ホーム > 10周年に寄せてメッセージ > 学科に貢献いただいた先生方からのメッセージ > 佐藤一雄先生

学部長メッセージ10年間で貢献いただいた先生方卒業生メッセージ在学生メッセージ現職教員メッセージ

消費情報環境法学科勤務時の思い出

元法学部教授 佐藤一雄先生


 

 早いもので、消費情報環境法学科も設立10周年を迎えられたとのこと、誠におめでとうございます。学科関係の先生方はもとより、学部や学校当局の御努力、そして何よりも学生諸君の頑張りによって、本学科も、明学はもとよりのこと、新しい大学教育の一翼をなすに至ったと思われることは、誠に感慨深いものがあります。また、大学当局から送っていただいた文書によると、改修されたチャペルの新しいパイプオルガンも見事に完成したようで、誠におめでとうございます。添付されていたCD―ROMによって、その映像とともに、その音色も拝聴いたしました。
 私事ながら思い起こしますと、私は52歳まで一般職の公務員として公取委事務局に勤務した後、1990年(平成2年)に、その当時初めて新設された筑波大学の夜間開講の社会人大学院(東京都文京区大塚所在)の教員となり、一日の勤務後の夜間と土曜日にキャンパスに通ってくる、東京圏のビジネスマンやOLに、多様な「ビジネス法」の一部である独禁法や消費者法を講義していました。消費者法については、1996年に「新講・現代消費者法」(商事法務研究会)という拙著を出版したのですが、この本が、たまたま当時の本学法律学科主任であられた先生の御目にとまったようでして、非常勤講師就任の御依頼をお受けしました。私の本来の専門分野である「経済法」の重要性もさることながら、「消費者法」の分野の重要性をも痛感しておりました私は、夜間社会人大学院の休日となる月曜日に、最初はこの本を教科書に、またその後は講義用のレジュメを用意しつつ、昼間・週1の「法律学特講Ⅰ」として、経済法的な「消費者法」を講義しておりました。
 そうするうちに、法学部では、『消費情報環境法学科』と言う、時代の先端を行く学科の新設構想を持つに至っておられました。一般基礎科目をベースにしつつも、消費者法・企業法・環境法の3分野の法を柱とするカリキュラム構成に加えて、情報処理と言う、IT社会へ的確に対応するためのスキル養成科目をも盛り込んだ構想でありました。これは、私の本務であるビジネス法教育とほぼ同じコンセプトを持つ学科であり、その学部学生判であると私には思われました。3年間の非常勤講師勤務中に、新設学科の立ち上時には、スタッフの一員になることになっておりました私は、2000年の設立時以後も非常勤講師として、新設された学科の共同研究室に立ち寄って、おいしい一杯のコーヒーをいただきながら、『消費情報環境法』という学科名と同じ科目名の講義(ただし、この科目名は、その後教授会におはかりして『消費者問題と法』と改名してもらうことにしました。)のほか、『消費者行政法』、『国際消費者法』の講義に、次第に精を出し始めました。その後2002年に、社会人大学院勤務が定年を迎えると同時に専任教員として就任させていただき、以後明学の定年まで、専任教員として5年間お世話になったことになります。
 この間特に印象に残る思い出を探しますと、先生方との語らい、目黒界隈でのゼミの学生との楽しいコンパ、毎年春に実施される新入生の歓迎行事の模様などが、なつかしく思い出されます。私のゼミは、『法と経済学』とか『企業組織論』とか、学部学生にはとっつきにくい、私の研究関心に応じたテーマを掲げたゼミであったのにもかかわらず、例えば“就職活動”とは、未知の当事者同士が雇用契約と言う契約を取り結ぶ場合の、不可欠な“取引コスト”たる活動であるということになる等、ゼミに参加した学生諸君が、その内容を実によく理解してくれたことに、今でも感心するとともに感謝しています(私の拙著「米国独占禁止法」(2005年、信山社)でも、会社組織や契約の、「市場」のなかでの成り立ちの考え方を展開していますが、このゼミでその学説を簡潔に紹介した新制度派経済学者のO・Eウイリアムソンが、誠にうれしいことに、2009年度のノーベル経済学賞を受賞しましたことは、昨年秋の報道によって御承知のことと思います)。
 消費情報環境法学科の開設当初は、昼間と夜間の双方の学生がおりましたが、非常勤時代の私には夜間の聴講学生数は極めて少数の印象でした。その後何年度のことでありましたか、私も専任教員として夜間開講を廃止する改正提案も申し上げ、その後結局廃止されることになりましたが、その影響もあってか、横浜校舎を中心に全学的に教室が込み合うようになってきたように感じられ(るようになってき―削除)ました。そこで、大学の教務事務をお引き受けしてこの問題等に対処しようと努力を試みたこともありました。しかしながらその後体調を崩してしまう結果となり、結果的には大変なご迷惑をおかけすることになりましたことを、改めて皆さまにお詫びしなければなりません。当時御配慮いただいた先生方、大学当局には、心から厚く感謝申し上げるばかりです。その後も体調の回復に努めた結果、今ではすっかり元気にいたしておりますのでご安心ください。現役当時かなりのヘビースモーカーであって、明学本館8階の喫煙所等の限られた喫煙場所に終始出入りしていた私が、今日では無理なく禁煙を果たすことができ、日課の早朝ウォーキングも欠かさず実行して、今は体調も上々です。
 こうして今振り返りますと、皆さまのおかげにて、大卒後社会に出た1963年(昭和38年)以来、あしかけ27年間の公務員生活、その後都合17年間に及んだ大学の教員生活と、明学を最後に、併せて44年間に渉って仕事をさせていただくことができ、私事ながら70歳時には叙勲(2008年秋)もいただくことができました。定年後も少しでも社会貢献をさせていただくべく、私の専門分野である独禁法の関係では、昨年の歴史的な総選挙に先立つ、2009年6月に成立した改正独禁法の解説書(1995年の初版から数えれば8版目の改定版)を、公取委勤務時の仲間とともに鋭意作成中であり、本年4月中には刊行できると思います。
 学生だった頃の部活以来の趣味である「歴史の研究」も、定年後改めて「昭和史」研究あたりから始め、今は学生時代の原点に戻ったような気分です。スケールだけは大きく、歴史のタテ糸に日本史を、またヨコ糸に同時代の世界史を据えて、自分流の年表を作成しつつ、織物のような時空の座標軸を探りたいと願っています。ただし今後具体的にやれることといえば、世界遺産への旅行などということにはなりそうですが。そのテーマは、やや大げさに言うと、ゴーギャンの有名な絵画にいうところと同じであり、「我々(この場合は日本人)はどこから来たのか、我々とは何か、我々はどこへ行くのか」という永遠の問いです。

 イギリスの歴史学者E・Hカ―がいっているように、未知の未来を切り開くことを意識に据えて行う、我々の“現在と過去との対話が歴史である”という考え方は傾聴に値します。これだけグローバル化した現代にあっては、世界の中での我々の歴史的な「立ち位置」を一層見極めながら、この時代の変わり目に立ち向かうほかはないと思います。私が担当していた消費者法の分野では、周知のように、漸くにして「消費者庁」も発足しましたし、国民一般(即ち「消費者」)の目線に立った政治行政が一層目指されるようになるとともに、消費者法制等の制度の充実も今後益々進むものと思われます。短い間ではありましたが、お世話になりました明学法学部そして新しい教育理念に満ちた消費情報環境法学科が、今後とも益々盛んになられますことを心から祈念しつつ、筆ならぬマウスを置くことに致します。