境法であるということだと思いますので、そういうことを重点的に勉強できるように、これからもカリキュラムを適宜変えながら、将来を見すえて発展していけばいいのではないかというふうに思います。

【福田】 最近高校から大学に行くときに、結構大学選びの中に出口を意識して大学を選ぶなんていうことがありますよね。それでそのときの出口というのは、例えば高校なんかに大学の説明会を、説明をしてくれと言うので開くときに、驚くほど具体的な出口の質問があります。司法書士試験に受かった場合に、就職する事務所の紹介を大学がしてくれるのですかという質問を受けたことがあります(笑)。高校1年か2年の生徒さんからの質問ですけれどね。そういう時代にあって、出口と言ったときに、かなり資格だとか具体的なものになってきますね。それと昔の大学の場合は人格の陶冶や教養とか、具体的なものとして語ることが難しいものが1つの理念になっていたと思います。ですから今の時代、何を大学の像として描くかというのは、大変難しいのですけれども、鶴貝先生はどんなふうにお感じでしょうか、学科の将来像は?

【鶴貝】 せっかく新しい問題を多く扱う学科ですので、何かを知っている、修得するというだけではなくて、何かを考えられる学生というのが育っていくと私はうれしいなと思う。情報処理スキルというのも全くそれと同様で、何か操作を知っているというのが情報処理スキルではなくて、その操作の上で新しい問題を、どういうふうに加工したり解くのかということを考える能力が、情報処理スキルですから、まさに法律でも情報でも何か考えるということを目標にした学生が、うちの学科へ入って、そういう訓練をしていただければいいと思います。

【福田】 だから、わたしが昨今こういう出口の具体化について抱いていた危惧というのは、大変短兵急に何か将・来のある具体的な事に繋がるためだけの大学の存在という位置づけです。確かに今までの日本の多くの大学では余りに欠けていた視点、またはそれほど考えなくても良かった視点だったので、その反動として職業準備のために適している大学だけが、つまり出口がはっきりした大学だけが、良いのではないかという考えに、ちょっと反発を感じていたものですから、そういう意味では今、鶴貝先生がおっしゃったようなことについては、全面的に賛成します。最後に京藤先生に学科の将来像を、先生の個人的なお考えでいいのですが、開陳していただければと思います。

【京藤】 そうですね。今、鶴貝先生、福田先生がおっしゃったのと同じことですが、不況の時代には若い人の関心はどうしても資格といったものに向きがちですが、大学というのは、基本的には、自分自身がそこで一人前の人間として大きく育つための場所ですし、リベラル・アーツという言葉は、いろんな解釈の仕方があると思いますけれども、ものを考える力というものが身に付く場所なのですよね。
そんな点で、私は、この学科は、今でも時代の最先端の要請にこたえる学科として、今なお、新しさ、先進性を持っている。持っているからこそ、解決すべき問題にも非常に早い段階で直面するともいえるのではないでしょうか。伝統的な法律学科で法学教育をやっていく場合にも、法律が非常に増えて、かつ、細分化されてくるので、手に余るようになって久しいのです。30年前ぐらいに勉強したときには、法学部での教育で、基本的な法律のかなりの部分については勉強できたといえなくはなかったのですけれども、今は、とてもとても、法学部の教育ではこなせない、それでいて重要と思われる法分野が増えています。
そうなると、学部での教育では、法学全体、法学の全体像をつかむということは不可能になっているのですね。そんな妄想に取り付かれたら、今は自滅するしかないと思います。消費情報環境法学科は、新しい科目を積極的に取り入れたために、非常にタイトになって、基本的な法律科目についても選択や選択必修にまわさざるを得なくなった。そして、そういう選択をすでにしたわけです。
そう考えると、今後も、全体像を要領良く4年間で学生に与えるということは、到底できない相談なので、新しく先端的な問題に即して法的なものの考え方を訓練するというかたちで法律の勉強をしていくという道しかない。法制度の全体像を与えることはできない相談である以上、その道しか考えられない。問題を通して、いろいろな法学の基本的な道具を組み合わせて、どう解決するかというアプローチで、実践的に問題を解決する思考の仕方を養うような学科として今後も展開していくと良いなと思います。新しい問題が登場してきた場合に、この学科のカリキユラムの中に、まさに現代の法を学ぶという上で、どう組み込めるのか、どれが適切な科目かを見直し、取捨選択をしながら成長していけばいいのではないかと思っています。ですから立ち上がりの時期の、当初はこういうコンセプトだったから、これをずっと維持していこうという伝統墨守というよりも、むしろ時代の重要な変化というものに合わせて、現象面では非常に変幻自在に変わりながら、それでいて、不易流行と言われる部分については、少なくともそこの基本的な問題を考えないと、新しい問題についても根本的な解決はできないということを教師の側としてはメッセージとして学生にしっかりと伝え、それをきっかけとして、学生が、基本的な法律の非常に重要な部分について、しっかりと自分で勉強するというようなスタイルで学んでいってくれるような学科になっていってほしいなと、思っています。


【福田】 京藤先生のお話で思い出されることは、20世紀初頭ドイツのシュタムラーが唱えた内容可変な自然法ですね。内容可変な消費情報環境法学科なので、枠としては、永久不滅ということですね(笑)。どうもありがとうございました。